国家資格は何を約束しているのか?

岩出 朋子

2026年04月28日

先日、会社帰りに立ち寄った飲食店で、アルバイトとして働く大学生と進路の話になった。卒業後にどのような仕事に就きたいのかと尋ねると、次のような答えが返ってきた。

国家資格を取得すれば、将来は安定して働くことができ、仕事に困ることもないと思う。その資格を生かした仕事に就きたい。

具体的にどの資格を想定しているのかまでは踏み入らなかったが、国家資格が「将来の安心」や「職業人生の支え」をもたらすものとして受け止められていることがうかがえる。しかし本当に、国家資格を取得すれば、就職がしやすくなるのか。働き続けることができるのか。そして、実際に安定した収入を得ることにつながっているのだろうか。

本コラムでは、こうした問いを出発点として、養成課程を経て取得する国家資格に焦点をあてる。国家資格が労働市場においてどのような役割を果たし、何を約束しているのかを、公的統計およびリクルートワークス研究所の調査データを用いて検討していく。

国家資格の分類と特徴

資格は、国家資格、公的資格、民間資格の3つに大別される。本コラムが対象とする国家資格は、その法的性格や役割に応じて、さらに4つに分類される(図表1)。資格を持たない者が業務そのものを行うことを禁じる「業務独占資格」、名称のみを制限する「名称独占資格」、一定規模以上の事業所に配置が義務づけられる「設置義務資格」、そして技能水準を国が証明する「技能検定」である。

国家資格というと、医師や弁護士のような高度専門職を想起し、遠い存在だと感じられがちである。しかし、運転免許証も国家資格の一つであり、2024年時点で日本国民のおよそ66%が保有している(※1)。国家資格は、既に多くの人の生活と深く結びついている制度である。

本コラムでは、このうち資格取得にあたって養成課程の修了が求められ、一定の時間と学費の投資を伴う国家資格を取り上げる。これらの資格が、労働市場においてどのような意味を持つのかを確認していく。

図表1 国家資格の分類図表1 国家資格の分類出所:筆者作成

養成課程を経て取得する国家資格と教育投資

養成課程を経て取得する国家資格には、医師、薬剤師、看護師といった医療職のほか、理容・美容師、栄養士、保育士、自動車整備士などがある(図表2)。いずれも医療、衛生、保育、交通といった分野で私たちの日常生活を支える職種であり、社会の基盤をなすエッセンシャルワークに位置づけられる資格である。

これらの国家資格を取得するためには、一定期間の養成課程を修了することが求められる。養成期間は、理容・美容師や栄養士、自動車整備士ではおおむね2年、看護師では3年または4年、医師や薬剤師では6年に及ぶ。さらに、栄養士を除く多くの資格では、養成課程修了後に国家試験に合格する必要がある。

注目すべきは、こうした養成課程に伴う学費負担である。文部科学省による調査および東京都専修学校各種学校協会の調べを基にした平均の学費目安を見ると、少なくても200万円台、薬剤師では私立大学で約1,150万円、医師に至っては私立大学で約3,420万円に達する。若年期に数年単位の時間と多額の費用を投じ、将来の職業人生を見据えた教育投資を行う点に、これらの国家資格の特徴がある。

では、その結果として取得された国家資格は、労働市場においてどのような成果と結びついているのだろうか。以下では、図表2で示した医師、薬剤師、看護師などの養成課程を経て取得する国家資格を取り上げ、就職のしやすさ、働き続けやすさ、そして所得水準という3つの観点から検討していく。

図表2 養成課程を経て取得する主な国家資格(※2)図表2 養成課程を経て取得する主な国家資格※本表における「専門学校」とは、学校教育法に基づく専修学校専門課程を指す。
出所:文部科学省(2025a)(2025b)および東京都専修学校各種学校協会(2025)を基に筆者作成

資格を生かした仕事に就けるのか――取得後の就職という視点から

最初に検討するのは、国家資格を取得した後、資格を生かした仕事に就けるのかという問いである。資格制度と就業の関係から確認し、これらの国家資格の就業までの特性を整理する。

本コラムで取り上げている国家資格  は、業務独占資格または名称独占資格に分類され、いずれも資格を有していることが当該職業に就くための前提条件として機能している。医師、薬剤師、理容・美容師、自動車整備士といった職種は、資格を取得しなければ業務に従事できない。栄養士や保育士についても、法的には名称独占資格であるが、学校給食や保育園などの現場では、有資格者であることが事実上の採用要件となっている場合が多い。

また、これらの資格は、養成課程の中に実習が組み込まれており、在学中から就業を前提とした進路指導や、実習を通じた人的ネットワークの形成が行われる。実習先がそのまま就職先となるケースも少なくなく、資格取得の課程自体が就業への移行を内包している職種も多い。そのため、資格取得後に、資格とは無関係な仕事をあらためて探さなければならない状況に陥る可能性は相対的に低い。

