AIが求職者のスキルを測る注目のサービス3選
米国を含む諸外国では、人材不足に対処するための方法として、「スキルベースの採用」に注目している。これは、求人ポジションに直接関連する学位や実務経験のない人材にも採用の機会を広げ、選考プロセスでスキルを重視するアプロ―チである。この「スキル」は、技術スキルだけでなくソフトスキルや性格、資質などを含む。
リクルートワークス研究所が2022年に実施した調査では、デジタル職の採用において、デジタル職に関連する学位や実務経験のない人材を「採用する」と回答した北米企業は1割弱であった。しかし、この約1年間でスキルベースの採用を実践する企業は増加しており、コロラドやオハイオなど一部の州政府も導入している。
企業はスキルベースの採用を実現するために、職務遂行に必要なスキルと求職者が持つスキルを分析し、マッチングを行うテクノロジーを活用している。スキルの評価手法はサービスごとに異なる。たとえば、高精度のAIを用いて履歴書から求職者のスキルを測定する「Eightfold AI」や、履歴書の解析とクイズ回答によるスキルを測る「Phenom People」、履歴書の解析とアセスメントテストでスキルを評価する「iMocha」などがある。これらのサービス内容を紹介する。
1. AIによる履歴書の解析で求職者のスキルを測る:Eightfold AI
Eightfold AIは、10億人の経歴と100万件以上のスキルに関するデータを保有するタレントインテリジェンスプラットフォーム(※1)で、大量のデータを学習した高精度のAIを備え、スキルベースの採用に利用されるツールの代表格である。主に、異業種出身者の採用や大量採用などに利用されている。
AIが応募者のスキルを自動的に解析
Eightfold AIのサービスで開設した採用情報ページに求職者が履歴書をアップロードすると、AIが保有しているスキルやポテンシャルを自動的に解析する。履歴書に記載されていない隣接スキル(現在の仕事と新しい仕事の架け橋となるスキル)も解析し、表示する。また、職務に必要だがAIが保有の有無を判断できないスキルも「不足しているスキル」として示す。企業は面接の際にこのスキルの有無を確認し、採用後の研修でスキル習得が可能かを判断できる。
スキルに合った求人を提案
AIが求職者のスキルに適した順におすすめの求人を提案する。それぞれの求人が適している理由も書かれているため、サイト訪問者の応募意欲が高まり、優秀な人材の確保につながる。
過去の応募者のプロフィールを自動更新
ATS(応募者追跡システム)とシステム連携し、SNSなどネット上に公開されているデータを基に、過去の応募者の最新の職歴や新たに得たスキル情報をAIが分析し、プロフィールを自動的に更新する。そして新規の求人ポジションに適した人材を、適合度の高い順に自動的にリストアップする。
2020年にEightfold AIは、退役軍人が持つ転用可能なスキルやポテンシャルを測り、民間への就職を支援する求人プラットフォームを開発し、連邦労働省主催のシステム開発コンペ「退役軍人雇用チャレンジ」で最優秀賞を受賞した。さらに、2023年にはワシントンDC雇用サービス局からAIバーチャルキャリアセンターの構築を受託し、求職者のスキルに合う求人を提案する「Career Ready DC」を開設した。
また、Eightfold AIは倫理性や公平性を備えた「責任あるAI」の設計に注力しており、2024年2月にAIの安全な開発・実装を支援する「米国AI安全研究所コンソーシアム(AISIC)」に参加した。
顧客はEY、NTT DATA、Bayer、Chevron、Vodafone、Tata Communications、Boxなど。
2. AIによる履歴書の解析とクイズの回答でスキルを測る:Phenom People
Phenom Peopleは、スキルデータを基に企業の採用やタレントマネジメントをサポートするタレントインテリジェンスプラットフォームである。4億件の職務や40万件のスキルに関するデータを保有する。
AIが求職者の「スキルプロフィール」を作成
求職者が企業の採用情報ページ上で履歴書をアップロードしたり、簡単なクイズに答えたりすると、AIがスキルやその習熟度を解析し、求職者の「スキルプロフィール」を自動作成する。このスキルプロフィールと求人ポジションに求められるスキルをマッチングして、求職者におすすめの求人を提案する。
スキルやポテンシャルを基にAIが「フィットスコア」を算出
応募者のスキルやポテンシャルを基に、AIが求人との適合度をスコア化する「Fit Score」機能もある。そのスコア値になった理由も表示する。
2024年4月に追加した「Fit Score+」では、AIとの対話によって求めるスキルなどスコアの算出基準を職務要件に合わせて企業が柔軟にカスタマイズできる。
2023年にPhenom Peopleは、Business Intelligence Groupから優れたAI機能を持つHRテクノロジーに贈られる「AIエクセレンスアワード」を3年連続受賞した。
顧客はSouthwest Airlines、Brother、Hilton Worldwide、Electrolux、AXAなど。
3. AIによる履歴書の解析とアセスメントテストでスキルを評価する:iMocha
iMochaは、AI を活用したアセスメントテストの機能を備えるスキルインテリジェンスプラットフォーム(※2)である。主に技術職の新卒・中途採用、大量採用、国外のIT人材の採用に利用されている。
2000種類以上のスキルを評価
さまざまなアセスメントテストで、コーディングやサイバーセキュリティなどのデジタルスキルや、カスタマーサービスやチームマネジメント力といったソフトスキル、ビジネス英語力など、2000種類以上のスキルを評価する。
アセスメントテストの種類は、①求職者に実際のプログラミング関連の職務内容と類似した課題を与え、AIが実務スキルを自動的にスコアリングするジョブシミュレーションテストや、②論理的思考力を測る「ワトソン・グレーザー・テスト」(※3)などがある。
企業はiMochaのスキルライブラリから複数のテストを組み合わせてオンラインテストを作成したり、独自の問題を追加したりすることもできる。
求職者のスキルをAIでマッチング
2024年1月にリリースした「AIスキルマッチエンジン」では、ATSとデータ連携し、応募者の履歴書を解析し、職務で1番目に求められるスキルと2番目に求められるスキルを照合する。履歴書の解析やアセスメントテストの結果を基に、職務とのマッチングを行う。
2022年にiMochaは、Brandon Hall Groupが選ぶ「HCMテクノロジー・エクセレンス・アワード」で2部門を受賞した。顧客はFujitsu、PayPal、Capgemini、Deloitte、EY、Vanguard、Coupaなど。
スキルベースの採用の課題の1つに、ハードスキルに比べてソフトスキルは評価が難しいという点があるが、AIにより、たとえばクリエイティブ職の採用では候補者のデザインを評価したり、エンジニア職の採用では、求職者のプログラミング手法を基に問題解決力や分析能力を評価することが可能となった。AIの進化によって、企業は多様なスキルを偏りなく評価できるようになるだろう。
(※1)社内外の人材に関するデータを収集し、分析するシステム
(※2)人材のスキルを可視化し、将来の人材ニーズを把握するためのシステム
(※3)教育哲学者のワトソンと心理学者のグレーザーの研究に基づいて開発された多肢選択式のテスト
TEXT=杉田真樹