Global View From Singapore第1回 コロナ後改めて注目されるCQ オンボーディングにおいても有効

最近さまざまな場面で話題に挙がるリスキリングの大半はITリテラシーに関するものですが、海外HR市場に目を向けると、IQ(知能指数)やEQ(感情指数)に次いで、カルチャー・インテリジェンス指数(CQ)が注目を集めています。

CQは2000年初頭、シンガポール南洋理工大学のスーン・アン教授らが提唱したもので、文化や価値観の違いを認識した上で適切なコミュニケーション方法やメッセージを選択し、関係者全員にとって最適な方向性を導く能力です。グローバリゼーションの加速やM&Aの増加、労働市場の流動化を背景に、多様化する組織において、カルチャーエンゲージメントは重要な経営課題となっています。

CQには4つのプロセスがあります。まず他者との違いに「興味」を持つ。違いは、国籍や文化、宗教、ジェンダー、世代など多岐にわたります。次に「知識」を得る。LGBTQ+や障がいにまつわる知識、文化や宗教上のタブーを知ることも含まれます。その上で、異なる文化や価値観とのギャップを認識する物差し(評価指標)を持ち、そのギャップを埋めるコミュニケーションの「戦略」を立てる。そして上記3つを踏まえて、適切な「言動」を選択します。

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たとえばコロナ禍でハイブリッドワークが急速に普及し、オフィスや自宅などさまざまな場所で働く従業員のオンボーディングを各社が模索するなか、CQのフレームワークがヒントになると考えられています。

入社者のモチベーションカーブは一般的に入社直後が最も高く、急激に下がり、徐々に回復する傾向があります。カーブの下降を最小限にとどめ、できるだけ早く回復させるには、業務手順に加え、これまで経験した組織文化と自社の文化の違いを振り返る機会を提供し(興味)、企業理念や社内の共通言語を学ぶ(知識)というように、CQのプロセスを育成プログラムに落とし込むことが有効かもしれません。

楽天の入社時研修では、個人の持つ成功体験やこだわりと楽天の企業理念とのすり合わせを行います。入社者が持つ考え方をどう楽天のカルチャーに接続・適応していくかを認識するプロセスです。多様なバックグラウンドを持つ人材を迎え入れ、新しいカルチャーを創造することは、企業の競争優位性に直結するからです。
シンガポールでも、最近さまざまな会合が再開され、グローバル企業の地域統括HR責任者と話す機会が増えてきましたが、CQの重要性はいっそう増しているようです。

Text=渡辺裕子

日髙達生氏
Hidaka Tatsuo
リンクアンドモチベーション執行役員、グループ会社取締役を経て、2018年1月楽天入社。グローバルな企業文化や組織開発に特化した研究機関「楽天ピープル&カルチャー研究所」を設立し、代表に就任。シンガポール在住。

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