さらに、医療、保育、整備といった分野は、景気変動の影響を受けにくく、社会から仕事そのものが消失する可能性が低い。少子高齢社会が進行するなかで、これらの分野に対する需要は中長期的にも継続すると見込まれている。実際、リクルートワークス研究所の「職種別労働需給シミュレーション」によれば、保健医療専門職では2030年に18.6万人、2040年には81.6万人の供給不足が生じると予測されている(図表3)。

以上を踏まえると、養成課程を経て取得する国家資格は、「資格を生かした仕事に就く」という意味において、制度的な入口が用意された資格であると言える。

図表3 職種別労働需給シミュレーション(保健医療専門職)図表3 職種別労働需給シミュレーション(保健医療専門職)出所:リクルートワークス研究所(2023)「未来予測2040労働供給制約社会がやってくる」

働き続けることができるのか――平均年齢の推移からみる、組織人としての継続期間

次に、資格取得後に、その職業をどの程度長く続けられているのかを確認する。ここでは、病院や企業などの組織に所属して働く期間に着目し、当該職業において組織に属したまま働き続けられているかどうか、平均年齢の推移から捉える。

図表4は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を用いて、2016年から2025年までの10年間を集計したものであり、企業規模10人以上の事業所における職種別平均年齢の推移を示している。全体(一般労働者)の平均年齢は、2016年の42.2歳から2025年には44.4歳へと上昇しており、労働市場全体で高齢化が進んでいることが分かる。

医師については、2016年時点では全体平均を下回っていたものの、その後上昇を続け、2025年には45.7歳に達している。医師の約2割は診療所の開設者や法人代表者として独立しているにもかかわらず(※3)、組織に所属する医師の平均年齢が高水準で推移している点は、医師という職業の職業人生が相対的に長期にわたる傾向にあることを示している。

一方、看護師、薬剤師、保育士、栄養士、自動車整備士、理容・美容師といった他の資格職では、平均年齢はいずれも全体平均を下回って推移している。国家資格を取得していても、組織に所属する形で同じ職業を長期間続けることが必ずしも容易ではない可能性が示唆される。

とりわけ理容・美容師では、平均年齢は30歳前半で推移しており、2025年には30.0歳となっている。ただし、これは職業からの離脱を意味するというより、独立開業やフリーランスといった働き方へ移行する人が一定数存在することを反映している可能性がある点には留意が必要である。

平均年齢は、資格保有者が職業にとどまり続けているかを直接示す指標ではない。しかし少なくとも、養成課程を経て取得した国家資格が、組織に所属したまま同じ職業を続けることまでを一様に保証しているわけではないことは読み取れる。  

図表4 職種別の平均年齢の推移(企業規模10人以上)(※4)図表4 職種別の平均年齢の推移(企業規模10人以上)(※4)

厚生労働省「賃金構造基本調査2016年~2025年」より出所:厚生労働省「賃金構造基本調査2016年~2025年」より筆者作成

どのくらい稼いでいるのか――平均給与の推移から見る組織人としての賃金

最後に、組織に所属しながら国家資格を生かして働いた場合の所得水準を確認する。図表5は、前節と同様に企業規模10人以上の事業所における職種別平均給与の推移を示したものである。

全体(一般労働者)の平均給与は、2016年の489.9万円から2025年には545.6万円へと上昇している。これと比較すると、全期間を通じて全体平均を上回っているのは医師と薬剤師に限られる。医師の平均給与は2016年の1,240.1万円から2025年には1,512.3万円へと推移しており、他職種とは水準そのものが大きく異なる。薬剤師もまた、2016年の514.9万円から2025年には566.8万円と、全体平均を上回る水準で推移している。

一方で、理容・美容師、栄養士、保育士、自動車整備士といった職種では、平均給与はいずれの年においても全体平均を下回っている。ただし、賃金水準は横ばいであったわけではなく、着実に上昇してきた。なかでも上昇幅が大きいのは理容・美容師で、平均給与は2016年の287.7万円から2025年には388.5万円となり、約35%の上昇となっている。同様に保育士も、2016年の326.8万円から2025年には427.6万円へと増加しており、約31%の上昇を示している。

それでもなお、養成課程に数年を費やし、決して小さくない学費負担をしたうえで取得した国家資格が、賃金面で十分に報われているかどうかについては、職種間で大きな差がある。国家資格がもたらす経済的リターンは、一様ではない。

図表5 職種別の平均賃金の推移(企業規模10人以上)(※5)図表5 職種別の平均賃金の推移(企業規模10人以上)(※5)

