主婦を採用したい、その「主婦」は誰なのか

岩出 朋子

2025年05月30日

アルバイト・パート求人広告の仕事に20年携わってきた。採用担当者や責任者から「主婦(夫)を採用したい」という相談を多く受けるが、いつも思うのは「どのような人たちを主婦(夫)としているのか」ということだ。

「例えばどんな主婦(夫)ですか」と尋ねると、「35歳前後の人」や「50代で子育てが終わった人」など、年齢や子育ての状況を表す回答が多く返ってくる。ある程度の年齢で結婚、出産というライフイベントがある標準的なモデルや性別役割分業を前提とした社会が崩れつつある今、主婦(夫)を性別や年齢で定義するのは難しい。「主婦(夫)」という大きな枠組みで語る場合、想定するイメージは人により違うのではないだろうか。そこで「主婦」と呼ばれる女性は、どのような人たちなのかを考えたい。

「主婦」という言葉はいつ生まれたのか

「主婦」(※1)という言葉が生まれたのは明治時代だとされる。広井(2000)によれば、主婦とはおもに主人に対する女主人という意味で使われ出したが、明治20年代になると、家事を管理する妻という意味へと変わり、家事の管理が女性の天職として意味づけられるようになる。1910〜20年代にかけて、高等女学校で家政学の授業が展開され、大正時代に「主婦」という言葉が普及していった。
その後、製造業を中心とする産業化により、男性が外で働くようになり、家庭を維持管理する役割として主婦が必要とされていく。1960年代の高度経済成長期には、核家族化が進行し、女性が家事・育児を担い、男性はサラリーマン化するという固定的な性別役割分担の形成が進んだ(内閣府,2005)。1990年代には共働き世帯が専業主婦世帯を上回り、2023年には専業主婦世帯が517万世帯に対して、共働き世帯は1,278万世帯と約2.5倍になっている(図表1)。明治時代と戦後の高度経済成長期を比較するだけでも、「主婦」という言葉が示す「人物像」は時代とともに変化している。

 

図表1 専業主婦世帯と共働き世帯(1980~2023年) 図表1 専業主婦世帯と共働き世帯(1980~2023年) 出典:労働政策研究・研修機構「専業主婦世帯と共働き世帯」

令和時代の「主婦」とは誰のことなのか

今日における「主婦」の人物像はどのような人たちなのだろうか。リクルートワークス研究所が実施した「全国就業実態パネル調査2024」(以下JPSED2024)を基に20~69歳の女性を配偶者の有無と子どもの有無で分類した(図表2)。配偶者がいる女性(以下、有配偶女性)は全体の56.0%であり、その内訳を見ると子どもがいる女性が全体の43.3%、子どもがいない女性が全体の12.7%だった。一方、配偶者はいないが子どもがいると回答した女性(いわゆるシングルマザー)は全体の8.8%、配偶者と子どもはいないと回答した女性(独身女性)は全体の35.3%であった。家事・育児などの家庭運営の責任を負う女性「主婦」(※2)はどのような人なのか。本コラムでは、配偶者がいる女性(全体の56.0%)の詳細を把握することから、どのような特性があるのかを考察したい。

 

図表2 20~69歳女性 配偶者の有無と子どもの有無 図表2 20~69歳女性 配偶者の有無と子どもの有無 ※ウェイトバック集計を行っている
※四捨五入により、合計が100%とならない
出所:リクルートワークス研究所「JPSED2024」より筆者作成

子どもがいる有配偶女性の就業率は40代がピーク

はじめに子どもがいる有配偶女性(全体の43.3%)の就業状況を見ていく(図表3)。ここに該当する女性のうち、調査時点でおもに仕事をしていた人(原則週5日以上の勤務と原則週5日未満の勤務の合計)の割合は、20代が34.0%と最も少ない。この割合は年齢が上がるにつれて30代46.6%、40代65.7%と増加していくが、60代では39.3%まで減少する。

もう一つの特徴として、有配偶女性のうち20代では、調査時点で「仕事を休んでいた(疾病、出産・育児、介護、通学などによる休職)」と回答した人の割合が31.1%と他の世代に比べて高いことが挙げられる。ライフイベントにより仕事から家事・育児を中心とする「主婦」になった人には、休職している人と退職した人がいるが、20代では休職を選択する割合が高い。

