Global View From Singapore第3回 世界で情報共有する場、ASAKAI 部門や地域超えるGEMBAの経験

かつて日本の製造業が強みとした「GEMBA(現場)」。オンライン化や事業の多角化、グローバル化が進む、現代におけるGEMBAを考える際、楽天が創業以来26年間続けるASAKAI(朝会)がヒントになるのではと前号でお話ししました。

楽天のASAKAIは、世界の全社員が毎週参加します。日本では基本的に、毎週月曜朝8時に始まり、代表取締役会長兼社長・三木谷浩史のメッセージや各事業の進捗を共有します。4時間半後にはアジア、8時間後にはヨーロッパ、17時間後には米国で開かれ、各地域の全社員が1日で同じメッセージを受け取ります。

事業・部門は多岐にわたるため、自分の業務と直接関係のない発表もありますが、それこそがASAKAIの価値の1つだと考えています。

楽天のビジョンは「グローバル イノベーション カンパニー」であり続けること。シュンペーターは、イノベーションには新結合が不可欠としています。一見無関係な人や情報が結びつくことで、点と点がつながる。つながりが増えるほどイノベーションの生まれる確率が加速度的に高まるため、部門や国を超えたGEMBA共有の設計が重要です。

アジアのASAKAIでは、インドでの取り組みを聞いた台湾の経営陣が発表者にすぐ連絡をする、などの風景も珍しくありません。発表者の所属する法人・部門・役職・メールアドレスをZoom背景に記載し、直接連絡することを促しています。

「ASAKAIには必ず参加し、一見無関係なトピックを自分の仕事に役立てる方法を考えてほしい」と司会からも繰り返し伝えています。

世界で全社員が経営陣のメッセージを同日に受け取る機会は得難いものですが、各国の文化や宗教の背景によって、受け止められ方は異なります。アジアHQでは、日本のASAKAIをライブで視聴し、経営陣のメッセージを毎回秒単位で計測、該当地域の社員の視点に立って、必要な箇所には編集や注釈を加えます。30カ国・地域で働く社員に正しくメッセージを伝えるための地道な調整です。

通常は4つのリージョン別に開催していますが、最近四半期に1 度、全世界が同時接続するグローバルASAKAIも始まりました。場所も文化的背景も異なる全社員がオンライン上で一堂に会する貴重な場で、ここから多くの点がつながるよう日々改善を重ねています。

w179_singapore_main.jpg経営者のメッセージが世界中のオフィスに同日に届くことで、楽天では「GEMBA」感覚の共有につながっている。
Photo= 日髙氏提供

Text=渡辺裕子

日髙達生氏
Hidaka Tatsuo
楽天ピープル&カルチャー研究所代表。筑波大学卒業。2018年1月楽天入社。企業文化や組織開発に特化した研究機関「楽天ピープル&カルチャー研究所」を設立し、代表に就任。主にシンガポール含むアジア諸国と日本を往来しながら活動。

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