HR Tech Roundup  海外のHRテクノロジー最新ニュース2024年米国のHRテクノロジートレンド予測

2023年のHRテクノロジー業界は生成AIの実装が急増したが、2024年は何がトレンドとなるのか。大手調査会社の2024年予測を踏まえ、筆者が注目する米国のトレンドを下記に挙げた。日本国内のHRテクノロジーがどのように発展するのか参考になるだろう。

2024年HRテクノロジートレンド予測

1. トータルタレントマネジメントを促進するテクノロジーを活用

米国の人材不足は依然深刻で、企業はこの課題を解消するために、外部人材を活用する必要に迫られている。MBO Partnersが企業600社の人事リーダーを対象に実施した調査では、企業の労働力に占める外部人材の割合は2022年時点で平均28%であるが、5年後の2027年末までには38%になるという。
内部・外部人材を合わせたトータルタレントマネジメントを促進するには、外部人材の調達や管理を行うテクノロジーである「ダイレクトソーシングプラットフォーム」が有用であり、企業の関心が高まっている。ダイレクトソーシングプラットフォームでは、フリーランサー(過去に協働した人材も含む)やアルムナイ(OB・OG、定年退職者)といった外部人材から成る自社独自のプライベート人材プールを構築することで、新規プロジェクトを立ち上げたときに適切な人材をすぐに調達できる。このほか、企業がシステム上でフリーランサーへの業務の発注、マッチング、成果物の納品、報酬の支払いを行えるフリーランスプラットフォームもトータルタレントマネジメントの促進に活用されている。

HRテクノロジーの例: MBO Partners、Elevate Direct

2. プレディクティブアナリティクスの精度が高まり、要員計画を最適化

米国企業が2024年に投資を増やすとされるHRテクノロジーの1つに、プレディクティブアナリティクス(※)がある。プレディクティブアナリティクス(予測分析)は、過去の歩留まり率やコンバージョン率などを基に採用に要する日数を予測したり、勤続年数や前回の昇進時期から退職リスクの分析や退職者数の予測を行う手法である。2023年は特に大手テック企業による大量解雇が相次いだ。Korn Ferryシニアクライアントパートナーのファン・パブロ・ゴンザレス氏は、「2024年はAIの進展でプレディクティブアナリティクスの精度が向上し、企業は今後自社が一定期間内に必要とする人員の数やタイプを予測できるようになり、採用した数千人規模の従業員の半数を半年後に解雇するといった事態を防げるだろう」との見解を示した。より精度の高い予測に基づいた意思決定が可能となり、採用活動が効率化され、人材育成や配置を最適化できる。

HRテクノロジーの例:Visier、Crunchr

3. エンゲージメントを向上させる従業員リスニングプラットフォーム

HRテクノロジー第一人者のジョシュ・バーシン氏は、2024年のトレンドの1つに、従業員リスニングプラットフォームなどを活用した「従業員の活性化」を挙げている。従業員の活性化とは、現場の従業員の声に耳を傾け、フィードバックに基づいて業務プロセスの調整・変更や組織改革などを行うことを表す。企業は、従業員リスニングプラットフォームの「従業員クラウドソーシング」機能で、従業員からリアルなフィードバックや具体的なアイデアを自由回答形式で広く集めたり、従業員が匿名で投稿したアイデアや意見に対してほかの従業員が投票を行い、最善のアクションを導き出すことができる。社内の意思決定プロセスに従業員を巻き込むことでエンゲージメントが高まり、離職防止にもつながる。

HRテクノロジーの例:Medallia、Perceptyx

4. ウェルビーイングテクノロジーの需要が高まる

Contrive Datum Insightsによると、世界の法人向けウェルビーイングテクノロジー市場は、2022年の4億950万ドルから、2030年には7億1431万ドルに増加することが見込まれている。
市場拡大の要因の1つは、リモートワークが急拡大し、企業が従業員の不調に気づきにくいことが挙げられる。従業員の心身の健康をサポートするウェルビーイングテクノロジーは、AIの活用が進んでおり、従業員の健康データを基に、AIチャットボットが個々のニーズに合わせた食事や運動を提案したり、AIセラピストが即時にメンタルヘルスケアを提供したりする。
優秀な人材の確保・定着や会社全体の生産性・創造性向上の手段として、ウェルビーイングサービスを充実させる企業が増えている。

HRテクノロジーの例:Gympass、FlexWage、Lyra Health、Care.com

5. 公平公正な給与・報酬体系を設定できるツールの需要が増加する

米国では、2023年にカリフォルニア州やニューヨーク市で、2024年1月1日にはコロラド州やハワイ州で、企業に対して求人広告における給与情報の開示を義務付ける法律を制定・施行した。性別や人種間などに存在する賃金格差の是正を目的とした給与透明化の動きが広がっている。企業は、給与格差が生じている職種の特定や、公平な給与体系の構築、競合他社の給与水準の調査を自動で行うツールなどを活用し、賃金の公平性を担保している。H3 HR Advisorsは、2024年にCSRの観点に加えて、人材戦略の一環として公平性を推進するため、これらのツールの需要増加を見込んでいる。

注目のHRテクノロジー:Salary.com、 Visier

Conference Board(全米産業審議会)が米国企業約200社のCHROを対象に実施した調査では、2024年の優先課題に人材の確保・定着や従業員体験の向上が挙げられた。上述のテクノロジーは、どれもこの課題解決に役立つものであり、企業のニーズはさらに高まるだろう。

(※)過去のデータを基に、機械学習技術、統計モデリング、データマイニングなどの技術で将来の結果を予測する手法を指す。

TEXT=杉田真樹