研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.4もうひとつの新卒採用、“高卒就職”は持続可能か──古屋星斗

高卒就職者の求人倍率は大卒以上

6月は大学生の就職選考解禁月であり、新卒採用についての報道が多くなる時期でもある。目下、「大卒求人倍率調査」(2020年卒結果)となり、企業の採用1.83名分に対して大学生の就職希望者が1名と、需要超過の状況が継続している。こうした状況のなか、5月1日時点の内定率は51.4%と前年比+8.7%(※1)で推移しており、学生が就職先の選択肢を広く持つことができる状況が現出している。
さらに、この大卒就職市場を遥かに超える2.78倍(※2)という求人倍率となっているのが高卒者の就職市場である。内定率は98.2%(※3)とバブル期の内定率と並ぶ高水準となっている。企業の採用需要も前年比+13.7%と活発な動向を示しており、地方の企業においては「大卒者の採用が激化するなかで高卒者の採用を再開した」という話も聞くことができる。人口減少、特に18歳人口が今後急激に減少していく日本社会。直近の人手不足対応に加え、現場の技能継承や事業の中核を担う人材候補として、若手人材に対する企業の大きなニーズが、大卒者のみならず、高卒者にも向かっていると言えよう。そしてこのトレンドは2020年卒においても続伸する見通しである(図表1、2020年卒は統計開始以来最高値となった)。

図表1 高卒者の採用が「増える」と答えた企業の割合(※4)
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就職先の偏り

高卒就職は堅調なニーズと高い内定率もあり、現状安定した職業社会への送り出しができていると言えよう。他方、今後も安定的な仕組みでいられるかと問われれば、いくつかの懸念点は存在する。ひとつが高い早期離職率(大卒者でおよそ3割、高卒者ではおよそ4割となっている)であり、もう一つの懸念点が就職先の偏りである(図表2)。

図表2 学歴別就職先業種(※5)
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大卒者と比較するまでもなく、就職先の業種は著しく製造業に多く、比率としては全高卒就職者の40.4%が製造業に就職している。他方で例えば近年成長を続けている情報通信業においては1.0%となっている。
もちろん、就職先の偏りは出口直結の教育の賜物とも言え、事実として高校就職者のうちの多くは工業高校出身者である。工業高校から製造業に就職している者の3年以内離職率は2割程度であるというデータもあり(※6)、職業を見定めた就職先マッチングは実効的に機能している面があると言えるだろう。
また、職種でも同様の傾向がある(図表3)。

図表3 学歴別就職先職種(※7)
furuya1906_03.jpg高卒就職者は生産工程従事者の割合が圧倒的に高く、例えば製造業へ行く場合にも大卒者の場合には事務職や販売職といった職種からの入職の可能性があるが、高卒者の場合には製造業入職者の大多数が生産工程従事者として就職していることがわかる(製造業就職者全体が約7.5万人、生産工程従事者での就職者は約7.3万人(※8) )。

高卒就職の在り方は持続可能か

このように、高卒者の入職先職種で圧倒的な第一位である生産工程従事者であるが、最後に、その初期キャリア形成の状況について掘り下げてみてみよう。就職後の職業生活の初期ステージにある若手高卒就職者の現状を、各種指標から整理したものが図表4である。

図表4 25歳未満の高卒就業者におけるキャリア関連指標(%)(※9)furuya1906_04.jpg(注:赤字で記載している指標が統計的に有意な差が検出されたもの(※10) )
(注:生産工程職種は、「製造・生産工程作業者」、「その他の労務作業者」としている)

