エイジフレンドリーへの取り組み

ケイコ オカ

2025年05月27日

「エイジフレンドリー」意識の高まり

2020年、日本では厚生労働省が「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(以下、エイジフレンドリーガイドライン)を策定し、企業に対して高年齢労働者の安全と健康へ配慮するよう促している。

国際的な動向としては、2007年に世界保健機関(WHO)が初めて「世界のエイジフレンドリーな都市」を出版し、高齢者を積極的に雇用する企業の支援や、高齢者の身体的特徴に配慮したまちづくりを行っている22カ国33都市を紹介している(※1)。

米国では、多くの都市がエイジフレンドリーなまちづくりを目指して多様な取り組みを行っている。さらに、エイジフレンドリー協会(Age-Friendly Institute)やAARP(※2)などの団体が、高齢者の雇用に積極的な雇用主を認定する制度を設けている。

エイジフレンドリー雇用主の認定

エイジフレンドリー協会は、2006年より、一定の要件を満たす雇用主を「エイジフレンドリー雇用主」として認定するプログラム(Certified Age Friendly Employer Program)を実施している。認定を受けるには、以下の要件を満たす必要がある(※3)。

  1. 従業員を能力、資格、貢献度に基づいて評価していること
  2. 50歳以上の従業員を支援する方針や慣行、プログラムを保持していること
  3. 従業員の知識、熟練度、信頼性、生産性を評価していること
  4. 50歳以上の従業員に対して、意義のある雇用、能力開発の機会、基準以上の給与および福利厚生を提供していること

2025年4月時点で、認定を受けた企業、団体、地方自治体は230を超えている。認定された雇用主は、「認定エイジフレンドリー雇用主」の標章が付与され、採用活動やマーケティングに活用できるほか、アナリストやほかの認定雇用主とのネットワークに参加する機会も得られる。

エイジフレンドリー事業のネットワーク

世界最大規模の高齢者NPOであり、約3800万人の会員を擁するAARPは、高齢者のニーズに配慮したバリアフリーな環境づくりを推進する事業者を「エイジフレンドリー事業者」として認定し、そのネットワークを拡大している(※4)。このネットワークには地方自治体も含まれており、マサチューセッツ州ボストン、オハイオ州クリーブランド、テキサス州フォートワースなどの都市が参加している。

マサチューセッツ州ボストンにおけるエイジフレンドリーへの取り組み(※5)

  • ボストン市は2014年よりAARPの「エイジフレンドリーな州とコミュニティ」に参加し、アクションプラン目標を設定して、「高齢者と認知症患者にフレンドリーな事業者」の認定制度を開始した。この認定を希望する事業者は、ボランティアのビジネスアンバサダーと面談し、従業員トレーニングを実施する必要がある。認定を受けた事業者は、店舗の店頭に認定証を掲示することが可能となる。これまでに認定を受けた事業者には、診療所、コーヒーショップ、銀行、ベーカリー、レストラン、美容院、ドライクリーニング店、酒店などが含まれている。
  • また、ボストン市は「エイジフレンドリー・ボストン」(※6) として、高齢者が、健康で充実した、生産的な生活ができるまちづくりを推進している。具体的な取り組みでは、高齢者にやさしい散歩道の整備、高齢者の孤立を防ぐための大学院生とのシェアハウス促進、高齢者向けキャリアセンターの設置などが挙げられる。これらの取り組みは、これまでに市内23の地域および70の組織によって実施されている。

職場におけるエイジダイバーシティとエイジインクルージョン

世界的に高齢化が進行するなか、働く高齢者の数も増加しており、グローバルな課題となっている。このような背景から、あらゆる年齢層が職場で能力を発揮し、活躍できる環境を意味する、「エイジダイバーシティ(Age Diversity)」および「エイジインクルージョン(Age Inclusion)」の重要性が高まっている。
経済協力開発機構(OECD)は、雇用主が年齢に対するバイアスを排除したダイバーシティ&インクルージョン戦略を採用し、全世代を対象とした継続的なトレーニング、ジョブローテーション、メンタリングなどを実践することで、生産性、イノベーション、従業員のレジリエンスが向上すると報告している(※7)。

人口動態の変化に対応し、職場において高齢労働者の能力を引き出し、生涯にわたるスキル構築を支援することができれば、人材不足を解消し、経済成長の鈍化を食い止めることが期待できる(※8)。エイジダイバーシティとエイジインクルージョンは、現代の雇用環境における喫緊の課題である。

(※1)World Health Organization(WHO), “Global Age-Friendly Cities: A Guide” (2007) https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/43755/9789241547307_eng.pdf?sequence=1 (last visited May 23, 2025)
(※2)米国の50歳以上の約3800万人を会員とする世界最大規模の高齢者NPOで、かつては “American Association of Retired Persons”(全米退職者協会)という名称で知られた。1999年にAARPを正式名称に変更。
(※3)Age-Friendly Institute, “Certified Age Friendly Employer Program” (2025) https://institute.agefriendly.com/initiatives/certified-age-friendly-employer-program/ (last visited May 23, 2025)
(※4)AARP, “Creating ‘Age-Friendly Businesses’” (2022)
https://www.aarp.org/livable-communities/network-age-friendly-communities/info-2022/businesses.html
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(※5)AARP, “Age-Friendly Business Examples” (2022)
https://www.aarp.org/livable-communities/network-age-friendly-communities/business-examples.html (last visited May 23, 2025)
(※6)City of Boston, “Age-Friendly Boston” (2024) 
https://www.boston.gov/departments/age-strong-commission/age-friendly-boston (last visited May 23, 2025)
(※7)OECD, “Promoting an Age-Inclusive Workforce” (2020)
https://www.oecd.org/en/publications/promoting-an-age-inclusive-workforce_59752153-en.html (last visited May 23, 2025)
(※8)World Economic Forum, “Investing in a More Age-Inclusive Workforce Can Help Us Navigate Demographic Shifts” (2024) 
https://www.weforum.org/stories/2024/12/investing-in-a-more-age-inclusive-workforce-can-help-us-navigate-demographic-shifts/ (last visited May 23, 2025)

ケイコ オカ

2001年大阪大学大学院法学研究科博士課程修了。専門は労働法。同年4月よりリクルートワークス研究所の客員研究員として入所。労働者派遣法の国際比較や欧米諸国の労働市場政策を研究する。