大学新卒者が就く「職」はどう変わったか ―増える文系出身の専門・技術職、揺らぐ新卒一括採用の前提

2026年09月04日

日本の新卒採用については、就職率や採用者数の増減、ひいては就職難か採用難かといった労働市場の動向に対して大きな関心が向けられてきた。一方で、とくに大学を卒業した若者が新卒として実際にどんな職に就いているのか、またその中身が時代とともにどう変化してきたのかは、意外なほど知られていない。新卒入社は「就社」と形容されるほど、「会社に入る」というイメージが強く、その裏返しとして「職」そのものへの関心が薄かったことが理由の一つだと考えられる。
 
実は、大卒の若者が最初に就く職は、この20年で大きく変化してきた。本コラムでは、新卒入社者の「初職」に着目し、その変化の実態とメカニズムを見ていく。

増える専門・技術職、減る営業職

リクルートワークス研究所が2016年から実施している「全国就業実態パネル調査(JPSED)」のデータを用いて、2005年から2025年までに初職に就いた大卒者(大学院卒を含む)の初職職種の変遷を5年ごとに示したのが図表1である。職種については、200種類以上の選択肢から回答者が選んだものを10分類にまとめている。
 
まず目を引くのが専門・技術職の増加である。2005年の29.0%から2025年の39.1%まで10.1%pt増加しており、2025年では約4割にまで達している。また、2005年から5年ごとの結果を示しているが、この20年で増加し続けてきたことも大きな特徴だといえる。つまり、リーマンショック直後の2010年やコロナ禍の2020年を挟んでも増え続けており、景気循環による変動ではなく構造的な変化であると考えられる。
 
一方、この間減少トレンドにあったのは、営業職である。2005年の12.0%から20年間で7.1%へと4.9%pt減少している。また、事務職も2005年の32.6%から20年間で4.9%pt減少していることが確認できる。もっとも、事務職は2020年に一時的な増加も見られる。それ以外の職種については、かならずしも一貫した傾向は確認できない。
 
図表1 初職職種の変遷図表1 初職職種の変遷

(出所)JPSED2016~2026 
(注)調査時に大卒、20~59歳であり、初職が雇用者の人が対象。調査時点の職種ではなくその人が初めに就いた仕事の入社年と職種の情報を用いている。JPSED2016からJPSED2026までの11年分のデータをプールしたうえで、各個人は1ケースとして分析に含まれるようにした。5.0%未満の値ラベルは省略


増加の主因は、文系から専門・技術職に就く人が増えたこと

専門・技術職が増えたと聞くと、理系人材の需要が拡大する中で、理系からIT系の専門職などに就く人が増えたのではないかと思われるかもしれない。だが、実際に大きく増えたのは文系の専攻を卒業して専門・技術職に就く人である。

図表2では、初職が専門・技術職である人の増加に対する要因分解を行った結果を示した。初職が専門・技術職である人が増える要因としては、①医学部や薬学部などの専門・技術職に就きやすい専攻を卒業する人が増加した(専攻分布の変化)、②もともと専門・技術職にそれほど就かなかった専攻から専門・技術職になる人が以前よりも増えた(専攻×職種の変化)、③それ以外の複合的要因(複合効果)、という大きく3つのものが考えられる。図表2では、①を青、②をオレンジ、③を緑で示している。
 
これを見ると、とくに2020年と2025年での専門・技術職の大きな伸びは、主に専攻×職種の変化(上述の②)が要因であることが分かる。専攻と職種のそれぞれの中身を詳しく見ると、社会科学の専攻からプログラマ、システムエンジニアなどのソフトウェア・インターネット技術者に初職で就く人が増えている。2005年には3.8%だったが、2025年には7.7%と倍増している。また、社会科学ほどではないが人文科学の専攻からソフトウェア・インターネット技術者になる人も微増が見られる。スマートフォンの普及やIT化、DX推進が進む中で、理系人材の供給不足もあってか、文系からそれらの専門・技術職に就く人が大きく増加したのがこの20年だった。
 
なお、医学・薬学のような専攻直結型の増加はごく一部にとどまっていた。これらを考え合わせると、初職が専門・技術職である割合が増加したものの、大学での専攻の専門性が職務に直結する専門職化が進んだ訳ではないといえる。専門・技術職増加の主役は、専攻を問わず人材を受け入れるという旧来の新卒一括採用を経て専門・技術職の職務に就く、社会科学系出身のソフトウェア・インターネット技術者であった。
 
図表2 専門・技術職増加の要因分解(2005年からの変化)図表2 専門・技術職増加の要因分解(2005年からの変化)

(出所)JPSED2016~2026
(注)Blinder-Oaxaca分解。専攻は最後に卒業した大学・大学院での人文科学(文学、史学、哲学、心理学、教育学など)/社会科学(経済学、経営学、商学、法学、政治学など)/自然科学(工学、理学、農学、情報工学など)/医学・薬学/その他という5分類を用いた。職種については、初職が「専門・技術職」であるかどうかの2値変数として用いた。なお、専攻の情報がないケースが一部存在し、それらを分析対象から外しているため、図表1から計算される値と完全には一致しない。

企業で働く専門・技術職の需要拡大が「新卒一括採用」を位置づけなおしている

最後にここまでの結果が意味することを考えたい。従来、日本の新卒一括採用は、専攻や専門性を問わずに総合職として採用し、異動を通じてジェネラリストとして育てる仕組みを取ってきた。そこでは、人事部門を中心に企業が主導し個人はそれに従う形で、異動による経験の蓄積を通じた育成戦略を取ってきたとされる。
 
言い換えれば、従来の育成は、企業が設計して個人は企業にゆだねるものであり、人事部門が想定するキャリアの段階を踏んで新卒者が成長していくものだという前提の上に成り立っていた。しかし、初職で専門・技術職に就く人が約4割となった今、この前提が当てはまらない人が相当数存在するようになった。
 
もちろん、初職の職種が専門・技術職であるからといって、その全員が専門職採用で入社した訳ではない。総合職として採用されたうえで、配属の結果としてプログラマやシステムエンジニアの職務に就いている人も多いだろう。だが、だからこそ従来的な育成の仕組みの前提が変わったことに注意する必要がある。
 
専門・技術職は、専門技術が他職種よりも体系化されている場合が多いため、職務を通じた専門スキルの蓄積やその職種の中での成長ルートが本人に見えやすく、自身の成長に自覚を持ちやすい。これは配属および異動の裁量を企業側が持つこととの相性が悪い。配属・異動を行う企業側の意図と、蓄積したスキルや成長ルートを踏まえて本人が描くその後のキャリアの見通しとの間に大きなズレが生じかねないためである。
 
実際に、採用と育成の仕組みに対して、職種別採用や社内公募での異動、配属・異動に際して本人の意向を確認する運用の導入など試行錯誤を重ねている企業も多い。個人の側から見ると、専攻での学びが初職にかならずしも直結しない人が多い構造は今も維持されており、専門性は入社後の職務を通じて形作られる部分が大きい。だからこそ、専門・技術職として働き続けるとしても数年で異動するとしても、入社後の学びが求められることになる。その意味で、「新卒一括採用」という看板は従来通りであってもその前提が大きく揺らいでおり、採用の先にある育成も含めた再設計が求められている。

山口 泰史

リクルートワークス研究所研究員/アナリスト。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学、修士(教育学)。東京大学社会科学研究所・特任研究員、帝京大学高等教育開発センター・助教などを経て、2023年4月より現職。