Global View From Work Tech World第7回 世代交代が進まない日本企業では消費の潮流変化に対応できない

ミレニアル・Z世代が台頭するアメリカでは、ESG投資やウォーク・キャピタリズム(「意識高い系」資本主義)が注目される一方、トランスジェンダ―をCM起用したバドワイザーの売上が激減するなどの反発も起こり、消費の潮流が大きく変化しています。

経営学者フィリップ・コトラーは著書『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』で、良い商品をつくり、適切な場所に適正価格で置き、認知促進する従来型マーケティング(4P: Product, Price, Place,Promotion)から、デジタルを中心としたマーケティングに進化する必要を指摘しています。
その重要な背景として、①ジェネレーションギャップ、②繁栄の二極化、③デジタルデバイドの3点を挙げています。

かつてデジタルデバイドは回線やデバイスの有無に由来していましたが、スマホや4Gの普及によって、誰もが容易にインターネットにアクセスできる現在、新たな格差が生まれています。良質な教育コンテンツが無料で開放され、IoTデバイスで健康を管理でき、ロボアドバイザーが自動的に富を拡大する一方、デジタルリテラシーの低い層はメリットを享受できず、あらゆる領域で二極化が進むでしょう。

デジタルリテラシーは、世代と深く関わっています。デジタル非ネイティブのベビーブーマー世代やX世代(1965年~1979年生まれ)、スマホとともに思春期を過ごしたZ世代、生まれたときから動画や仮想ゲームに親しむα世代では、デジタルリテラシーの前提条件が大きく異なります。前提条件の相違は、価値観の形成にも大きな影響をもたらしています。

アメリカでは2030年に労働力の3割をZ世代が占めると予測される一方、高齢化の進む日本では、JTC(伝統的な日本企業)や政界の意思決定層で世代交代が進まないままです。このため「いい商品をつくれば売れる」という従来型マーケティングから脱却できていない。提供者側と消費者側の世代間格差によって、大きな乖離が生じているのです。

どの世代が経済活動の中心を担うのか。ライフステージと世代の掛け算がもたらす変革期をいち早く捉えたプレイヤーが勝者となります。自社の商品・サービスは、どのライフステージにある層に訴求可能か、やがて台頭する世代に向けて十分な準備ができているか、吟味したうえでマーケティング戦略を立案する必要があります。

w183_tech_main.jpg世代によって触れるデジタルサービスもデバイスも大きく異なる。その違いに鈍感だとビジネスチャンスも逸してしまう。
Photo=CFoto/ 時事通信フォト

Text=渡辺裕子

尾原和啓氏
Obara Kazuhiro
IT批評家。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、NTTドコモ、リクルート、グーグル、楽天などを経て現職。著書に『ザ・プラットフォーム』『アフターデジタル(共著)』ほか。

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