全項目において生産工程職種がそれ以外の職種を下回る結果となっている。差の有意性について検定を行った(※11)ところ、「職場の人間関係に満足していた」及び「仕事を通じて『成長している』という実感を持っていた」については有意に“生産工程職種が低い”という差が検出できた(今回は二次分析であるが、この点に焦点を当てた大規模な調査が行われれば、実態はより明らかとなるであろうと推察される)。
つまり、高卒者の約40%が就職しており、比較的離職率が低いとされる職種である生産工程の職業に就いた高卒者が実は、仕事や職場に高い満足を感じて働いているとは言い難い状況にあることがわかる。人生100年時代、キャリア自律の時代と言われるなか、若手高卒者におけるこの状況は持続可能なのであろうか。

もう一点注意するべきは、産業構造の変化とこれに合わせて粛々と進行する仕事の変化である。「AIの時代に失われる職業は」など近年議論が巻き起こっている。しかし、未来の話ではなく足元で起こっている変化として、医療・介護業従事者の急激な増加や、建設業従事者の急激な減少などと合わせて、製造業、特に生産工程従事者がこの15年で急激に減少した点は押さえておく必要があるだろう(図表5)。つまり、現在の高卒就職者の主な“出口”は、今の子どもたちが18歳になるころにも安定した“出口”であるとは限らない。

図表5 製造業の生産工程従事者数の変化(万人)(※12)furuya1906_05.jpg

18歳の就職が、安定的な仕組みであり続けるために

高校生の就職活動は、歴史的に古い経緯を持ち、現在においても極めて高い内定率を見てわかるとおり一定の有効性があることは否めない。しかし、本稿でもみたとおり、個人のキャリア形成上の問題、また、激動の産業社会のなかで特定の業種に就職先を依存することによる不安定性など、多面的な問題を孕んでいる。
2019年に入り、日立やトヨタ自動車といった日本を代表する製造大企業のトップが、「終身雇用を守ることはもはや困難である」旨の発言を繰り返している。初職で一生を勤めることは幻想になりつつあり、個々人がキャリアのサイクルを自らまわしながら、100年の職業人生を生き抜く時代となる。
そんな時代のなかで、高卒者の就職支援の役割は大きく変わらざるを得ない。終身雇用の時代に、最重要課題であった“初職へのマッチング”は、今後もひとつの重要課題ではあり続けるだろう。しかし、今後は高校生に“主体的な選択”を促し、キャリアの第一歩をいかに選ぶのか、このサポートがより重要となる。産業構造の変化、そして日本的雇用慣行の終焉のなかで、高校生の就職活動の在り方は、いま歴史的な転換点を迎えつつあるのではないだろうか。

(※1)リクルートキャリア,就職みらい研究所
(※2)厚生労働省, 「平成30年度『高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況』取りまとめ」(2019年卒者に対する結果)
(※3)文部科学省,「平成31年3月高等学校卒業者の就職状況(平成31年3月末現在)に関する調査について」(2019年卒者に対する結果)
(※4)リクルートワークス研究所,「採用見通し調査」
(※5)文部科学省,「学校基本調査」,平成30年度。なお、農林業、漁業、採取業、電気・ガス・熱供給・水道業などを除いた主な業種の就職者比率を抜粋している。
(※6)全国工業高等学校長会の独自調査による
(※7)文部科学省,「学校基本調査」,平成30年度。なお、高卒者については「管理的職業従事者」の調査項目はない。
(※8)文部科学省,「学校基本調査」
(※9)リクルートワークス研究所,「全国就業実態パネル調査2018」より筆者作成、ウェイトX18を活用して分析。初職職種別。最終学歴が高等学校卒業である初職が正規社員であった者を対象としており、回答時点の年齢が25歳未満
(※10)「職場の人間関係に満足していた」が10%水準、「仕事を通じて『成長している』という実感を持っていた」が5%水準で有意であった。
(※11)当該調査は5万人以上を対象とする大規模な調査であるが、高校を最終学歴とし、かつ年齢が25歳未満であり初職が正規社員であったものを抽出しており、サンプル数が十分ではない。このため有意性の検定を実施、結果を図表中に示した
(※12)総務省,「労働力調査」。2003年は“生産工程・労務作業者”。。

古屋星斗