キャリアショックに直面する人を、どう支えるか
キャリアショックは、個人の経験ではあるが、実際には組織が支援すべきテーマでもある。従業員がキャリアの転機に直面したとき、どのような環境や制度が支えになるのだろうか。本稿では、組織が持つ「支援のための資源(=組織資源)」に着目し、キャリアショック後の心理的変化との関係を分析した。
組織資源とは何か――「相談できる人」や「見直せる環境」
調査ではまず、従業員が活用できる組織資源がどの程度あると認識しているのかを確認した(図表1)。組織資源の肯定率(「そう思う」と「非常にそう思う」を回答した割合の合計)では、「会社は、従業員が新しいスキルを習得できる研修や教育の機会を提供している」が24.2%、「職場には、キャリアの悩みや困難を相談できる上司や同僚がいる」が23.9%、「仕事とプライベートのバランスを保ちながらキャリアを考え直せる環境がある」が23.6%と高い一方で、「会社には、キャリア形成について相談できるメンターやアドバイザーがいる」が10.8%、「会社には、キャリアチェンジやセカンドキャリアを支援する制度がある」が12.6%と低かった。ただし、すべての項目で肯定率が3割よりも低く、キャリアショックに対応するための組織資源を利用することが難しい状況であると考えられる。
図表1 組織資源の度数分布
どのような支援が心理的変化を促すのか
次に、組織資源がキャリアショック後の心理的変化にどのような影響を与えるのかを検討した。焦点を当てたのは、次の3つの変化である。
- 将来への内省:将来について考える機会が増えること
- 過去の捉え直し:これまでのキャリアを振り返り、意味づけを変えること
- 新たな挑戦:これまでと異なる行動を取ること
分析の結果からは、「仕事とプライベートのバランスを保ちながらキャリアを考え直せる環境がある」という組織資源の影響がキャリアショック経験後の変化に対して最も影響が見られた。また、過去の捉え直しは、「キャリアの悩みや困難を相談できる上司や同僚がいる」ことによって促されていた。新たな挑戦は「現在の職場では、希望すれば新しい業務や役割にチャレンジする機会がある」ことによって促されていた。つまり、キャリアを考え直せる環境が、キャリアショックからの心理的変化をもたらす上で重要となると考えられる。
図表2 組織資源によるキャリアショック後の心理的変化への影響
注)組織資源の項目がキャリアショック後の心理的変化に及ぼす影響を検討するため、ステップワイズ法による重回帰分析を実施した。
キャリアショックの内容によって異なる支援効果
次に、キャリアショックの内容ごとに組織資源がどのような影響をもたらすのかを詳しく検討した。つまり、「どんな出来事によってキャリアショックが起きたのか」によって、支援の効果が異なるのではないか、という視点である。
分析では、キャリアショックの経験を次の8つに分類し(https://www.works-i.com/research/project/careershock/surveys/detail004.html)、それぞれで回答者が分析をするのに十分であると判断された以下の5つのグループを対象に、「どんな職場の資源が心理的変化を促すのか」を比較した(注)。
- 雇用・経営の変化(例:会社の方針転換、事業の縮小など)
- キャリア上の地位変化(例:昇進・降格・異動など)
- 職場の関係トラブル(例:上司・同僚との対立や不信感など)
- 私生活・家庭事情(例:介護、家族の病気、離婚など)
- 社会的・外的要因(例:災害や景気変動、社会情勢の変化など)
その結果、支援効果には違いが見られた。詳しく確認していく。
「将来を見つめ直す力」を高める支援のあり方
まず、これからのキャリアをどうしていくかを考えることである「将来への内省」に注目すると、どのグループでも共通して効果があったのは、「仕事とプライベートのバランスを保ちながらキャリアを考え直せる環境があること」だった(図表3)。
また、「悩みを相談できる上司や同僚がいる」ことは、「職場の関係トラブル」や「私生活・家庭事情」といった人間関係に起因するショックの場面で特に効果的だった。信頼できる人に話を聞いてもらえることで、気持ちが整理され、将来への意欲を取り戻しやすくなるからであると考えられる。
