AIは自社をどのような雇用主として説明するのか――AIの回答に表れる企業像を可視化するHRテック

2026年10月29日

「この会社の評判はどうか」「企業文化は自分に合うか」「給与や働き方はどうか」。求職者が企業を探し、比較し、応募先を検討する際、ChatGPTやGeminiなどの生成AIにこうした質問をする場面が出てきている。
日本でも、株式会社CINCが2026年5月に実施した「就職・転職活動における生成AI利用の実態調査」では、生成AIを就職・転職活動に利用した770人の38.8%が「条件に合う企業の検索」、22.0%が「企業の調査(事業の深掘り/評判やリスクなど)」に利用している。また73.4%がAIの提示した情報によって企業の志望度の変化を経験している(※)。 
では、求職者が企業についてAIに尋ねたとき、自社はどのような雇用主として説明されるのか。企業は、その答えを把握しているだろうか。

AIの回答は、キャリアサイトだけでなく、ニュースや業界メディア、企業ランキング、口コミサイト、オンラインコミュニティ、SNSなどから得られるさまざまな公開情報を基につくられる。
同じ企業でもどのように説明されるかは、求職者が利用するAIによって変わる。あるAIでは候補企業として推薦されても、別のAIでは候補に挙がらないことがある。また、企業文化や報酬など、何を質問するかによって、AIが回答に用いる情報は異なる。
こうした複数の情報から形づくられる「雇用主としての評判」を、AIは求職者の問いに応じて再構成し、1つの企業像として提示する。
そのため企業にとっては、AIが自社をどのような雇用主として説明しているかも、採用ブランドを管理するうえで新たに把握すべき対象になりつつある。

ここで企業には、大きく2つの課題がある。1つは、キャリアサイトの情報がAIには読み取りにくかったり、「成長機会」「働き方」「報酬」「採用プロセス」など、求職者が知りたい情報が不足していたりすることである。
もう1つは、企業がEVP(従業員価値提案)や自社の強みを発信していても、口コミやニュースなど外部情報を基に、AIが異なる企業像を提示する可能性がある点である。EVPやキャリアサイトを刷新した企業でも、AIは過去の口コミや第三者情報を基に、企業が新たに発信した企業文化や価値観とは異なる説明をする場合がある。

こうした「企業が伝えたい雇用主像」と「AIが求職者に提示する雇用主像」のずれを測り、その原因を調べ、改善につなげるHRテックが登場している。
本稿では、PerceptionXの共同創設者カリム・アリ・アンサリ氏への取材を基にその機能を紹介し、他のプラットフォームとの比較から、この領域の広がりと今後の方向性を考える。

PerceptionXの注目ポイント

PerceptionX:求職者がAIに尋ねる質問を基に、雇用主としての評判を国・地域や職種別に分析

PerceptionXは、AIの回答に表れる「Employer Reputation(雇用主としての評判)」を国・地域や職種別に計測し、回答に示される引用元や関連情報源を分析して改善につなげるプラットフォームである。主な顧客は、複数の国・地域で採用活動を行うグローバル企業である。
サービスは「Measure(計測)」「Strategy(戦略)」「Amplify(改善・発信)」の3領域で構成される。データ収集やプロンプト設計、一部の分析は自動化し、戦略立案やコンサルティングは人が担っている。

「Measure」では、求職者への聞き取りや独自調査を基に、求職者がAIにどのような質問をするかを調べる。そこに顧客企業が採用したい国・地域や職種などの情報を組み合わせ、企業ごとにAIへ入力する質問(プロンプト)をつくる。これを各AIに入力し、返された回答を集計・分析する。
分析では、総合的な評判スコアに加え、Visibility(回答への登場頻度)、Sentiment(説明の肯定・否定度)、Relevance(求職者が重視するテーマについて、信頼できる新しい情報があるか)の3指標を数値化する。また、応募プロセス、キャリア機会、報酬、企業文化など求職者が知りたい18のテーマについて、強みや改善余地を分析する。
企業はダッシュボードやレポートで、結果を国・地域、職種、AIモデル別に確認できる。さらに、自社と並べて提示される競合や、回答に示された引用元、関連する口コミサイト、ニュース、SNSなども調べられるため、どの市場・職種でどのような企業像が示され、その背景にどのような情報があるかを把握できる。

「Strategy」では、改善対象を①キャリアサイトやLinkedInなどで自社が発信する情報、②ランキングやPR記事など外部メディアの情報、③企業口コミサイトやオンラインフォーラムなどで個人が発信する情報の3領域に整理する。そのうえで、どの国・地域のどの職種で、どのテーマに改善の余地があるのかを特定し、働きかけるべき媒体を絞り込む。そして、「ドイツ、フランス向けのキャリアサイトを補強する」といった具体的な改善策を優先順位とともに企業に提示する。
アンサリ氏は、キャリアサイトを単なる求人の掲載場所ではなく、企業文化や働く環境などについてAIに情報を伝える「ナレッジベースとして整えることも重要だ」と指摘する。

「Amplify」では、PerceptionXが、従業員、アルムナイ、応募者の声をどの媒体で生かすべきかなど、改善策の実行を支援する。実施は基本的に企業側が担い、PerceptionXは必要に応じてコンテンツの方向性の検討やメディアへの働きかけを支援する。
実施後は、Visibility、Sentiment、Relevanceなどを再計測し、実施前後の変化を見ながら次の改善策を検討できる。

