人事トップ30人とひもとく人事の未来サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山哲人氏

フェイス・トゥ・フェイスと リモートワークの ベストバランスを探究し続ける

聞き手/大久保幸夫(リクルートワークス研究所 アドバイザー)

大久保 2020年に起きた新型コロナウイルスの感染拡大は、オフィスに集う働き方を一変させました。

曽山 もともと当社では、リモートワークは一部の職種や部署での実施に留まっていました。IT業界とはいえメンバーシップ型の要素もある会社であり、我々の競争力の源泉は、顔と顔を突き合わせて議論しながらサービスのディテールまで作り込んでいくところにあると考えています。ですから、あくまでも緊急対応としての全社フルリモートの実施だったのですが、やってみたら「意外にできる」という声が多く上がりました。

リモートワークでもイノベーションはできる

大久保 コミュニケーションを重視する会社だけに、自粛要請が解除された後はどうするか、悩まれたのではないですか。

曽山 はい。経営陣も議論を重ねましたが、やはり我々は会って仕事をすることの効果は高い。一方でやってみたら、より目標が明確になり、チームコンディションが上がるなど、リモートの良さもわかったので、出社を軸としながらリモートを取り入れることにしました。具体的には、6月より全社員がリモートワークを行う“リモデイ”を定め、定例会議や大人数の会議をオンラインで開催したり、個人作業に集中する日として活用しています。当初は週1日をリモデイにしたところ評判が良かったので、現在は週2日として、週3日が出社日です。まだ実験段階ですが、肌感覚ではこれくらいがベストバランスではないかと感じています。

大久保 やはり一度フルリモートを経験したことは大きいですよね。

曽山 そうなんです。7割のフェイス・トゥ・フェイスのメリットが大きすぎて、3割リモートに切り替えた程度では、そのメリットを体感できなかったと思います。

大久保 振り切ってやってみると、逆にリアルで集まることの価値も実感できますから。フェイス・トゥ・フェイスとリモートが半々になると、出社前提で事業を作り込むプロセスは今後変わっていくのでしょうか。

曽山 まだ答えは出ていませんが、イノベーション創出の場である「あした会議」を初めてオンラインで実施できたことは大きな成果だったと言えます。役員が社員とチームを組み、社長に対して新規事業提案を行うものですが、今までは合宿形式で、全員が同じ場に集まり机を囲んで会社の未来を議論していました。例年採択されるのは10案程度ですが、今回は30案中16案が通過して、新規事業の種が一気に増える結果となりました。イノベーションもオンラインでできるということを社長、役員、社員まで約50人が経験できたのは大きかったですね。

リモートでの生産性向上には「目標」と「信頼」がカギ

大久保 リモートワークに切り替えて生産性が下がったという企業も少なくありません。

曽山 ベースに「目標」と「信頼」があるかどうかが重要だと思います。目標が明確でないと、成果は出ない。信頼関係がなければ、仕事への主体性は生まれない。この2つがないとリモートワークは難しいのではないでしょうか。

soyama_sub2.jpg大久保 目標と信頼は、従来のマネジメントでも大切なものでしたが、あらためて重要性に気づいた会社も多かったと思います。目標が曖昧だと、自分で判断できないので仕事が止まってしまう。信頼関係がないと、部下がさぼるのではないか、上司がきちんと見てくれないのではないかとお互いに不信感が募る。リモートになったことで、潜在的な組織の課題が露骨に現れてくるんですよね。

曽山 まったくそう思います。

大久保 私は「信頼」と「自律」が大切だと話しています。信頼の構築に加えて、個人の自律をいかに促していくかがポイントでしょう。

曽山 その点では、若年層の支援は1つの課題ですね。新卒1年目の未熟な人がいきなり周囲と信頼関係を構築したりできるのか。オフィスでのちょっとした声掛けもできなくなるので、定期的に集まる機会をZoomで設けたり、こまめに面談をしたりなど、職場に適応するまでのきめ細い支援が必要だと感じています。

大久保 育成に関して、新たに取り組んだことはありますか。

曽山 研修についてはオンライン化したことで、圧倒的に展開しやすくなりましたね。大人数を集められるし、グループワークでも部署や地域を超えたチームを作れる。チャットで全員の意見を聞くこともできますし、今までは目立たなかったけれど面白い意見を持っている人を発掘することもある。もっと早く進めていればよかったと思っています。

キャリアオプションの拡大が働く人の安心感につながる

大久保 コロナ禍で起きた変化は、感染が収まれば元に戻るわけではなく、これを機に私たちの生活や働き方がより大きく変わるはずです。社員に価値観の変化は感じられますか。

曽山 リモートによって家族との対話が増えたり、時間に余裕ができて健康への意識が高まったり、それぞれ幸福の再定義をする機会になりました。社員の声は総じてポジティブな変化が多いのですが、一方で世の中を見ると倒産する会社や厳しい状況の業界もあり、自分はこのままでやっていけるのかと、キャリアへの不安が高まっている人もいます。

大久保 劇的な変化に直面して、自分は何をすべきか、あらためて考えた人は多かったと思います。

曽山 終身雇用の崩壊によって、近年、個人のキャリアの選択肢は多様化しつつありましたが、それがコロナ禍によってさらに加速していくはずです。私は「キャリアオプション」と呼んでいますが、それが増えて、「自分はつぶしが利くんだ」と思えれば、むしろ安心して今の仕事に集中できるのではないでしょうか。

大久保 そのために手掛けていることはありますか。

曽山 まずは社内におけるキャリアオプションを増やすため、「キャリアエージェント」と呼ばれる社内ヘッドハンターの役割を重視しています。いつでも相談でき、いざとなれば異動もできる環境は心理的な安心感につながるでしょう。副業についても、社外の案件はまだまだですが、グループ内での副業で賃金が発生する事例が生まれつつある。収入源の多様化にもつながるので、今後さらに推進していきたいですね。

大久保 働く人々も、リモートワークで一度会社から距離を置くことによって視野が広がり、仕事との向き合い方が変わっていくはず。兼業、副業への関心も出てくると思うし、そうした変化をうまく受け止められる人事体系ができるといいですね。

曽山 コロナ禍以前から考えていたことですが、その先にはサイバーエージェントを中心とした労働経済圏構想があります。正社員、契約社員だけでなく、投資先や取引先の企業との交換留学を行ったり、独立してフリーランスになった人と協業するなど、目標と信頼をベースに、いろいろな形でいろんな人がゆるやかにつながる。そんな明るく楽しいエコシステムであることが重要だと思います。

大久保 エコシステム構想については私も大賛成です。ここにきてようやく、多くの人に共感をもって受け入れてもらえる環境ができつつあるのではないでしょうか。

サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山哲人氏
1998年、上智大学文学部英文学科卒業。伊勢丹(現・三越伊勢丹)を経て、1999年4月、サイバーエージェントに入社。2005年7月、人事本部人事本部長。2008年12月、取締役に就任。2016年12月から現職。

text=瀬戸友子 photo=刑部友康