AIはホワイトカラーの仕事を奪う?――日本の就業者調査データから検証する

2026年02月24日

ChatGPTなどの生成AI技術を筆頭に、AI技術の発展と職場への浸透は著しい。これまで自動化があまり進んでこなかった、議事録作成や情報収集業務などの事務処理系のタスク(作業)を生成AIで実行できるようになったこともあり、事務職など「ホワイトカラーの職が奪われる」との懸念が多く聞かれる。
もっとも、そういった不安を煽る噂は、主に海外でのマクロ現象(「アメリカで大卒若年者の失業が増えている」など)やシミュレーションに基づいていて、日本の就業者が実際にAIをどう活用しているかという実態からの議論は少ない。本コラムでは、我々が実施した、日本の就業者全体を母集団とした質問紙調査で得られた、仕事でのAI活用の実態を見ていこう(※)。

ほとんどの職種で、仕事でAIを「まったく活用しない」人が6割

日本の就業者は、仕事でAIをどの程度活用しているのか。事務職などホワイトカラーの仕事こそが奪われるという議論も踏まえ、職種別のAI利用状況を示したのが図表1である。なお、ここでの「AI」には、生成AIに限らずAI全般が含まれる。

図表1 職種別に見た、仕事でのAI活用状況

図表1 職種別に見た、仕事でのAI活用状況
(注1)本調査では、仕事におけるタスク(詳細は図表2参照)ごとのAI利用頻度を尋ねており、回答者が最も頻繁にAIを利用しているタスクでの頻度を代表値として用いた。なお、この調査で「AI」は「ChatGPTなどの生成AI、需要予測やマッチング、自動最適化などの生成AIに限定されないAI、自社AI、AIを活用したロボットによる自動化などを含」むと定義している。
(注2)職種については、214個の小分類で回答を得たものを上記の6分類にまとめている。

図表1を見ると、専門職・技術職とそれ以外の職種でAIの活用状況に違いがあることが分かる。専門職・技術職では、よく活用する人(毎日活用する+週に数回活用する)が過半数を占め、まったく活用しない人は3割程度にとどまる。他方で、それ以外の職種ではまったく活用しない人が6割前後を占めている。AIによって職が脅かされているとされる事務系職種でも、よく活用する人は24.5%と1/4に満たない。いわゆるブルーカラーに該当する生産工程・労務職だと、よく活用する人は28.4%であり事務系職種よりもやや多い。この調査は就業者のAI活用について尋ねているので、AIで職が完全に奪われているケースは見えにくい。それでも、事務系職種でも過半数が仕事でAIをまったく活用しておらず、むしろ生産工程・労務職の方が活用しているという結果を見る限り、AIの浸透でホワイトカラーこそ職を奪われる、という状況にはまだ至っていないと思われる。

ブルーカラーの人々も情報処理タスクでAIを活用している

もっとも、図表1はAI全般の仕事での利用についての結果であり、ホワイトカラーの職種では事務処理などにAIを活用し、ブルーカラーの職種では、AIロボットなどを活用して品質管理や製造を行っているなど、AIが活用されるタスクが大きく違うのではないかとも想像される。もしそうであれば、仕事におけるAI活用状況が見た目上はほぼ同じであっても、その内実と今後AIから受ける影響は両者で大きく違ってくることになる。
そこで、ブルーカラーを代表して生産工程・労務職、ホワイトカラーを代表して事務系職種を取り上げて、タスクごとにAIをよく活用する割合を見てみよう。

図表2 生産工程・労務職と事務系職種における、タスクごとのAIをよく活用する割合

図表2 生産工程・労務職と事務系職種における、タスクごとのAIをよく活用する割合
(注1)各タスクにおけるAI活用頻度についての、毎日活用する、週に数回活用する、月に数回活用する、年に数回活用する、まったく活用しない、という選択肢について、毎日+週に数回の割合を示した。分母には、そのタスク自体をまったく行わない層も含めている。

