Global View From Singapore第2回 世界30カ国・地域の全社員が毎週参加 楽天が26年間「ASAKAI」を続ける理由

シンガポール国立大学で開催されたスペイン・IESEビジネススクールによるエグゼクティブMBAのアジアセッションに登壇した際、教授たちと歓談する機会がありました。印象的だったのは、「日本企業は“オワコン”」という前提で会話が進んでいたことです。5年前からシンガポールで働き、日本を俯瞰的に見ているつもりでしたが、やはりショックでした。

そこで、なぜ引き続きIESEのフィールドワークで日本企業を取り上げるのか、と尋ねると、日本企業が環境変化に適応できなかった失敗から学ぶため、その一方で日本企業には今もなお世界が学ぶべきエッセンスがあるはず、という2つの理由が返ってきました。

今回のアジアセッションにおけるテーマの1つは「GEMBA(現場)」。トヨタ式KAIZEN(改善)のように、GEMBAも海外で日本語のまま経営用語として使われているものの1つです。コロナ禍を経てオンライン化が進み、GEMBAの重要性はあらためて見直されています。

オンライン化に加え、事業の多角化により組織は細分化され、グローバル化によって時差や言語・文化の壁が生まれ、従業員が物理的に一堂に会する場は減りつつあります。そのなかで、日本の製造業が強みとしてきたGEMBA起点の意思決定こそ、競争優位に立つために必要なのかもしれません。

では、IT企業にとってのGEMBAとは何か。
私は、楽天が創業以来26年間、毎週欠かさず続けてきたASAKAI(朝会)が、1つのヒントになると思います。楽天のASAKAIは、日本では毎週月曜朝8時に始まり、国内の全社員が同時接続し、代表取締役会長兼社長・三木谷浩史のメッセージや各事業の進捗を共有します。4時間半後にはアジア、8時間後には欧州、17時間後には米国で、各地域の全社員が参加し、1日で同じ情報を受け取るのです。

創業初期に始めたASAKAIを、世界30カ国・地域で70以上の事業を展開する現在まで続けるのは、各国・各事業のGEMBAで起きていることを極力リアルタイムに共有することを経営の優先事項と捉えているためです。楽天の社内公用語は英語ですが、ASAKAI、SHIKUMIKA(仕組み化)などをあえて日本語のまま使うのは、こうした慣習や考え方に日本型経営の可能性を見出しているからかもしれません。

次号でASAKAIの運営について詳述します。

w178_singapore_main.jpgIESEのアジアセッションでは各国の著名な教授陣が日本企業に“注目”していた。
Photo=日髙氏提供

Text=渡辺裕子

日髙達生氏
Hidaka Tatsuo
楽天ピープル&カルチャー研究所代表。筑波大学卒業。2018年1月楽天入社。企業文化や組織開発に特化した研究機関「楽天ピープル&カルチャー研究所」を設立し、代表に就任。主にシンガポール含むアジア諸国と日本を往来しながら活動。

Reporter