一方で、「社会的・外的要因」(災害や社会変動など)の場合は、同じ相談環境がかえって将来を考える意欲を弱める傾向も見られた。社会全体が不安定な状況では、周囲の支援があっても個人の見通しを立てにくいことが影響していると考えられる。
図表3 キャリアショックの内容別の将来への内省に影響を及ぼす制度
さらに、「キャリア形成を相談できるメンターやアドバイザーがいる」という職場では、「雇用・経営の変化」や「職場の関係トラブル」が起きた場合に将来を考える動きが弱まる傾向があった。方向性を示してもらえること自体は安心につながるが、その分、自分の中で考え抜く時間が減ってしまうことが影響していると見られる。
逆に、「希望すれば新しい業務や役割にチャレンジできる機会がある」職場では、「キャリア上の地位変化」や「職場の関係トラブル」の後に、将来への内省が活性化する傾向が見られた。また、「テレワークやフレックスタイムなど柔軟な働き方ができる制度」も、職場関係のトラブル後に前向きな内省を促していた。
つまり、キャリアショックを経験した人が「自分のキャリアを見つめ直し、自らのペースで働き方や方向性を見直せる」職場ほど、ショックからの立ち直りや再出発が進みやすいといえる。
過去を振り返り、意味を見つけ直すきっかけ
次に、「過去の捉え直し」──つまり、これまでのキャリア経験を振り返り、その出来事の意味を新たに考え直す変化──について見てみよう。
この分析も、キャリアショックの内容ごとに、どのような職場の支援が「過去を前向きに捉え直す力」を高めるのかを分析した。結果として、「仕事とプライベートのバランスを保ちながらキャリアを考え直せる機会がある」ことが、どの種類のショックにおいても、過去の捉え直しを促していた(図表4)。つまり、落ち着いて自分のキャリアと向き合える時間や環境があることが、出来事の受け止め方を変えるきっかけになっている。
図表4 キャリアショックの内容別の過去の捉え直しに影響を及ぼす制度
さらに、「キャリアの悩みや困難を相談できる上司や同僚がいる」ことも重要だった。
特に「職場の関係トラブル」や「私生活・家庭事情」のように、人との関わりが深く影響するショックでは、信頼できる相手に話を聞いてもらうことが、過去の出来事を整理し、新しい視点を得る助けになっていた。
また、「希望すれば新しい業務や役割にチャレンジする機会がある」という職場では、「キャリア上の地位変化」を経験した人にとって、過去の経験を前向きに活かす力が高まっていた。例えば、昇進や異動など環境が変わる場面では、新しい挑戦の機会が、過去の出来事の意味づけを変え、「これまでの経験が今にどうつながっているのか」を見いだす契機になっていたと考えられる。
ショックをきっかけに「新たな挑戦」へ踏み出すには
最後に、キャリアショックを経験した後に現れる心理的変化の3つ目である「新たな挑戦」について見てみよう。ここでいう新たな挑戦とは、ショックを経験した後に、これまでとは違う仕事の仕方や役割を試してみる、あるいはキャリアの方向性を変えてみるといった行動の変化を指す。
図表5 キャリアショックの内容別の新たな挑戦に影響を及ぼす制度
分析の結果、「仕事とプライベートのバランスを保ちながらキャリアを考え直せる環境がある」ことが、「キャリア上の地位変化』以外のすべてのショックにおいて、新たな挑戦を後押ししていた。落ち着いて自分の状況を整理し、将来を考える時間が取れることが、行動を起こすための土台になっているといえる。
また、「キャリアの悩みや困難を相談できる上司や同僚がいる」ことは、「私生活・家庭事情」によるショックの際に、新しい一歩を踏み出す力を支えていた。身近な人に気持ちを共有し、理解してもらえることが、次の行動への安心感や自信につながっているのだろう。
さらに、「希望すれば新しい業務や役割にチャレンジできる機会がある」職場では、「キャリア上の地位変化」「職場の関係トラブル」「私生活・家庭事情」のいずれにおいても、挑戦意欲を高める効果が確認された。
例えば、異動や昇進で環境が変わった人にとっては、「自分の意思で挑戦できる」経験が、受け身ではなく前向きにキャリアを捉え直すきっかけになっていたと考えられる。また、職場関係や家庭の事情など、行き詰まりを感じるようなショックであっても、新しい役割に取り組む機会が「再出発のきっかけ」になっていた。
