Global View From Singapore第6回 顧客へのインクルーシブネス向上のためにサービス開発過程で多様性を検証

前号では、楽天のD E I B ( D & I , Equity, Belonging)への取り組みについて、組織開発の観点からご紹介しました。今回紹介するのは、DEIBを事業面から実現するサービスインクルージョンの考え方です。これは我々の造語で、Googleが実践するインクルーシブデザインのアプローチ、プロダクトインクルージョンに基づいています。

代表例としては、音声ガイダンスや字幕表示などのアクセシビリティの向上や人種・ジェンダーの多様性に配慮したプロダクト開発が挙げられますが、大切なことは、誰もが疎外感を感じることなく快適な顧客体験を得られることです。

Googleのプロダクトインクルージョン責任者アニー・ジャン=バティスト氏は、プロダクト開発の(1)アイデア出し、(2)UXリサーチとデザイン、(3)ユーザーテスト、(4)マーケティングの4段階それぞれで多様な視点を取り入れることを提案しています。

多様な視点を取り入れるには、自社従業員に加え、専門家やユーザーなど外部の声を反映することも必要です。重要なことは「(シニア層や子育て世代、性的少数者など)◯◯の立場だったら使いやすいか」、さまざまな視点から検証し、意思決定につなげることです。

楽天グループが提供するうちの47サービスについて、サービスインクルージョンの実現度をユーザーに調査したところ、楽天カードや楽天生命では同性パートナーを登録できるなどの取り組みが見られた一方、改善が必要なサービスもありました。そのため2023年春には、サービス改善に向けて日本最大級のLGBTQ関連イベント「東京レインボープライド」参加者を対象にアンケート調査を実施しました。

取り組みを加速させるために、推進することで得られる利点を3つ挙げています。一般的に指摘されるリスク管理やブランディングに加え、最大のメリットは利益への貢献です。あらゆる顧客にとって快適なサービス設計は、事業の競争優位にも直結するはず。多様な視点を反映したサービス設計には、組織の多様性が不可欠です。多様性ある組織づくりは、顧客に価値を提供する手段なのです。

それでも開発費用と収益を天秤にかけて二の足を踏むことも理解できます。そこで実際に顧客獲得につながった実績などを定量的に開示し、クイックウィン(すぐに見える小さな成功)を積み重ねています。

w182_singapore_main.jpg毎年開かれる「東京レインボープライド」に楽天として参加したことは、社員の意識を高める一助になったという。
Photo=楽天提供

Text=渡辺裕子

日髙達生氏
Hidaka Tatsuo
楽天ピープル&カルチャー研究所代表。筑波大学卒業。2018年1月楽天入社。企業文化や組織開発に特化した研究機関「楽天ピープル&カルチャー研究所」を設立し、代表に就任。主にシンガポール含むアジア諸国と日本を往来しながら活動。

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