急増する60代前半女性の就業—「家計補助」では捉えきれなくなった実態と今後10年の課題

大嶋寧子

2026年07月16日

この10年で、最も就業率が上昇した60代前半の女性就業者

女性の就業率上昇といえば、これまで主に注目されるのは子育て期に就業率が下がる現象、いわゆる「M字カーブ」の解消であった。実際、総務省「労働力調査」で2015年と2025年の女性の年齢階級別就業率を比較すると、20代後半から30代にかけて就業率が上昇しており、子育て期に女性の就業率が低下しにくくなっていることが分かる。

だが、その陰で、もう一つ大きな変化が起きている。60代の女性の就業率が伸びており、特に60~64歳女性の上昇幅は16.4%ポイントと、5歳刻みで見た年齢階級の中でも最も大きい。同じ期間に60~64歳男性の就業率は8.6%ポイント上昇し84.1%となっているものの(※1)、「変化」という点では女性がより大きい。

図表1 女性の年齢階級別就業率(2015年・2025年)図表1 女性の年齢階級別就業率(2015年・2025年)
(出所)総務省「労働力調査」

増加が見込まれる60代前半女性の就業者

同じく総務省「労働力調査」によれば、60代前半の女性の人口は2015年の439万人から2025年に389万人へと減少している。にもかかわらず、この年齢階級の女性就業者が217万人から256万人へと増加したことは、この年齢層における就業行動の変化の大きさを示している。

人口変動の影響を踏まえても、今後、60代前半の女性は労働市場における重要な担い手であり続ける可能性がある。図表2は、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 令和5年(2023年)推計」(出生中位(死亡中位)推計)および総務省「労働力調査」の60~64歳就業率から、60代前半の女性の就業者数のこれからを簡易的に試算したものである。

【ケース1】は、60~64歳女性の2025年の就業率(65.8%)が今後継続する想定を置いたものだ。【ケース2】は、2025年から2045年にかけて、60~64歳女性の就業率が2025年の60~64歳男性の水準(84.1%)まで一定のペースで上昇することを想定したものである。

まず、【ケース1】の場合、60代前半の女性就業者は、2035年に2025年対比で約50万人増加する計算となる。また、【ケース2】では、2035年に2025年対比で約100万人の増加となる。人口変動の影響により、【ケース1】【ケース2】ともに、その後は減少に向かうものの、後者のケースでは2045年まで300万人規模を維持しうる。

以上を参考に考えると、60代前半の女性就業者は、今後の日本の労働市場で一定の存在感を持つ可能性が高いと言えるだろう。

図表2 60代前半の女性就業者数の簡易シミュレーション

図表2 60~64歳女性就業者数の簡易シミュレーション
(注)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(出生中位〈死亡中位〉推計)に基づく、各年の推計60~64歳女性人口にそれぞれのケースの就業率をかけ合わせることでシミュレーション値を算出。
(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、総務省「労働力調査」

「補助的な就業」から、生活を支える就業へ

ただし、就業者数という量的な観点だけでこの変化を見ることは適切ではない。その働き方が本人にとって納得できるものであるか、生活を支えるだけの収入につながっているか、これまでの経験がきちんと活かされているかも問われるべきである。

そこで、ここからはリクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」を用いて、60代前半の女性就業者の内訳の変化や課題を見ていく。「全国就業実態パネル調査」は、2015年以降、全国約5万人の就業実態を毎年追跡調査してきており、日本全体の状況を反映するよう設計されている。そのため、この調査を用いることで60代前半の女性就業者の実態や課題をより深く把握することができる。なお、以下で「60代前半の女性就業者」と言う場合、調査前年12月に就業していた60~64歳の女性を指す(年収等が実態より低く出ることを防ぐために、仕事があっても休業していた人は除外する)。

特徴1:配偶者のいない人の割合が上昇

60代前半の女性就業者の内訳を配偶関係別に見ると(図表3)、2015年には有配偶率が72.2%であったのに対し、2025年には60.7%へ低下している。背景には、離別・死別による家族構成の変化に加えて、女性の未婚率の上昇があるだろう。いずれにしても自分自身の収入で生活を支える必要性がより高い女性が、この年齢階級で増えている可能性がある。

