HR Tech Roundup  海外のHRテクノロジー最新ニュースリモート時代の社内コミュニケーションツール Bob

10月号から内容をリニューアルし、筆者が注目するサービスやHRテクノロジー業界の動向などについてご紹介します。

欧米主要国を中心に、リモートワークを推奨し、従業員が働く場所を自由に選択できるしくみを導入する企業が増えている。一方、リモートワークには、何気ない会話や雑談が減るといった社内コミュニケーションの希薄化や、新規採用者がなかなか会社になじめないといった問題点がある。コミュニケーション不足は、従業員のモチベーションの低下や離職につながる可能性があり、いかに防止するかが企業の課題となっている。
企業はそれらの解決策として、新たなコミュニケーションツールを導入している。ツールを介することで、さまざまな国や地域でリモートで働く従業員同士のつながりを強化し、従業員エンゲージメントを高めている。中でも注目は、HiBobが提供するSaaS型のHCM(人事管理プラットフォーム)のBobである。

導入実績は3500社超

HiBobは、2022年にTIME誌の「Best Inventions of 2022(2022年の最も優れた発明)」100社に選ばれ、翌年5月にはLighthouse Research & Advisoryの「HR Tech Awards」で「Best Culture Building Solution(最優秀文化構築ソリューション)」など4つの賞を受賞した。同年9月には、Farallon Capital Managementなどから1億5000万ドルを資金調達し、企業評価額は約27億ドル(約4000億円)となった。将来性と希少性の高さを示す「ケンタウロス」(※1)に含まれる。
Bobは、13カ国語に対応し、Fiverr、Cazoo、Gong、Hopin、Monzo、Happy Socks、VaynerMediaといった成長著しい中堅・中小のグローバル企業3500社以上166カ国で利用されている。
企業はBobをどのように活用し、従業員エンゲージメントを高めているのだろうか。

Bobで社内コミュニケーションを活性化

Bobは、社内コミュニケーションの活性化や従業員体験の向上に重点を置いている。たとえば、社内向けの情報発信を目的としたコミュニケーションサイトでは、新規採用者や勤続記念日が近い従業員の顔社員が表示され、ワンクリックでメッセージを送れるなど、従業員同士がコミュニケーションを取りやすい要素を取り込んでいる。また、画像などの視覚的コンテンツを中心としたSNS風の作りで、従業員は気軽にコメントや「いいね」で反応を示すことができる。「Shoutouts」ではマネジャーが部下の誕生日やチームのマイルストーン達成を祝い、「Kudos」では従業員同士が個人やチームの功績や貢献を称え、感謝のメッセージを伝える。お互いを認め合う機会をつくることで、ポジティブな雰囲気が社内に広がり、従業員のモチベーション向上につながる。
ほかの機能では、今日は誰が在宅やオフィスで勤務しているか、あるいは育児休暇や有給休暇中の従業員など、出社の状況が一目で把握することができる(図1)。テレワークの場合、相手の様子が見えづらいため連携がうまく取れないことがあるが、従業員の勤務状況が可視化されることで、業務をより円滑に進めることができる。

【図1】社内のコミュニケーションサイトhtr_035_1.jpg従業員同士がお互いの功績を称えたり、マネジャーがチームのマイルストーン達成を祝う
出所:HiBobウェブサイト(外部リンク)

「People Directory」では、国籍や民族、言語、ジェンダー代名詞(※2)、ニューロダイバーシティ(発達特性)、趣味・特技、好きな食べ物、星座など自由に項目を追加し、従業員同士が気軽にプロフィールを共有することができる。また、自己紹介の動画だけでなく、自分の名前の正しい発音を録音した音声データをプロフィールに登録できるなど、さまざまなバックグラウンドをもつ従業員が自分らしく働ける職場づくりを細部にわたりサポートしている。リモートワーク環境下では、仕事で接点がない相手には声をかけづらいが、共通の趣味や興味関心を持つ従業員同士がつながる「HiBob's Clubs」機能もあり、会話の糸口を見つけ、新たなコミュニケーションが生まれるきっかけとなる。

内定者はBobで入社前から従業員と交流

人材を採用し定着させるには、内定後のフォローが重要である。Bobは、企業と内定者との関係構築にも活用できる。内定者はBobに登録することで、社内ポータルの投稿を読んで情報収集をしたり、従業員と交流したりして、入社前に職場の雰囲気をつかむことができる。企業は、内定者に企業文化を紹介する動画や、入社の歓迎、入社後に同じチームで働く同僚や上級管理職を紹介するメッセージを送信する(図2)。
リモートワークでは、新規採用者が従業員と対面で会う機会が少ないため、「新しい職場になじめるか不安」といった声もあるが、企業はBobを活用することで、内定者の不安を払拭し、内定辞退の防止や早期定着を図ることができる。

【図2】新規採用者への歓迎メッセージ入社後に同じチームで働く同僚を紹介するBob入社後に同じチームで働く同僚を紹介する
出所:HiBobウェブサイト(外部リンク)

人事向けの機能では、雇用契約書や行動規範同意書の送信、ログインIDの発行、PCの支給などの業務フローを自動化し、複数の従業員のオンボーディングを簡単に管理できる。

社内の情報共有を一元化し、問題を把握

社内の情報共有を円滑にし、透明性を高めることは、従業員の会社への信頼度の向上や定着につながる。従業員は社内の最新ニュースや、リモートワークや休暇の制度、行動規範やDEIに関するポリシーなど、会社の方針や取り組みを把握し、投票という形で気軽に意思表示することもできる。従業員が社内でのハラスメントや差別などの問題や不正行為を、匿名で報告・相談する「Your Voice」機能もある。
リモートワークの浸透とともに「リモハラ」(リモートワーク中に起こるハラスメント)などの問題が浮上したが、企業はBobを通じて社内の状態を把握し、早期に対処できる。

双方向のコミュニケーションを促進

Bobの製品デモを受けたが、同僚にメッセージを送ってみようかと従業員に思わせるしくみづくりに長けていると感じた。
また、2020年頃から小売や飲食、製造、建設など現場で働くノンデスクワーカーなど従業員とのコミュニケ―ションに特化したツールが登場しているが、Bobは、会社からの発信に従業員がコメントしたり、投票するなど双方向のコミュニケーションをサポートする機能が豊富である。
働く場所や働き方、仕事内容といった「働くこと」を見直すなど、個人の意識や価値観が変化している今、企業は上記のようなツールを導入し、従業員が意見や感想を気軽に共有できる場をつくるなど、従業員とのつながりを強化することが求められている。

(※1)企業評価額が10億ドル以上、年間経常利益が1億ドル以上の未上場企業。
(※2)she/her、he/him、they/themなど自分を呼ぶときに使ってほしい代名詞。

TEXT=杉田真樹