臨時労働者の増員や欠勤対応を自動化するAIスタッフィングプラットフォーム 「Job&Talent」

2025年09月26日

物流・製造・小売などの現場では、繁忙期に数百〜数千人規模の臨時労働者を短期間で確保する必要がある。しかし、従来の手法では時間を要していた。また、無断欠勤や直前の欠員がオペレーションに深刻な影響を及ぼすことも多い。さらに多拠点・多国で展開する企業にとっては、臨時労働者の労務管理にかかる負担も大きい。こうした課題に対し、臨時労働者のスクリーニング、勤怠管理、欠員発生時の代替要員の手配までを自動化するAIスタッフィングプラットフォームが登場している。
本コラムでは、導入実績を持つ、ユニコーン企業の「Job&Talent」について紹介する。

jobandtalent注目ポイント

Job&Talentの概要

Job&Talentはスペインの企業で、欧米・中南米の10カ国以上でサービスを提供している。同社最大の市場である米国では、2023年時点で前年比22%増の4億5000万ドルの年間収益を計上した。2024年には、世界の企業3250社以上に30万人以上の労働者を配置。2025年5月に9200万ユーロを資金調達し、企業評価額は13億ユーロ(約2000億円)に達している。

迅速な人材確保と労務管理を一体化する「Job&Talent」

Job&Talentは、企業と臨時の仕事を求める労働者をつなぐAIスタッフィングプラットフォームである。製造、物流、小売、建設、サービスなど、時給制の求人を掲載している。また、山火事やハリケーンなどの災害後の復興支援に従事する労働者の供給にも対応している。

雇用主はJob&Talent、指揮命令は企業

jobandtalent 雇用契約相関図

臨時労働者は、就業期間中はJob&Talentの従業員として雇用される、雇用契約の締結、給与の支払い、法令遵守に関する責任はJob&Talentが負う。
労働者には、医療保険、401(k)制度、労災保険が適用される。一部の国では、法定の年次有給休暇や特別有給休暇(例:スペインの場合は、出産、引っ越し、婚姻届の提出時など)も付与されるほか、研修などの福利厚生が提供される場合もある。
日々の業務に関する指示は、派遣先企業の管理者が臨時労働者に対して直接行う。

Job&TalentのAIエージェントによる自動化戦略

Job&Talentは、2024年に面談を自動化するAIエージェント「Clara」、2025年4月にAI勤怠コーチの「Sara」を実装した。以降、2つのAIエージェントも順次公開される予定である。各AIエージェントは以下の機能を備えている。

1. AIリクルーター「Clara」
  • 面談とスクリーニング:応募者に10分以内に電話し、労働条件の説明と同意確認、質問対応を行う。要件を満たせば候補者情報を企業に提示。
  • オンボーディング支援:労働者向けアプリを通じて身分証明や就労許可など必要書類を収集し、提出が遅れている労働者にはリマインドを送信する。
  • 未充足のシフトのモニタリング:未充足シフトを常時監視し、登録者の中から適任者に通知する。
2. AI勤怠コーチ「Sara」(企業・労働者向け)
  • 打刻遅延の検知と自動通話:シフト開始から10分以内に打刻がない労働者を検知し、音声AIが自動通話を行う。
  • 欠勤理由の把握と共有:欠勤理由を把握し、企業の管理者に通知する。
  • フラグ機能:欠勤が常態化している労働者に対してフラグを立てる。
  • コーチング:行動改善を促すアドバイスを労働者に提供する。
3. AIアカウントマネジャー「Teo」(企業向け)
  • 監視とアラート:欠員や稼働率の低下などを検知し、企業の管理者に通知する。
  • 自動アクション:当日の欠員発生時に即材に代替要員を確保し、シフト表を自動更新する。
4. AIパフォーマンスコーチ「Maria」(労働者向け)
  • 低パフォーマンスの検知:企業からのフィードバックや評価をモニタリングし、パフォーマンス低下をの傾向を早期に検知する。
  • 対話的なコーチング:労働者に対して前向きで自信を育むようなコーチングを提供する。

人材派遣とJob&Talentにおける募集~採否決定の流れ

派遣会社を利用する場合、企業(派遣先)は自社で必要となる人材の要件(職種、人数、スキル、期間、勤務時間など)を電話・メール・営業担当経由の訪問などで行う。派遣会社は自社の登録者データベースから候補者を探すか、新たに求人広告を出して応募者を集め、登録面談やスキル確認を行ったうえで企業との面談を設定する。採否決定は企業が行う。

一方Job&Talentでは、企業がJob&Talentのプラットフォーム上で求人要件を直接入力すると、労働者向けアプリ経由で求人がプッシュ通知される。応募があればAIリクルーター「Clara」がスクリーニングや面談に相当するプロセスを自動で行い、候補者を企業に提示する。採否決定は企業が行い、その後の雇用契約や労務管理はJob&Talentが担う。