図表3 60代前半の女性就業者の有配偶率図表3 60代前半の女性就業者の有配偶率
(注)各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2016、2026」

特徴2:より多くの時間を働き、多くの収入を得る人が増加

仕事からの年収の分布にも変化がある。図表4は、60代前半の女性就業者における仕事からの収入(本業および本業以外の仕事からの収入の合計)の分布を見たものだ。200万円未満の層は2015年に67.9%(※2)を占めていたが、2025年には45.4%へ低下した。一方、200万円以上の層は32.1%から54.6%へ上昇している。

労働時間にも同様の変化が見られる。週30時間以上働く層は、2015年の48.3%から2025年には59.4%へ増加した。特に週40時間以上働く層は25.2%から34.3%へ上昇している。短時間で働く人も一定数いるものの、全体としては、より長い時間働く方向に内訳が変化している。


図表4 60代前半の女性就業者における「仕事からの収入」の構成比(%)

図表4 60代前半の女性就業者の「仕事からの収入」の構成比(%)
(注)ここでの収入は本業および本業以外の仕事からの収入の合計。各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。数字は構成比(%)。四捨五入の関係で合計が100にならない場合がある。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2016、2026」

図表5 60代前半の女性就業者の週労働時間別構成比(%)

図表5 60代前半の女性就業者の週労働時間別構成比(%)
(注)各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。数字は構成比(%)。四捨五入の関係で合計が100にならない場合がある。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2016、2026」

特徴3:職種と就業形態の広がり

図表6に示すように、職種の変化も注目される。2015年と2025年では、事務職が約4割を占める構造は大きく変わっていない。60代前半の女性就業者の絶対数が増えていることも併せて考えれば、事務職で働くこの年齢層の女性の数は増えているとも言える。一方、専門・技術職の割合は16.3%から23.2%へ上昇しており、専門的な知識や経験を活かして働く女性が増えている。さらに就業形態別の構成も変化している。図表7で示すように、正規雇用者の割合が上昇しており、2025年には4人に1人を占めた。

以上で見てきたように、60代前半女性の就業はこの10年で、単に「働く人が増えた」のではなく、より長く、より高い収入を得ながら、より幅広い職種で働く方向へ変化している。もちろん、家計補助的に短時間働く人も一定数を占めるが、同時に、自らの生活を支え、職業経験を活かす就業も増えているのが実態である。

図表6 60代前半の女性就業者の職種別構成比(%)

図表6 60代前半の女性就業者の職種別構成比(%)
(注)各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。数字は構成比(%)。四捨五入の関係で合計が100にならない場合がある。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2016、2026」

図表7 60代前半の女性就業者の雇用形態別構成比(%)

図表7 60代前半の女性就業者の雇用形態別構成比(%)
(注)各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。数字は構成比(%)。四捨五入の関係で合計が100にならない場合がある。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2016、2026」

課題1:働く時間をめぐる希望は一様ではない

では、60代前半の女性就業者は、どのような課題を抱えているのか。

第一に挙げられるのは、労働時間について、現状が希望と合っていないケースがあることである。図表8は、60代前半の女性就業者の労働時間の変更の希望を見たものだ。これによると、労働時間を「今より増やしたい」とする人は9.1%、「今より減らしたい」とする人は24.0%である。67.0%は「特に希望はない」としているが、約3人に1人は現在の労働時間について何らかの変更希望を持っている。

ここで重要なのは、希望の方向が一様ではないことである。生活や健康、やりがいなどからもっと働きたい人がいる一方で、健康や家庭事情、体力との兼ね合いから、働く時間を減らしたい人もいる。60代前半女性の就業支援を考える際には、「高齢者には短時間就業がよい」といった一律の見方ではなく、個々人の生活状況や希望に応じた働き方の選択肢を広げる必要がある。