これは昨今、育児・介護休業法の改正への対応や女性活躍の必要性により、企業が出産・育児などのライフイベントと仕事を両立できる環境を整えていることが影響している可能性がある。厚生労働省(2024)によると、女性の育児休業取得率は1996年に49.1%と50%を下回っていたが、2008年には90.6%まで上昇している。その後も80%以上を維持し、2023年の育児休業取得率は84.1%である。ただし、有期雇用労働者の2023年の育児休業取得率は75.7%である。有期雇用労働者の取得要件の緩和(※3)などで環境整備は進むものの、女性全体の取得率に比べると8.4%ポイント低い。

 

図表3 年代別の就業状況(子どもがいる有配偶女性) ※クリックして拡大 図表3 年代別の就業状況(子どもがいる有配偶女性) ※ウェイトバック集計を行っている
※四捨五入により、各年代の合計が100%とならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「JPSED2024」より筆者作成

出産のタイミングは個人差がある

子どもがいる有配偶女性の時間制約に強く影響を与えるとされる末子年齢について、女性の年代別に整理した(図表4)。末子年齢の広がりは、20代では0~9歳、30代では0~14歳と大きくはない。一方、40代では0~34歳、50代では5~40歳以上と末子年齢の広がりは大きかった。20代や30代の女性の場合、今後出産を予定する人がより多く含まれると考えられるため、20~30代の女性と40~50代の女性の末子年齢の幅を比較することはできない。

しかし40~50代のデータからわかるように、出産タイミングには個人差が大きく、したがって女性の年齢を軸にして、何歳の子どもがいると想定することは難しいと言えるだろう。これから先、20代・30代でもこのような傾向が見られるのか、継続して確認していきたい。

 

図表4 年代別の末子年齢(子どもがいる有配偶女性) ※クリックして拡大図表4 年代別の末子年齢(子どもがいる有配偶女性)
※ウェイトバック集計を行っている
※四捨五入により、各年代の合計が100%とならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「JPSED2024」より筆者作成

子どもがいない有配偶 女性の就業状況は20代がピーク

子どもがいない有配偶女性(全体の12.7%)の就業状況を確認してみる(図表5)。該当する女性のうち、おもに仕事をしていた人(原則週5日以上の勤務と原則週5日未満の勤務の合計)は、20代の75.5%をピークに6%ポイント前後で減少が続き、50代には57.5%となる。60代では18.0%ポイント減少の39.5%となり、約4割がおもに仕事をしている人となる。

一方で「通学・家事・育児・介護をしていた(どこにも勤めていない)」「閑散期で仕事がなかった・探していた・その他(どこにも勤めていない)」との回答は20代の13.7%から約7%ポイントずつ増加し続け、50代には34.4%となる。60代には50代より17.7%ポイント増加し52.1%となる。子どもがいない有配偶女性の特徴として、年齢を重ねるごとに仕事をする人が減少していくことがわかる。つまり、このセグメントでは、年齢を重ねるごとに家事を中心に生活する「専業主婦」が増加していくのだ。 

 

図表5 年代別の就業状況(子どもがいない有配偶女性) ※クリックして拡大 図表5 年代別の就業状況(子どもがいない有配偶女性) ※ウェイトバック集計を行っている
※四捨五入により、各年代の合計が100%とならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「JPSED2024」より筆者作成

子どもがいない女性は、本当に就業率が高いのか

ここまで、子どもがいる有配偶女性と子どもがいない有配偶女性を個別に確認してきた。改めて「仕事をしていた」と回答した人を抜き出し、この2タイプの有配偶女性を年齢別に並べて比較した(図表6)。これによると20代、30代では子どもがいない有配偶女性で仕事をしている割合が高く、20代では42.4%ポイント、30代では21.0%ポイントと顕著な差があることがわかる。

一方で、40代、50代では子どもがいる有配偶女性の方が、子どもがいない有配偶女性よりも仕事をしている人が多い。出産や子育てといったライフイベントがなく、時間的な制約が少ないとされる子どもがいない有配偶女性は就業を阻害する要因が少なく、就業率はどの年代でも高いと想定していた。しかし、データから明らかになったのは、子どもがいない有配偶女性は年齢とともに就業率が低下する傾向である。なぜ子どもがいない女性の就業率が低下傾向になるのか、その要因の分析は今後の課題としたい。