取材でアンサリ氏が紹介したのは、ある大手メディア企業の事例である。同社では、日本のnoteやOpenWork、韓国のNAVERなど現地媒体での自社の存在感の弱さを特定した。各媒体での活動を増やした後、日本と韓国からキャリアサイトへの流入が増えたという。

AIが示す企業像を把握・改善するHRテックの広がり

PerceptionX以外にも、採用領域で、生成AIが企業をどう説明・推薦するかを分析し、採用ブランドの改善につなげるHRテックが登場している。ただし、各社が重視する分析内容や、改善に向けて支援する範囲は異なる。

  • 採用マーケティングや採用ブランド支援を手がけるSymphony Talentは、「AI Search Visibility Solutions」で、データ分析ツールを利用してAIの回答における企業の登場頻度や説明内容を計測し、採用ブランドの専門家が改善を支援する。さらに、キャリアサイトやジョブディスクリプションを確認し、職種、勤務地、報酬などの情報がAIに読み取りやすく整理されているかまで診断する。

  • Noopex AIは、求職者が企業研究でAIに尋ねそうな質問を企業ごとに25以上設定し、22種類以上のAIの回答を収集・分析する。回答を、企業文化や働く環境についての評価、経営陣への信頼、有害な企業文化のリスク、業務負荷や燃え尽きの兆候の4つの指標で評価し、その変化を追跡する。

  • BrandScoreは、企業が発信するEVP(従業員価値提案)と、AIの回答に表れる企業像のずれを分析する。また、自社と競合企業のキャリアサイトや求人広告などの発信内容を比較し、AIの回答に示された引用元とあわせて、EVPを裏付ける情報の不足や改善点を把握する。AIの回答の変化も継続的に追跡する。

  • テック人材向けのキャリア情報サイトを運営するBuilt Inは、「Employer Intelligence Platform」で、ChatGPTやGoogle検索のAIによる概要などでの企業の紹介・評価の分析から、自社メディアでの採用ブランドコンテンツの発信、閲覧者の反応測定まで支援する。AIエージェントと人が、企業文化、働き方、福利厚生、キャリアなど求職者が知りたいコンテンツを作成・更新するほか、従業員へのQ&Aも記事やストーリーに仕立てて、Built In上で発信する。発信後は、企業ページや採用ブランド記事の閲覧数、応募リンクのクリック数、閲覧者の職種や役職レベルなどを追跡する。

各社の機能を整理すると、主に次の5つの領域に分けられる。AIの回答への登場状況を測るだけでなく、問題の診断、情報発信の改善、発信後の閲覧者の反応の把握まで支援するHRテック領域が形成され始めている。

主な機能 概要
1. 企業情報がAIに発見・認識されやすい状態かを診断する キャリアサイトやジョブディスクリプションを確認し、必要な情報がAIに読み取りやすく整理されているかを診断する。
2. AIが企業をどう説明・推薦するかを計測する AIの回答に企業がどの程度登場・推薦され、どのような雇用主として説明されているかを、国・地域、職種、テーマ、AIモデル別に可視化する。
3. なぜそのように説明されるのかを調べる 回答に示された引用元や関連する公開情報を調べ、企業が発信するEVPとのずれや競合との違いを分析する。
4. 不足する情報を補い、発信する 改善すべき情報や媒体を特定し、コンテンツの生成・更新や第三者メディアでの発信を行う。改善後にAIの回答がどう変わったかを再計測する機能もある。
5. 発信後の反応や閲覧者の属性を追う 発信した情報がどの程度見られ、応募リンクまで進んだかを追う。あわせて、閲覧者の職種や役職レベルなどを把握する。

「求職者が何を質問したか」「AIの回答がどこまで影響したか」は完全にはわからない

ただし、こうした計測には限界もある。求職者が実際にAIへ何を尋ねているのかを、企業が完全に把握することはできない。PerceptionXのアンサリ氏も、同社が追跡するプロンプトと、求職者が実際に入力するプロンプトが完全に一致するとは保証できないと話す。
さらに、AIが求職者個人についてより多くの情報を踏まえて回答をパーソナライズするようになれば、質問や回答も人によって異なってくる。
また、AIが企業選びにどこまで影響したかも、アクセスデータだけではわかりにくい。求職者がAIで企業情報を得ても、その場でキャリアサイトへ移動せず、後から別の経路で企業を調べたり、応募したりする場合があるためである。

アンサリ氏は、AIからキャリアサイトへの直接流入が増えないからといって、施策に効果がなかったとは限らないと指摘する。そのうえで、アクセスデータだけに頼らず、選考中の候補者に、企業研究でAIをどう使ったかを直接尋ねることを勧めている。

今後は「測る」から「改善し、成果につなげる」へ

アンサリ氏は、「AIの回答そのものを企業がコントロールすることはできないが、どの媒体で、どのような情報を発信するかは変えられる」と指摘した。

次に焦点となるのは、得られたデータを実際の採用プロセスとどうつなげるかである。今後、こうしたデータと、ATS(応募者追跡システム)などに蓄積された応募、選考、内定承諾などのデータを結び付けて分析できるようになれば、採用成果との関係も捉えやすくなる。

企業にとっては、AIが自社をどう説明しているかを把握するだけでなく、その結果を採用ブランドの改善に生かし、実際の採用成果との関係まで確かめられるかも、HRテックを選ぶ際のポイントになるだろう。

TEXT=杉田真樹

(※)https://www.cinc-j.co.jp/service/analytics/column/ai-research-2608/