欧州で進化するフレキシブルワーク
-なぜ週休3日制の議論は終わったのか
週休3日制は何を残したのか
働き方改革は、さらに進化している。
2022年前後に欧州で注目を集めた週休3日制(週4日勤務制)のトライアルは、その象徴的な出来事であった。しかし、その後の欧州で起きている変化は、単純な週休3日制の普及ではない。むしろ、「いつ働くか」「どれだけ働くか」「どのように働くか」という選択肢を広げる方向へと進んでいる。
英国では2022年、61組織、約2900人が参加し、賃金を維持したまま労働時間を20%削減する6カ月間の大規模なトライアルが行われた。結果は総じて良好で、61組織のうち56組織が制度の継続を希望し、このうち18組織は恒久化を決定した。
従業員への影響も大きかった。71%が「燃え尽きの軽減」を、39%が「ストレスの低下」を実感したと回答している。また、「病気による欠勤日数」は65%減少し、「離職者数」も前年同期比で57%減少した。さらに、参加企業の業績にも大きな悪影響は見られなかった。売上高データを提供した企業群では平均1.4%の増加が確認されており、少なくとも労働時間の短縮が事業運営を大きく損なう結果にはならなかった。
この結果だけを見れば、英国を起点に週休3日制が欧州全体へ広がるようにも見えたが、その後の展開は、各国や企業が一律に週4日勤務へ移行するという単純なものではなかった。むしろ企業は、「金曜日を休みにすること」以上に、「限られた時間で成果を維持するには、仕事をどう変えるべきか」という課題に向き合うことになったのである。
英国のトライアルでも、実施方法は一様ではなかった。全員が同じ曜日に休む組織がある一方、機械の稼働や顧客対応を続ける必要がある組織では、従業員が交代で休日を取得し、事業を週5日継続する方法が採られた。週休3日制の核心は、金曜日を一斉に休日にすることではなく、労働時間を短縮したうえで、事業の継続と成果の維持を図ることにあった。
この考え方をさらに発展させた国の1つがドイツである。2024年初め、専門サービス、製造、建設、医療・社会サービス、IT、公益事業など、さまざまな業種の45組織が6カ月間のトライアルを開始した。参加組織の34%が労働時間を20%削減した一方、削減幅を抑えたり、対象を一部の従業員やチームに限定したりした組織もあった。つまり、「週4日勤務」という共通の名称の下でも、実際の運用は業務特性に合わせて調整されていたのである。
ミュンスター大学などの研究チームが2026年に公表した追跡調査では、当初の制度が継続されたかどうかだけでなく、労働時間の短縮方法をどのように調整したのか、別の勤務形態へ移行したのか、通常勤務へ戻った場合は何が理由だったのかが検証された。2024年の初期の調査では、労働時間や時間外労働が減った一方、主要な財務指標はおおむね安定し、生活満足度や定着、雇用主としての魅力に改善が見られた。さらに追跡調査からは、多くの企業が制度を固定的に運用するのではなく、自社の事情に応じて調整や再設計を進めていることもうかがえる。ここから浮かぶのは、固定的な週4日勤務を導入することよりも、「自社の業務に合わせて労働時間と仕事の進め方を組み直すことの重要性」である。
欧州で広がる時間の柔軟性
スペインでは、週休3日制の実証にとどまらず、法定労働時間そのものを短縮する方向へと議論が進んだ。政府は2025年5月、賃金を減らさず、法定の週労働時間を40時間から37.5時間へ短縮する法案を議会へ送付した。法案には、労働時間の記録や、仕事上の連絡から離れる「つながらない権利」も含まれている。一方で、コスト増や競争力低下を懸念する経営者団体の反発や、政党間の意見の違いもあり、制度化をめぐる議論は現在も続いている。スペインの動きは、「週に何日働くか」だけではなく、「週の総労働時間と仕事から離れる時間をどう保障するか」という政策へ議論が広がっていることを示している。
フランスでは、既に法定の週35時間労働制が定着している。近年は、週4日勤務や短時間勤務を試行する企業向けのパイロットプログラムも始まっている。ここでも関心は、一律の制度導入というより、企業や職場の実情に応じて、働く時間をどう設計するかに向けられている。
北欧の状況を見ると、フレキシブルワークの進化はさらに立体的である。
アイスランドでは公共部門で労働時間を短縮する実験が行われ、その後、2020年の労働協約で賃金を減らさない労働時間短縮が合意された。2021~2022年に実施された調査では、回答者の59%が過去2年間に短時間勤務を提示され、短縮を経験した人の62%が「勤務時間への満足度が高まった」と回答した。また、97%は、「仕事と私生活の両立が改善した」または「少なくとも悪化しなかった」と回答している。
一方、フィンランドでは、2020年施行の労働時間法により、一定の職務について、労働時間の少なくとも半分の配分と働く場所を従業員が自律的に決める制度や、働いた時間や取得可能な休暇などを「貯蓄」し、後からまとまった休暇として利用できる「労働時間バンク」が整備された。
北欧における柔軟性は、休日を1日増やすことではない。週単位で仕事を自律的に管理し、進捗状況に応じて働く時間を調整することに特徴がある。たとえば、業務が予定より早く進めば金曜日を休暇や半日勤務にする。逆に、繁忙時には通常どおり勤務する。昼休みを短めに取り、その分だけ早く退勤する働き方も見られる。ここで重視されているのは、「何日休むか」ではなく、「時間をどのように使うか」を自ら選択できることである。
選択肢を支える改革
こうして見ると、2022年以降の欧州で起きている変化は、週休3日制の普及というより、「フレキシブルワークの進化」と捉えるほうが実態に近い。企業は、働く日数だけでなく、週の総労働時間、1日の始業・終業時刻、会議やコミュニケーションのあり方まで見直し始めている。
図表 欧州企業で広がるフレキシブルワークの主な施策
出所:筆者作成
共通しているのは、働く人と企業の双方に「時間の選択肢」を増やそうとしている点である。休日を増やす、勤務時間を短縮する、働く時間帯を変える、仕事の進め方を見直すなど、そのアプローチはさまざまだが、いずれも働く時間をより柔軟に設計しようとする試みといえる。