 

図表6 有配偶女性の子どもの有無による(年代別の就業状態比較) ※クリックして拡大 図表6 有配偶女性の子どもの有無による(年代別の就業状態比較) ※ウェイトバック集計を行っている
出所:リクルートワークス研究所「JPSED2024」より筆者作成

「主婦」という言葉で一括りにするのは難しい

主婦はどのような人たちなのかという視点から、子どもがいる有配偶女性と子どもがいない有配偶女性の就業状況について見てきた。「主婦」という言葉でイメージされやすい配偶者のいる女性であっても、就業状況は子どもの有無や年代によって大きく異なっていた。つまり採用ターゲットとして「主婦」を漠然とイメージしても、その実情を正しくつかめていない可能性が高いということだ。例えば、20代の子どもがいる既婚女性では仕事をしていない人の割合が60.6%(※4)と高いが、そのうち半数以上の51.3%が休職中の女性である。

また、末子年齢と有配偶女性の年齢から、出産のタイミングに個人差があることもわかった。子どもの有無別に既婚女性を捉えて、ライフイベントを想定するのも難しい。だからこそ、「主婦」という括りの言葉ではなく、例えば育児と家事で身につけたスキルを持つ人(※5)、1日4時間からの短時間でも働くことが可能な人など、具体的な活躍シーンを基に採用ターゲットを考えることが必要なのではないだろうか。

●参考文献
厚生労働省(2024)「令和5年度雇用均等基本調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r05/07.pdf (2025年4月3日アクセス)
佐藤裕紀子(2018)「家政学における生活主体としての主婦~その歴史的変遷と課題~」『家政学原論研究』 No.52, p72-76
ジョブズリサーチセンター(2016)「ありのママ採用のススメ」
https://jbrc.recruit.co.jp/trend/arinomama/pdf/all.pdf(2025年5月8日アクセス)
千田有紀(2002)「主婦」井上輝子・上野千鶴子・江原由美子・大沢真理・加納実紀代編『女性学事典』岩波書店 p 193-195
内閣府(2005)「平成17年版男女共同参画白書」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h17/danjyo_hp/html/honpen/chap01_00_00.html (2025年3月27日アクセス)
西村純子(2001)「主婦という違和感/主婦という制度―現代中年女性のライフ・ストーリーから―」『家族社会学研究』No.12(2), p223-235
広井多鶴子(2000)「『主婦』ということば-明治の家政書から-」群馬女子短大『国文研究』27号, p15-29
労働政策研究・研修機構(2025)「専業主婦世帯と共働き世帯 1980年~2024年」
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0212.html(2025年4月16日アクセス)
(※1)佐藤(2018)によると、広辞苑では「主婦」を「①一家の主人の妻、②一家をきりもりしている婦人」と定義しており、女性学事典(千田,2002)では「家事責任を負う既婚女性」と示され、このような既婚女性を家内役割の担い手として捉える発想は近代において誕生したのではなく、既に江戸時代から存在していた。
(※2)西村(2001)は、主婦の定義について、家事・育児などの家庭責任を負う女性を指す実態的なカテゴリーであると同時に、女性を家事・育児の責任者とするような意味・モノ・行為の体系からなる制度だと示している。
(※3)2022年4月の育児・介護休業法改正では、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件が緩和された。「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件が撤廃され、「1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない」のみとなり、育休を取得できる対象者が拡充した。
(※4)20代の子どものいる既婚女性では、「仕事を休んでいた(疾病、出産・育児、介護、通学などによる休職)」が31.1%、「通学・家事・育児・介護をしていた(どこにも勤めていない)」が23.1%「閑散期で仕事がなかった・探していた・その他(どこにも勤めていない)」が6.4%であった。
(※5)ジョブズリサーチセンター(2016)では、主婦は家事や育児の経験を通じて、コミュニケーション力、迅速な対応力、おもてなし力、マネジメント力といったスキルを身につけ、独自の強みを持つ人材として活躍する事例を紹介している。

岩出 朋子

大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。