図表2は、生産工程・労務職と事務系職種について、25個の様々なタスクでのAIをよく活用している人の割合を示したものである。生産工程・労務職で「手と腕を使って物を取り扱い動かす」が多いことを除いて、グラフの形状がきわめて似通っていることが分かる。つまり、AIをよく活用するタスクは、生産工程・労務職と事務系職種で大きな違いはない。

どちらの職種でも、最も多くAIが活用されているのは、「新しい情報や知識を更新し、仕事に活用する」であり、次に多いのは、事務系職種では「情報やデータを処理、分析する」、生産工程・労務職では「情報の文書化と記録を行う」である。順序こそ違うものの、これらの割合は2つの職種でほぼ同じであり。こういった情報処理タスクでAIが活用されていることが分かる。また、「他者とコミュニケーションをする」も多い。生産工程・労務職の人々も、日報や図面の作成、メール執筆などにおいて生成AIを活用している様子が垣間見える。

ブルーカラーとホワイトカラーとラベリングされると、両者はまったく異なる仕事をしているように思えるかもしれない。だが、タスク単位で見ると共通部分も多い。実際、AI活用に限らず、仕事での各タスクをよく行う人(毎日+週に数回)の割合を見たところ、「情報やデータを処理、分析する」こそ事務系職種の方が多いものの、「新しい情報や知識を更新し、仕事に活用する」や「情報の文書化と記録を行う」、「他者とコミュニケーションをする」は生産工程・労務職と事務系職種で同程度である(図表は省略)。どちらの職種でもそれらのタスクで生成AIを活用する人が一定数いて、生産工程・労務職ではそれに加えて「手と腕を使って物を取り扱い動かす」タスクなどでのAI利用もあることで、図表1で見たように生産工程・労務職の方が、仕事でAIをよく活用する人がやや多い実態にある。

AIの影響は、職種ではなく個々のタスクに表れる

ここまでの結果を踏まえると、「AIによってホワイトカラーの職が奪われる」という議論は、現在のところ2つの点で早計である。
第一に、図表1から分かるように、そもそも日々の仕事におけるAI活用の頻度はいまだにさほど多くない。もちろん、今後急速に浸透することも考えられる。とはいえ、AIが雇用に大きく影響しているとされるアメリカの実態などを観察しつつ、ホワイトカラーのタスクを、AI活用を前提にどう再設計し生産性を高めていくかを考える猶予が日本にはまだ残されている。

第二に、AIの活用によって直接的に失われるのは、職ではなくタスクである。生産工程・労務職と事務系職種という、仕事が大きく違いそうな職種でも、日々こなすタスクには共通する部分も多い。もちろん、事務系職種の方が情報処理タスクにより多くの時間をかけており、それがAIによって奪われるということはあるだろう。とはいえ、AIがあるタスクを代わりに遂行してくれるとしても、AIに遂行できないタスクが残るのであれば、タスクごとの時間配分自体を変えることになるはずだ。あるいは、かつての産業革命やパーソナル・コンピュータの影響がそうであったように、新しいタスクが生まれ、それに時間をかける必要が出てくるかもしれない。現に、AIを盛んに活用するホワイトカラーの多くは、AIがこなした作業のチェックや様々な判断により多くの時間をかけるようになったと言われる。
AI技術が急速に発展する中で、上記のような楽観的な予測は裏切られるかもしれない。だが、ホワイトカラーもまだまだAIを活用しきれていない以上、ホワイトカラーの行く末を悲観するには時期尚早である。

(*)リクルートワークス研究所が2025年10月に実施した「職場でのAI利用とタスク調査(WAITS)」。総務省統計局「労働力調査」のデータをもとに、性×年齢階級×学歴×就業状態別の割付を行った。分析に使用したケース数は5,482であり、分析にあたっては上記の割付情報を用いて母集団での分布に戻すウェイトバック処理を行った。