育児や介護を担う人にとっては、週に1日の休日を増やすより、毎日早く退勤できるほうがいい場合がある。顧客対応や設備の連続稼働が必要な職場では、全員一律の休日より、交代制や週単位の時間調整のほうが現実的である。知識労働では、会議やチャットに中断されない時間を設けることが、生産性向上につながる可能性もある。
一方、こうした柔軟な働き方は、従業員の希望を聞いて制度を導入するだけでは維持できない。労働時間を短縮しながら成果と顧客サービスの質を保つには、会議の見直し、業務の標準化、情報共有の効率化、権限委譲、シフトの再設計など、職場単位の業務改革が必要になる。繁忙期と閑散期に応じた人員配置、特定の担当者に依存しない業務分担、顧客への連絡方法や対応時間の再調整など、現場での創意工夫も欠かせない。
テクノロジーが生み出す時間
そこで、次のカギとなるのが生成AIを含むテクノロジーの活用である。生成AIには、仕事の進め方や組織のあり方を変え、生産性の向上やイノベーションを促す可能性がある。一方、その効果は利用者の経験や対象となる業務によって異なり、人とAIがどのように協働するかが重要であることも指摘されている。
生成AIは、文書の下書き、情報の整理、翻訳、会議内容の要約など、個々の業務を補助できる。しかし、ツールを導入しただけで、組織全体の生産性が自動的に高まるわけではない。ILO(国際労働機関)の研究も、生成AIによる生産性向上は確認されつつあるものの、その効果は業務の内容や働く人のスキル、組織の運営方法によって大きく異なると指摘している。また、個人レベルで生まれた時間の余裕がそのまま組織全体の生産性向上や労働時間の削減につながるとは限らない。
重要なのは、生成AIによって何を置き換えるかだけではなく、そこで生まれた時間を何に振り向けるかである。定型業務を減らして顧客対応を充実させる、会議準備を効率化して対話の質を高める、情報検索の時間を短縮して判断や創造的な仕事に充てるなど、テクノロジーの活用と仕事の再設計を一体で進める必要がある。フレキシブルワークの進化を支えるのも、まさにこうした取り組みである。働く時間を短くしたり柔軟にしたりするだけでは、生産性やサービスの質は維持できない。業務改革や生成AIを含むテクノロジー活用によって時間を生み出し、その時間をより価値の高い仕事へ振り向けることが求められている。
英国における2022年の週休3日制トライアルは、働く日を1日減らせるかどうかを試す実験であると同時に、従来の仕事の進め方を問い直す契機でもあった。欧州でその後に広がったのは、週休3日制という1つの制度ではなく、働く時間を柔軟に設計する発想である。
週休3日制が残した最大の成果は、「何日働くか」という制度論から「働く時間をどう設計するか」という議論へ視点を移したことである。働く人が自ら時間を選択できる環境をどうつくるのか。その問いが、フレキシブルワークの進化を後押ししている。
フレキシブルワークの進化とは、単に労働時間を短縮することでも、特定の制度を導入することでもない。業務改革、現場の創意工夫、生成AIを含むテクノロジーの活用を通じて、生産性とサービスの質を維持しながら、働き方の選択肢を広げることである。
週休3日制の先に見えるもの。それは、新しい勤務制度ではない。
業務改革とテクノロジー活用業務改革によって時間を生み出し、その時間を働く人が選択できる環境へ変えていくという、フレキシブルワークの新しい発想である。
【参考文献】
University of Cambridge, Department of Sociology(2023)“New results from the world's largest trial of a four-day working week” :英国・週4日勤務トライアル結果
Backmann, J. et al.(2024)“The 4-day-week in Germany: First results of Germany's trial on work time Reduction,” University of Münster/Intraprenör :ドイツ・2024年調査報告書
Backmann, J. et al.(2026)“The 4-day-week in Germany: A follow-up two Yyears after the start of the trial,” University of Münster/Intraprenör :ドイツ・2026年追跡調査報告書
Government of Spain(2025)“The Government of Spain approves the bill to reduce working hours from 40 to 37.5 hours a week” :スペイン・週37.5時間法案の発表
Haraldsson,G.D.et al.(2024)“On firmer ground: Iceland's ongoing experience of shorter working weeks” :アイスランド・労働時間短縮に関する報告
Ministry of Economic Affairs and Employment of Finland(2019)“Working Hours Act to be updated” :フィンランド・労働時間法の概要
OECD(2025)“The effects of generative AI on productivity, innovation and entrepreneurship”:生成AIと生産性・イノベーションに関する調査
International Labour Organization(2026)“The impact of GenAI on jobs, productivity and work organization: A review of the empirical evidence”:生成AIの雇用・生産性・仕事の進め方や組織のあり方への影響
村田 弘美
1983年株式会社リクルート入社。総務、人事、広告審査、HRDプランナー、HRD研究所研究員、新規事業開発等のHR関連部門を経て、1999年に社内研究所としてリクルートワークス研究所を立ち上げ、入所。2013年よりグローバルセンター センター長。
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