「無意味な仕事」の増殖を止める半径5メートルの対話。AI時代に求められる、マネジメントの「解釈の転換」
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO / 東京大学大学院 情報学環 客員研究員 安斎 勇樹氏
デヴィッド・グレーバーの著書で広く知られるようになった「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」。この難題に対し、人と組織の創造性を探究し、「人をネジや歯車のように扱う『軍事的世界観』から脱却し、個人の衝動を起点にする『冒険的世界観』へシフトせよ」と提唱する安斎勇樹氏は「理想的な組織を作れば無意味な仕事が消滅する、というのは幻想だ」と語る。絶えず意味が揺らぎ続ける現代において、私たちは、そして現場のマネジャーはどう立ち向かえばいいのだろうか。
1. 「冒険する組織」でも生まれてしまう“無意味な仕事”
豊田:私たちの研究プロジェクトでは、取り組む意味が感じられない「無意味な仕事」を、日本のビジネスパーソンの実態に合わせて以下の4つに分類しました。
【日本版ブルシット・ジョブの4分類】
- ジャンク・ワーク(ムダな仕事):なくしたり省いたりしても問題はないのに、慣習や決まり事として行われている仕事
- ホープレス・ワーク(報われない仕事):仕事としての必要性は否定できないが、労力をかける意味が見出せず、やりがいが感じられない仕事
- ラビリンス・ワーク(うまく行きそうにない仕事):目的や意図は理解できるが、このままの体制や状況ではうまく行きそうにない仕事
- フェイク・ワーク(作られた仕事):一見すると意味や目的がありそうだが、実現しても大した成果や価値を生まない仕事
この分類を見て、安斎さんはどのような印象を持たれましたか。
安斎:いや、この分類はめちゃくちゃ素晴らしいですね。組織診断の解像度が劇的に上がりそうです。ただ、これに対する処方箋を考えようとすると、ものすごく複合的で難しい問題だと分かります。
よく「人間をネジや歯車のようにぞんざいに扱うから無意味な仕事が生まれるんだ」と言われます。僕の著書『冒険する組織のつくりかた』の言葉を使えば、ビジネスを戦争と見立ててトップダウンの指令と管理統制で動かす「軍事的世界観」が原因である、と。だからそれを脱却して、個人の内発的動機や探究心をベースにする「冒険的世界観」にシフトしよう、という話になるのですが、実は話はそこまで単純ではありません。
一人ひとりの自己実現と組織の成長を接合する経営(CCM)を提唱し、自身でも実践している僕たちMIMIGURIですら、「このプロジェクト、本当に意味ある?」という仕事は、うっかりすると発生してしまうんです。
橋本:人を大切にする「冒険する組織」であっても、生まれてしまうと。
安斎:そうなんです。なぜなら、「無意味な仕事の多くは、かつては意味があった仕事」だからです。半年前は確かに大義があったし必要だったタスクでも、激しい外部環境の変化やAIの台頭によって、最適解は一瞬で変わります。組織をダイナミックに動かせば動かすほど、「かつては整合していたけれど、今は意味が失われてしまった仕事」が発生し続けるのは防ぎようがありません。
さらに今は、AIの凄まじい成長によって「将来、自分の仕事が意味を失うかもしれないという不安」が押し寄せている。すると人間は、自分の存在や自尊心を守りたいがゆえに、必死に意味を捏造したり、隣の部門に価値をアピールしたりする「フェイク・ワーク」を余計に誘発させてしまう。今の企業は、こうした非常にナーバスな状況に置かれています。
2. 意味が揺らぐ世界を遊び続ける唯一の方法
豊田:自分の仕事の意味が本質的に揺らいでいく中で、働く個人はどのようにこの現実と向き合えばいいのでしょうか。
安斎:身も蓋もない話をすると、「私のやっている営業は、このサービスは、本当に社会に必要なのか?」と、頭を使って俯瞰で考えれば考えるほど、現代は鬱々としていく構造にあります。僕だって「毎年頑張って本を書いている意味って何だろう? SNSのフェイク投稿が100万インプレッション稼いで世界を動かしている中で、真面目にデータを集めて書いた本に意味はあるのか?」と30回くらい詰問されたら、「ないかもしれないです」って謝っちゃうと思う(笑)。
だからこそ、世界に対する絶対的な意味を求めるのを諦めることです。結局のところ、「本人が意味があると思えているかどうか(主観)」がすべて。僕が本を書くのは、単純に創作が面白いし楽しいからです。その上で、予算がつくように屁理屈(大義名分)をつけたりマーケティングを必死にやったりしている。
当事者にとって仕事の意味が成り立つ要素は、突き詰めると「自己満足」と「半径3〜5メートルのフィードバック」の2つだけです。
自分がやっていて面白いという感覚。そして、目の前の顧客や読者、あるいはチームの仲間から「面白かった」「助かった」と感謝されたり期待されたりする観測可能なフィードバック。これさえあれば、人は十分に前を向いて働けます。これからの個人に必要なのは、この不確実で無意味な世界を、自分の興味のレンズで「面白がる力(探究リテラシー)」を身に付けて、したたかに遊び、生き抜いていくことではないでしょうか。
3. 内発的動機がない人なんていない
豊田:個人がそうやって「面白がる」ための土壌を作る上で、マネジャーの関わり方が重要になってきますね。ただ、現場のマネジャーからよく聞くのは「うちの部下には、そもそもやりたいことや内発的動機がないんです」という悩みです。
安斎:講演会などでも笑っちゃうくらい毎回受ける質問です(笑)。でも、それは認識がズレています。「ない」のではなくて、「あるんだけれども、これまでの学校教育や思春期の傷つき体験によって蓋をされ、抑圧されている」と捉えるべきです。