臨時労働者向けアプリの概要

臨時労働者は、プロフィールの登録から求人検索、応募、必要書類の提出、割り当てられたシフトの承認・辞退、欠勤の入力、出退勤時間の入力、派遣先の評価、派遣先からの評価の確認、給与受け取りを専用アプリ上で完結できる。このアプリには、以下の機能が搭載されている。

ゲーミフィケーションによる行動のスコア化

アプリには、ゲーミフィケーション機能が組み込まれている。労働者はシフトごとに以下の評価項目に基づいてスコアを付与され、アプリ上で確認できる。行動が数値化されることで改善意識が高まる。高評価の労働者は優先的にシフトを割り当てられる可能性が高くなる。

  • フィードバック:シフト終了後に管理者が勤務態度や成果を評価すると、平均スコアに反映される。
  • レスポンス:割り当てられたシフトに対して承諾・辞退すると、「応答あり」としてスコアが上昇する。未応答の場合は減点対象となる。
  • アテンダンス:始業・終業時間の前後10〜15分以内に打刻を行うと高評価につながる。

企業向け人材管理システム「Job&Talent Business」

企業の管理者や採用担当者は、企業向けシステム「Job&Talent Business」で求人の掲載、勤怠、労働者のパフォーマンスを一元的に管理する(Web・アプリから利用可能)。本システムでは、以下の機能を活用することができる。

  • 求人の掲載:企業が必要な要件を登録すると、その内容に基づいたシフト情報が労働者向けアプリに即時公開される。
  • 候補者の承認:Claraによる面談の結果を確認し、候補者を承認する。
  • シフトの作成と割り当て:単発または定期のシフトを数クリックで作成し、稼働可能な候補者リストの中から適任者にシフトを割り当てる。過去の出勤率、応答率、評価スコアに基づき、信頼性の高い人材を優先的に配置することが可能である。
  • 勤怠管理:労働者の打刻データをリアルタイムで確認し、シフト終了後に労働時間を承認する。
  • パフォーマンス管理:各シフトで記録される労働者の評価やフィードバックを参照し、配置判断や人材定着の施策に活用することができる。
  • ダッシュボード:出勤率、シフト応答率、パフォーマンス、シフト満足度などのデータをダッシュボード上で確認し、欠勤や人員不足のリスクに早期に対応できる。

包括的な労働力管理プラットフォームへの進化

Job&Talentは、これまで臨時労働者を中心に提供してきたプラットフォームと AI エージェントの対象範囲を、企業が自社で直接雇用する従業員の管理を含む労働力全体へと拡大する方針を打ち出している。現在、この機能は一部顧客企業において試験導入されており、2025年後半以降に本格的な提供が開始される見込みである。この拡張により、企業は臨時・常用を問わず、すべての人材の採用、配置、勤怠、パフォーマンスを一元化管理することが可能となる。

導入企業は3250社以上に拡大

Job&Talent は、UPS Mail Innovations、DHL、Unilever Columbia、The Body Shop、Cabify、ShipBob、Huawei Spainなど、世界各国の約3250社以上に導入されている。
英国のECフルフィルメント企業のTHG Fulfilでは、ブラックフライデーなどの繁忙期に短期間で大量の臨時労働者を確保する必要があった。従来の手法では時間を要し、応募者の離脱も発生していたが、Job&Talentを活用することで、スクリーニング、面接、オンボーディングのプロセスを自動化。結果として、わずか3週間(従来は8週間)で1828人の人材を確保し、シフト充足率は100%を達成した。

AI×スタッフィングによる人材配置の効率化

従来型の人材派遣モデルでは、派遣会社の営業担当者やコーディネーターが企業からの依頼内容を基に適任者を選定し、候補者を企業に提示する。このプロセスは担当者の経験や裁量に依存する部分が大きく、マッチングのスピードや精度にばらつきが生じる。
これに対してJob&TalentのようなAIスタッフィングプラットフォームでは、AIが数千人規模の候補者に対して瞬時にスクリーニングを実施できる。企業は繁忙期や緊急対応時の人材確保の柔軟性を高めることができる。

また欠勤や遅刻を即時検知し、対応を自動化する監視機能や、行動改善を促すコーチング機能により、労働者の定着率やパフォーマンスの向上にも寄与している。
SIA(Staffing Industry Analysts)による、世界のテンポラリースタッフィングプラットフォームの市場規模は2024年時点で176億ドルであった。前年からはやや縮小(マイナス約13%)したものの、2019年以降のCAGR(年平均成長率)は 44% と依然として高い(※2)。従来の人材派遣の市場規模(同期間のCAGRは4%)を大きく上回る成長を遂げ、新しい人材供給モデルとして注目されている。

物流・製造・小売などをターゲットにするJob&Talentのビジネスモデルを日雇い派遣が禁止されている日本にそのまま導入するのは難しいが、Job&Talentの公式サイトによれば「平均在籍1年以上」を前提に運用している点を踏まえると、日本でも制度に沿った形での導入は十分に考えられる。

TEXT=杉田真樹

(※1)https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/kaisei/01-1.html
(※2)https://www.staffingindustry.com/news/global-daily-news/temp-staffing-platforms-revenue-slips-13