厚生労働省「賃金構造基本調査2016年~2025年」より出所:厚生労働省「賃金構造基本調査2016年~2025年」より筆者作成

国家資格は何を約束しているのか

ここまで、養成課程を経て取得する国家資格について、就職、職業人生の持続性、所得水準
という3つの観点から検討してきた。これらを総合すると、国家資格が約束しているのは、「就職に困らない」「長く安定して働ける」「高い収入が得られる」といった包括的な安定ではないことが見えてくる。

確かに、業務独占資格や名称独占資格という制度的特性によって、資格を取得すれば「資格を生かした仕事に就くための入口」は用意されている。少子高齢化が進むなか、医療、保育、整備といった分野では人材不足が顕在化しており、資格取得後に就業へとつながりやすい現実もある。この点において、国家資格は「仕事に就けない」という不安を和らげる役割を果たしている。

一方で、その後の職業人生まで視野に入れると、状況は一様ではない。組織に所属して働く人の平均年齢を見ると、医師を除く多くの資格職では一般労働者の平均を下回っており、さらに職業によっては資格を取得したからといって、同じ職業を長く継続できるとは限らないことが示唆される。

また、所得水準についても、平均給与が一般労働者を上回るのは医師や薬剤師に限られ、その他の資格職では全体平均を下回るケースが見られる。養成期間や学費といった教育投資を踏まえると、国家資格の取得が経済的に十分報われていると一概に言うことは難しい。

以上を踏まえると、国家資格は、社会にとって不可欠な仕事に就くための制度的な入口を用意する一方で、賃金水準や職業人生の持続性までを一様に保証するものではないことが明らかである。労働供給制約が進行するなかで、既に人材不足が顕在化し、必要なサービスの提供や組織運営に支障をきたしつつあるエッセンシャルワークの領域において、この構造をどのように改革していくのかが問われているのではないだろうか。

とりわけ、長期の養成課程と多額の教育投資を前提とする国家資格について、その負担を個人に委ねたままでよいのか。エッセンシャルワークを将来にわたって成り立たせていくために、養成課程の段階からどのような支援が必要なのかが、あらためて問われている。この点については、既に国内で実装されている具体的な支援策を手がかりに、今後、検討していきたい。

【注釈】
(※1)警察庁(2025)によれば、2024年時点の運転免許証保有者数は8,174万2,303人である。この数値を、総務省(2025)による2024年の総人口1億2,380万2,000人で除して算出した。
(※2)保育士および理容師・美容師については通信課程も存在するが、本表では通学課程のみを対象とし、通信課程は除外している。学費の目安は、文部科学省(2025a)(2025b)および東京都専修学校各種学校協会(2025)の資料を基に、初年度学生納付金等の平均額(実験実習料・その他の学校納付金を含む)に、養成課程の修了に必要な標準修業年数を乗じて算出した。なお、専門学校に関する数値は東京都のデータに基づいており、全国一律の水準を示すものではない点に留意が必要である。学費の目安には、養成課程において必要とされる学校納付金のみを含み、教材・実習用器具等の購入費や生活費は含まれていない。
(※3)厚生労働省(2025)によれば、2024年時点の医師数は34万7,772人であり、このうち診療所の開設者または法人の代表者は7万46人と、全体の20.1%を占めている。なお、病院・診療所を含めた医師全体の平均年齢は50.6歳である。
(※4)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では職種分類の見直しが行われており、自動車整備士については、2016~2019年は「自動車整備工」、2020~2025年は「自動車整備・修理従事者」のデータを用いて、連続した時系列として整理した。
(※5)※4に同じ。平均給与は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における各年の「きまって支給する現金給与額」に12か月分を乗じ、これに「年間賞与その他特別給与額」を加算して算出している。

【参考文献】
警察庁(2025)「運転免許統計(令和6年版)」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/r06main.pdf(2026年4月8日アクセス)
総務省(2025)「人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2024np/pdf/2024gaiyou.pdf (2026年4月8日アクセス)
文部科学省(2025a)「令和7年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金等 平均額(定員1人当たり)の調査結果について」
https://www.mext.go.jp/content/20251226-mxt_sigakujo-000046463_1.pdf(2026年4月8日アクセス)
文部科学省(2025b)「国公私立大学の授業料等の推移」
https://www.mext.go.jp/content/20251226-mxt_sigakujo-000046463_4.pdf(2026年4月8日アクセス)
東京都専修学校各種学校協会(2025)『令和7年度「学生・生徒納付金調査」結果について』
https://tsk.or.jp/documents/general.php(2026年4月8日アクセス)
リクルートワークス研究所(2023)「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」
https://www.works-i.com/research/report/forecast2040.html(2026年4月8日アクセス)
厚生労働省(2025)「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/24/dl/R06_1gaikyo.pdf(2026年4月9日アクセス)

岩出 朋子

大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。