この結果から見えてくるのは、「新たな挑戦」は特別な意欲の問題ではなく、落ち着ける環境・信頼できる関係・自ら選べる機会が揃ったときに自然に生まれる行動だということである。キャリアショックを前向きな変化へとつなげるために、組織はこうした条件を整えることが鍵になる。
キャリアショックからの変化を支える環境とは
以上の分析をまとめると、キャリアショックを経験した後に生じる心理的変化——「将来への内省」「過去の捉え直し」「新たな挑戦」——はいずれも、職場環境や支援のあり方(=組織資源)によって大きく左右されることが明らかになった。
中でも最も広く影響を及ぼしていたのは、「仕事とプライベートのバランスを保ちながらキャリアを考え直せる環境」である。キャリアショックを受けた直後は、心身の負担が大きく、将来を前向きに考える余裕が失われがちとなる。だからこそ、働きながらでも自分のペースで立ち止まり、考え直すことのできる環境が不可欠になる。
また、「キャリアの悩みや困難を相談できる上司や同僚がいる」ことは、特に「職場関係のトラブル」や「私生活・家庭の事情」など、人間関係や生活の変化が関わるショックにおいて効果的であった。信頼できる他者に悩みを打ち明けたり、支えを得たりすることで、ストレスが軽減され、次の一歩に踏み出しやすくなる。
さらに、「希望すれば新しい業務や役割にチャレンジできる機会がある」ことも、「職場関係のトラブル」や「私生活・家庭の事情」、そして「キャリア上の地位変化」といった場面で、新たな挑戦を促す契機となっていた。自らの意思で挑戦を選び取れる機会があることが、キャリアショックを「再出発のきっかけ」に変えていく。
一方で、「キャリア形成について相談できるメンターやアドバイザーがいる」ことは、必ずしもすべての場面でプラスに働くわけではなかった。特に「雇用・経営の変化」や「職場の関係トラブル」では、メンターからの助言がかえって内省を抑える傾向も見られた。ショック直後には、他者の指針よりも自分自身で考える時間が必要になるのかもしれない。
組織に求められるのは「考え直すための余白」
これらの結果が示すのは、キャリアショックを受けた従業員に対して、組織が「解決策を提示する」よりも先に、考え直すための余白を提供することの重要性である。
キャリアショックは一時的な出来事ではなく、自分のキャリアを見つめ直す長いプロセスの始まりである。そのプロセスを支えるのは、十分な時間、支えてくれる人間関係、そして新たな挑戦の機会だ。
企業にとっても、こうした環境を制度や仕組みとして整えておくことが、従業員の自律的なキャリア形成を促し、結果として組織全体の持続性を高めることにつながるだろう。
※注
8つのキャリアショックの内容から「雇用・経営の変化」「キャリア上の地位変化」「職場の関係トラブル」「私生活・家庭事情」「社会・外的要因』の5つを選定し、それぞれのキャリアショックごとに回答者を分類し、組織資源を説明変数、「将来への内省」「過去の捉え直し」「新たな挑戦」を目的変数とする多母集団同時分析を実施した。
多母集団同時分析:複数のグループ(ここではショックの種類ごとの5グループ)を同時に分析し、同じ要因(組織資源)がグループによってどのように異なる影響を与えるかを比較する統計手法。
調査概要
キャリアショック調査:2025年3月7日~3月17日、インターネット調査。40~64歳に対し、本調査では、性別・年代・エリア・雇用形態の構成比について、2024年10~12月に実施された労働力調査の結果に準拠した。その上で、スクリーニング調査におけるキャリアショック経験者の出現率を掛け合わせ、市場構成を反映した標本設計を行っている。スクリーニング調査回収数:10,000s 本調査回収数:2,000s
調査では回答しづらい内容があることを同意した上で回答に進める仕組みとしており、キャリアショックの具体的な内容については、回答者の心理的な負担に配慮して任意回答や非回答の選択肢を設置した。
高田 治樹氏
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