応募のハードルが下がるなか、志望度をどう見極めるか──米国HRテックの可視化設計
生成AIの急速な普及により、求職者は履歴書や職務経歴書、志望動機を短時間で作成できるようになった。米国では、LazyApplyやLoopCVなど、求人検索から応募までを自動化するツールも登場している。
こうした利便性の向上により、企業は応募者の関心や志向の強さを、従来よりも捉えにくくなっている。
LinkedInが2026年1月に発表したグローバル調査によると、米国における求人1件当たりの応募者数は2022年と比較して2倍に増加した。また世界全体でリクルーターの66%が、「過去1年間で適格な人材を見つけることが難しくなった」と回答している(※1)。
応募のハードル低下により接点は広がったが、十分な検討を伴わない応募も増え、志望度を見極めにくくなっている。
こうしたなか、米国では、応募者の求人への志望度を可視化するHRテック機能が登場している。本稿では、代表例としてGreenhouse、LinkedIn、ZipRecruiterの3種類のサービスを取り上げ、求職者の志望度を可視化するしくみと、その設計思想、さらに企業側が候補者への関心をどのように伝えるべきかを考える。

Greenhouse「Dream Job」:月1回だけ使える“第一志望カード”
Dream Jobは、Greenhouseの求職者向けポータル「MyGreenhouse」において、応募済みの求人のうち、求職者が月に1件のみを「Dream Job」として指定できる機能である。
一度指定すると、翌月1日まで取り消しや変更はできない。この制約により、複数応募のなかでどの求人を最も重視しているかが明確になる。
企業側は、応募管理画面の「Priority candidates(優先候補者)」から、該当応募者を確認できる。第一志望の求人を指定する設計によって、志望度の高い応募者を効率的に把握できる点が特徴である。
既に6500社を超える企業が、Dream Jobを応募者の初期の絞り込みに活用している。
LinkedIn「Top Choice Jobs(優先シグナル)」:月3件までの選択と短いメッセージ
LinkedInの「Top Choice Jobs」は、プレミアム会員が対象求人への応募時に月3件まで「Top Choice」として指定できる機能である。応募者はその理由を2~3行の短いメッセージで添える。たとえば、「プロセスエンジニアとしての経験があり、統計的手法(DOEやSPC)を用いた実務を5年以上担当してきた」といった形で、自身の職務経験やスキルを簡潔にアピールできる。
LinkedInによると、Top Choice Jobsを利用した求職者は、利用しない求職者と比べて、リクルーターから返信を受ける可能性が43%高いという。
企業側の管理画面では「Top Choice」指定のバッジが表示され、応募理由を確認できる。
一方で、こうした指定が必ずしも十分なシグナルとして機能するとは限らない。たとえば、企業向けAIエージェントを提供するCustomGPT.aiの求人では、応募者736人のうち10人が「Top Choice」に指定したものの、リクルーターや社員へのつながり申請やメッセージ送信、投稿への反応といった追加の行動が見られなかったという。リクルーターは、「あるポジションを本当に志望している場合には、熱意を示すためのさらなるアクションが必要だ」と指摘している。
ZipRecruiter「Be Seen First」:応募後の“任意アクション”で志望度を示す
ZipRecruiterの「Be Seen First」は、対象求人に応募後、短いメッセージを追加し、その求人を志望する理由や自身の適性について補足できる機能である。
メッセージを投稿した応募は企業側の一覧で上位に表示され、優先的に確認される。同機能の利用者は、企業からの連絡を受ける確率が約2倍に向上したとされる。
重要なのは、この機能が「応募後」に「任意」で行われる点にある。応募プロセス中に追加情報を求めると応募完了率の低下を招く恐れがあるが、応募後の任意アクションであれば、利便性を損なうことなく、志望度の高さを把握しやすくなる。
3つの機能に共通する設計思想
これらの機能は、「どの応募から目を通すか」「どの候補者に先に接触するか」というリクルーターの判断を支援し、選考スピード向上につながっている。
3種類に共通するのは、いずれも求職者の「追加コストを伴う行動」を「関心シグナル」として活用している点である。
「限られた枠をどの企業に使うか」「応募後にさらに行動するか」といった選択は、生成AIでは代替しにくい意思決定であり、リクルーターが優先順位を判断するうえで有効な手がかりとなる。
これは、「ワンクリック応募」機能のように利便性を追求してきた従来のHRテックとは対照的な発想である。
応募の手間を減らすことで応募数は増加した一方で、その結果として「応募」という行動の信頼性は相対的に低下した。そのため、近年は一定の「制約」や「一手間」を応募プロセスにあえて組み込む設計が広がっている。
ポイントは、応募の手間を過度に増やさずに、ブラックボックス化した志望度を可視化する「軽量なシグナル設計」にある。
日本における志望度可視化のアプローチ
日本でも、応募者が求人をどの程度志望しているかを見極めにくいという同様の課題がある。これに対し、国内のHRテックでも志望度や関心度を可視化するアプローチが見られる。
たとえば、動画研修の視聴管理システム「VIVATS」では、応募者に企業説明や業務紹介の動画を配信し、「誰が何回・どこまで見たか」を秒単位で可視化する。視聴率を「志望度の一指標」として提示している。
また、採用管理システム「i-web」には、新卒採用において応募者へのアプローチの優先順位づけに用いるスコアリング機能がある。企業は、重視する属性や行動に応じて算定項目や配点を設定でき、イベント参加やコンテンツ閲覧といった行動を、応募者の志望度を捉える手がかりとして活用できる。
ただし、これらの国内事例が行動データから志望度を間接的に「推定する」ものであるのに対し、米国で広がりつつある事例は、求職者自身が特定の求人への志望度を「表明する」設計である点に、一歩進んだ特徴がある。
企業側の意思表示の重要性
企業が応募者の志望度を見極めにくいのと同様に、企業からのスカウトについても、求職者は、それが自分の経歴を踏まえた個別の関心によるものなのか、一定の条件に合う層への一括送信なのかを判断しにくい。企業からのスカウトを受け取って応募したのに初期段階で見送られたケースもあり、スカウトという行為自体が、必ずしも企業の強い関心を意味するわけではないことがうかがえる。
こうした状況においては、求職者の志望度を可視化するだけでなく、企業側にも、自らの関心度や選考意図を伝える「関心シグナル」の設計が求められる。
具体的には、そのスカウトの位置づけを明確にしたうえで、候補者のどの経験やスキルに着目し、それが、募集ポジションのどの業務に活かせると考えたのかを示すことが重要となる。
さらに、求職者に志望度の表明を求めるのであれば、企業側もまた、その判断に必要な情報を開示することが不可欠である。職務内容や報酬、働き方、選考プロセスといった具体的な条件が示されなければ、求職者は自らの適合性を十分に判断できず、曖昧な理由からの応募になりやすい。
AIによる効率化が進む採用市場において重要なのは、単に応募数やスカウト数を増やすことではない。企業と求職者が互いの関心度を適切に伝え合い、意思表示の信頼性を保つことである。そのための「関心シグナル」は今後ますます重要性を増すと考えられる。信頼できるシグナルは、企業と求職者の双方が関心度の高い相手とのコミュニケーションに注力し、応募・選考の初期段階における無駄を減らすための基盤となる。
TEXT=杉田真樹
(※1)https://news.linkedin.com/2026/LinkedIn-Research-Talent-2026
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