また、勤務時間や場所を選べたり、中抜けが可能な働き方を広げることで、心身の負担が軽減され、現実の労働時間と希望が一致しやすくなることも考えられる。今後の労働力確保と、希望に応じた就業拡大という観点からも、柔軟な働き方を推進することの重要性が示唆される。

図表8 労働時間の変更の希望(60代前半の女性就業者、%)

図表8 労働時間の変更の希望(60代前半の女性就業者、%)
(注)各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。数字は構成比(%)。四捨五入の関係で合計が100にならない場合がある。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2026」

課題2:50代までの就業が、時間単価の低さに反映

第二に、男性と比較した際の、時間あたり賃金の相対的な低さである。図表9は、主な仕事における時間あたり賃金(推定値)の分布を、59歳以下の就業者と60代前半の就業者、男女別に示したものである。時間あたり賃金は、主な仕事からの年収を、主な仕事における推定年間労働時間(昨年12月に就いていた仕事における平均的な1週間の総労働時間×50週として計算)で割ることにより求めている。

これによると、60代前半の女性就業者における時間あたり賃金で、最も多いのは1100円未満の30.2%であった。これは60代前半男性の10.0%と比べて明確に高い。一方、時給2000円以上の層を見ると、60代前半男性は57.9%であるのに対し、60代前半女性は23.6%にとどまる。60代前半女性の就業者が増え、労働時間や収入も増えているとはいえ、全体の時間単価の面では大きな男女差が残っている。

この背景には、60代になる以前の職業経歴の影響があると考えられる。実際、60代前半の女性就業者の推定時間あたり賃金の分布は、59歳以下の女性就業者の分布と近いものとなっている。すなわち50代までの雇用形態、職務経験、スキル形成の機会、昇進・配置のあり方が、60代以降の仕事の選択肢や賃金水準に持ち越されている可能性がある。

図表9 主な仕事の時間あたり賃金(推定値)
(60代前半就業者/59歳以下就業者、男女別、%)

図表9 主な仕事の時間あたり賃金(推定値)
(注)主な仕事における時間あたり賃金は、主な仕事からの年収を、「週労働時間(昨年12月に就いていた仕事における平均的な1週間の総労働時間、2つ以上仕事をしていた場合は主な仕事のみの労働時間)」×50で割ることにより求めた。時給の区分は令和7年度の都道府県別最低賃金が全国平均で時給1121円(前年度は同1055円)であることを踏まえ、1100円未満、1100円以上1500円未満、1500円以上2000円未満、2000円以上の4区分とした。各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。数字は構成比(%)。四捨五入の関係で合計が100にならない場合がある。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2026」

課題3:生活を支えるには収入が十分でない人の存在

第三に、第二の課題とも重なるが、生活を支える上で収入拡大の必要性が高いと見られる人の存在である。図表10は、60代前半の女性就業者における、生活目的での副業の実施と希望の状況を示したものである。まず副業をしており、かつその理由として「生活のため」に関わる項目を挙げる人の割合は7.2%であった。また、副業を希望し、その理由として「生活のため」に関わる項目を挙げる人の割合は15.4%であった。これらは、本業だけでは十分な収入を得られないために副業をする人や、希望する人が一定割合いることを示している。

図表10 60代前半の女性就業者における、経済的理由での副業をめぐる状況

図表10 60代前半の女性就業者における、経済的理由での副業をめぐる状況
(注)60代前半の女性就業者に占める割合。「副業あり(経済的理由該当)」は、2025年に副業(主な仕事以外の収入を伴う労働あり)かつ、その理由として「生計を維持する(生活費や学費を稼ぐ)ため」「生活を維持する最低限の費用以外に、貯蓄や自由に使えるお金を確保するため」のいずれかを挙げた人の割合。「副業希望(経済的理由該当)」は、主な仕事以外の収入を伴う労働を希望し、かつ、その理由として「生計を維持する(生活費や学費を稼ぐ)ため」「生活を維持する最低限の費用以外に、貯蓄や自由に使えるお金を確保するため」にのいずれかを挙げた人の割合。各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2016、2026」