マネジャーがやりがちなのが、「何かやりたいことある?」という質問。これは、二重に良くない問いかけです。なぜなら「未来のこと」を「オープン(自由)」に聞いているから。内発的動機に蓋をされている人に対して、巨大な白いキャンバスを渡して「何でもいいから好きな絵を描いて」と迫るほど残酷なことはありません。
橋本:では、マネジャーはどう問いかければいいのでしょうか。
安斎:未来のオープンではなく、「過去のこと」を「クローズド(選択式)」で聞く、問いかけの工夫をすることです。
「今年やったA・B・Cの3つの仕事の中で、どれが一番やりがいあった? どれが一番マシだった?」と聞けば、誰でも選べます。「強いていえばBですかね」となったら、「なんでCじゃなくてBだったんだろう?」とその理由を掘り下げていく。その「差分」の中にこそ、その人の抑圧された内発的な衝動やこだわりが隠れています。
人間の主体性の最小単位は「選択すること」です。「何食べたい?」には答えられなくても、「和食か中華かイタリアンならどれ?」なら答えられる。マネジャーの役割は、部下の過去の選択の差分から衝動やこだわりを聞き出し、「だったら、うちの事業のこの課題と結びつけたら面白くない?」と、組織の目標へと翻訳・編集してあげるリハビリを行うことなのです。
4. 賞味期限切れの「謎のルール」と過剰模倣をやめる
橋本:個人の衝動やこだわりを呼び覚ます一方で、職場にある「無意味なルール」そのものをどうにかしないと、ジャンク・ワークは減りません。いざ変えようとしても「他部門や人事との調整が面倒だし、怒られたら怖い」と諦めて立ちすくむマネジャーも多いです。
安斎:無意味な仕事は、賞味期限の切れた無意味なルールや、合理的でない慣習を丸ごと再生産してしまう人間の特性(過剰模倣)から生まれます。マネジャーの大きな役目は、「これはもう真似しなくていい」と古い模倣をやめる防波堤になり、ルールの文面を「都合よく解釈する」ことでグレーゾーンの遊び場を部下に作ってあげることです。
その調整を突破する際、僕が変革に取り組むリーダーたちを見ていて思うのは、彼らは共通して「社内政治力が高い」ということです。政治力には「軍事的」なものと「冒険的」なものの2種類があると思うんです。軍事的社内政治力とは、自分の評価を上げ、資源を引っ張ってくるための情報操作。基本的には「クローズド(陰)」で行われる。冒険的社内政治力とは、対外的なイベントやハレの機会といった「オープン(陽)」な場を活用する。
橋本:オープンな政治力、ですか。
安斎:ええ。個別にクローズドな場で「これ変えたいんですけど」と相談すると、他部門の人から「でも誰々が気にするからやめておいたほうがいいよ」と、そこにいないお化けのせいにされてうやむやにされがちです。
だから、あえて関係者や役員が揃っているオープンな非日常のイベントなどを企画して、その場で若手から「このやり方って、本当に続ける意味あるんでしょうか?」と問題提起させる。みんながいる前で突っ込まれると、上の人も「いや、別にそんな決まりはないよ」「うまくいくなら実験してみたら」と言わざるを得なくなる(笑)。そういうオープンな場を使い、衆人環視の場で「言いましたよね?」と既成事実を作ってしまうような、いい意味での現代版の腹芸(冒険的政治力)が、古いルールを突破するためには必要なのだと思います。
5. マネジャーを“報われない仕事”から救い出す
豊田:ただ、そうやって部下をケアし、上層部と戦うマネジャー自身が、誰からもケアされずに「ホープレス・ワーク」や「罰ゲーム」に押しつぶされそうになっているのが今の実態です。マネジャー自身のケアはどうすればいいのでしょうか。
安斎:マネジャーがケアされていないのに感情労働を求められる構造は、本当に組織開発の最大のボトルネックです。これを一人で解決するのは無理ですが、ヒントは「同じ罰ゲームに遭った芸人同士はめちゃくちゃ結束する」という現象にあります(笑)。落とし穴に落とされた被害者の会、という発想です。
以前、ある会社のマネジャー研修を設計した際、情報が守られた場で「今一番手を焼いている部下を思い浮かべて、そいつがどんな奴か愚痴り合いしてください」というアイスブレイクを入れたら、一生やっていられるくらい盛り上がったんです。「そっちの部署にもいる? そういう奴!」って(笑)。
豊田:悩みを相対化して共有する場ですね。
安斎:そうです。「私とあなた」の相性の問題だと抱え込んでいたものが、「構造的にそういうことって起こりがちなんだな」と視点が広がるだけで、マネジャーはすごく救われるんです。
さらにこの研修では、すっきりした次の日から2週間、その手を焼いている部下を徹底観察してもらい、「苦手なメンバー」と呼ぶのを禁止します。代わりに「我がチームで最もマネジメントポテンシャル(改善のROI)が高いメンバー」と定義し直す。20人全員のマネジメントを変えるのは無理でも、その一番手を焼いている一人を覚醒させたら、チームの風土は一気にクリアになりますから。
自分自身のケアで終わるのではなく、解釈を変えることで「他人のポテンシャルを引き出す手応え」をつかむ。この成功体験のループを回すことこそが、マネジャー自身をニヒリズムから救い出し、職場を「冒険の船」へと変えていく確実な一歩になると信じています。
安斎 勇樹(あんざい ゆうき)
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO。東京大学大学院 情報学環 客員研究員。 1985年生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『静かな時間の使い方』『冒険する組織のつくりかた』『問いのデザイン』『新 問いかけの作法』などがある。
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