Global View From Nordic第6回 デジタル先進国ほどAIの影響大 脅威論より活用派が主流

w182_nordic_main.jpgグリーン技術と生成AIがテーマのシンポジウムには、経済団体のトップらも参加。企業の活用例を紹介しながら、「好奇心を持って早く使い始めるべき」と新技術の利用を促していた。
Photo=井上陽子

2023年11月、米コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーがまとめた生成AIに関するレポートの内容が、デンマークの主要経済紙の一面を飾った。生成AI技術が国内470種類の仕事に与える影響を分析したところ、20%の仕事を代替することができ、その経済効果は2300億〜2900億クローネ、日本円で5兆円規模に上るという。

レポートによれば、影響を受けるのは10人中9人に上り、生産性が高まるといった影響は教育レベルの高い人ほど大きくなる。確かに、と思ったのは、デンマークのように既にデジタル化が高度に進んだ社会ほど、生成AIが与えるインパクトは大きい、という指摘だった。

デンマークは、日本のマイナンバーにあたるCPR番号の導入が1968年に遡り、生まれてからのすべての医療記録がデジタル化されていたり、不動産購入や結婚・離婚など生活のほぼすべてがオンライン手続きで済むなど、デジタル化がかなり浸透している。公的・民間部門にまたがる巨大なデータ基盤が既にあるため、生成AIが効率化、自動化できるポテンシャルもその分大きい、という。

20%もの仕事が取って代わられるとなれば、自分の仕事の将来を案じそうなものだが、デンマークではそんな脅威論よりも、この技術をいかに味方につけるか、という論調のほうが強い印象だ。生成AIは、単調な作業やデータ集めなどを担うアシスタントとなり、仕事の質の向上やスピードアップにつながる、というわけだ。

人件費が高く、無駄な作業は技術で効率化しようというマインドの国だからこそ、AIはそれを加速させるもの、と前向きに捉えられているのだろう。先のレポートでも、公共部門のメリットとして、医療関係者が文書作成に費やす時間の短縮や、診断の迅速化、正確性向上を挙げていた。

EUは2023年12月、AIの包括的な規制法案に合意した。デンマークではこの規制に対して、社会的リスクの高いAI開発を規制するものだと歓迎する一方、「デンマーク企業が法的なグレーゾーンに陥り、行動が制限されかねない」と懸念する声も上がっている。デジタル化で優位に立っているからこそ、生成AIによる生産性の飛躍的な向上やイノベーションの可能性を阻害されたくない、と考えているようなのだ。

Text=井上陽子

井上陽子氏
Inoue Yoko
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。

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