前述したように60代前半の女性就業者の中でも、この10年あまりで配偶者を持たない人の割合が上昇している。この場合、自分自身の収入や、時間あたり賃金の高低が、生活状況をより強く規定すると考えられる。
そこで、60代前半の女性就業者について、配偶者の有無別に仕事からの収入、収入総額、時間あたり賃金(推定)の分布を確認した(図表11)。仕事からの収入は本業および副業からの収入の合計を、収入総額は、仕事からの収入と仕事以外の収入(不動産売却、家賃収入、年金、仕送りなど)の合計を指す。

すると、配偶者を持たない女性で、仕事からの収入、収入総額、時間あたり賃金がより高い傾向にあった。しかし同時に、これに該当する女性のうち、収入総額が200万円未満の人が22.2%、推定時間あたり賃金が1100円未満の人が24.9%を占めていた。ここからは、配偶者がいない60代前半の女性就業者の中に、よりしっかり働き収入を得るグループと、経済面にやや厳しい状況にあるグループが併存する状況が見て取れる。

図表11 配偶者の有無別に見た60代前半の女性就業者の収入・賃金状況

図表11 配偶者の有無別に見た60代前半女性就業者の収入・賃金状況
(注)主な仕事の推定時間あたり賃金の計算方法は図表9の注参照。各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。数字は構成比(%)。四捨五入の関係で合計が100にならない場合がある。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2026」

60代前半女性の就業の多様性を捉え、仕事の質を高める

ここまで見てきたように、60代前半女性の就業を巡る状況は、この10年で変化した。より長い時間働き、一定の収入を得る人が増え、職域も広がっている。背景には、1985年に制定された男女雇用機会均等法などの影響もあり、女性全体の就業機会が拡大してきたこと、配偶者を持たない女性が増加してきたことなどがあると考えられる。

こうした中、60代前半女性の就業を「家計補助」や「余力の範囲での就業」というイメージで捉えることは、もはや実態とのずれが大きいと言える。生活を支えるために働く人、職業経験を活かして働く人、より多く働きたい人、逆に健康や家庭事情から働く時間を抑えたい人が混在する多様な姿を理解することが重要である。

一方で、前述したように、60代前半の女性就業者の時間あたり賃金は、同じ年齢階級の男性よりも低い傾向にあり、女性が50代までの時期において、安定した収入の仕事を得るチャンスや、企業の能力開発投資を受ける機会が十分でなかったことの影響が伺える。実際このグループには、経済的にやや厳しい状況にあることが推察される人も一定割合存在しており、より良い就業機会との接続が求められる状況にある。

そのためには、60代以降の女性就業者に焦点をあてたスキル習得支援や就職支援を充実させることが欠かせない。同時に、60代前半の女性就業者の賃金が60代になる前の就業実態を継続していると見られることからは、40~50代の女性を対象に、60代以降の生活も視野に入れつつ、より賃金や働き方の柔軟性、能力形成の機会がある仕事に就くための公的な相談機能の充実、そうした支援にアクセスできるための意識啓発、女性の置かれる状況に配慮したリスキリング支援を図ることも重要である。

今後、より未婚率が高く、同時に学校卒業時の新卒採用が低迷していた世代が60代に差し掛かることを踏まえれば、高齢期にも働き続けやすい柔軟な働き方を広げること、中高年期以降の女性がより高い賃金の仕事に就くための支援を充実することは急務である。それが、この年齢階級の女性就業者が拡大するこれからの10年に向けた課題である。

(*1)総務省「労働力調査」によれば、60~64歳の男性の就業率は2015年の75.5%から2025年の84.1%へ上昇している。
(*2)図表4の棒グラフ上の数字を合計すると、2015年における年間収入200万円未満の割合は68.0%、200万円以上の割合は32.1%であるが、四捨五入の関係で200万円未満の合計割合および200万円以上の合計割合は本文中の数字が正しい。

大嶋 寧子

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。