「働く」の論点高校卒就職の最新状況と、浮かび上がるひとつの「懸念」

高校生の選考開始日をご存じの方はどのくらいいるだろうか。よく知られているように大学生の就職活動における選考開始日は6月1日であるが、高校生の就活については驚くほど知られていない。
高校卒者の就職活動は近年、9月16日が選考開始日となっている。9月16日に選考が開始され、その後選考1社目(※1)の選考結果が概ね出そろうのが9月末であり、これに合わせて、厚生労働省が就職データを集計し毎年11月頃公表している。今年も2022年卒のデータが公表されており、これを分析することで今回は最新の高校卒就職状況を整理する。

求人倍率は2019年卒を超えるが

まずは、求人倍率と求人数(9月末時点)を見ると、2022年卒は求人倍率が2.66倍であり、これは2019年卒の2.63倍を超え、コロナショック前の2020年卒の2.75倍に迫る水準であった(図表1)。なお、厚生労働省の統計によれば2020年卒の2.75倍を超えるのはバブル期前後の数年間(1991年卒~1993年卒)のみである。リーマンショック前の求人需要が好調であった2009年卒でも1.52倍であり、この2.66倍という倍率がいかに高い水準か理解できるだろう。
ただし、この求人倍率の高水準と比較して、求人数の戻りは低調であった。求人倍率がほぼ同水準である2019年卒の求人数は45.4万件だが、2022年卒は36.9万件と10万件弱減少している。2021年卒の37.0万件と同水準であり、2022年卒への求人数はコロナショックで低減した2021年卒から横ばいであるといえる。求人数自体では2017年卒の水準(36.0万件)に近い。
しかし、求人倍率自体はコロナショック前の高水準に近付いている。すなわち、高校生の求職者(就職希望者)が減少しているのである。

図表1 高校卒求人倍率・求人数(9月末時点)左軸:求人数() 右軸:求人倍率()

高校卒求人倍率・求人数(9月末時点) 左軸:求人数(件) 右軸:求人倍率(倍)

止まらない高校卒就職希望者の減少

その推移を見てみよう(図表2)。15年前の2007年卒では19.8万人の高校生が就職を希望していた(※2)が、2022年卒では13.8万人である。約6万人、実に30%減である。また、2020年卒の16.9万人まで10年ほど17万人前後で安定してきた高校卒就職希望者だが、コロナショック直後の2021年卒では15.2万人と大きく減らした。2022年卒では、ここからさらに10%ほど減少した水準となっている。これが需給のバランスを崩し、求人倍率の上昇に寄与している。なお当該期間(2007年卒から2022年卒)の18歳人口は、約130万人から約112万人の14%減である。2021年卒から2022年卒では18歳人口は横ばい(約114万人→約112万人)であった。

図表2 高校卒での就職希望者(求職者)数(9月末)(人)

高校卒での就職希望者(求職者)数(9月末)(人)

「就職を希望していたが、途中で就職活動をやめた」高校生の増加

高校生の就職希望者数が減少している傾向については、進学意欲の増加や政策的支援の進捗、さらには長期的な若年人口の減少もあり指摘されてきたことである。しかし、今回、特に注意しなくてはならないのは、就職活動開始時点や選考中(7月末、9月末)の調査で就職を希望していた高校生が、卒業時点(3月末)の調査で就職を希望する生徒の数に入っていないケースが急増したことである。これはここ数年になかった現象だ。
9月16日に選考が開始されていることもあり、9月末での就職希望者数は、すでに就職“希望者”ではなく就職活動中の求職者である。かつてはこの高校生たちが年度末に向けて「就職をあきらめていく」という現象が広く見られていた。図表3に9月末時点の高校生の求職者が何人3月末の卒業までに就職希望者でなくなっているのか、を整理した。
2007年卒~2013年卒は1万人を超える高校生が就職希望者ではなくなっていたが、その後求人数が増加し求人倍率が改善していくにしたがって(上記図表1も参考にしていただきたい)、この数は低下していく。2018年卒~2020年卒は1000人台となり、9月末までに就職希望者であった高校生のほぼ全員が就職していく状況であった。しかし、2021年卒ではこの数が急増し一気に約6000人となり、2015年卒を上回る水準となっている。
コロナショックによって一部業種が深刻なダメージを負い、採用需要が急減した。この影響が大きかった地域(※3)(製造業の求人よりも、サービス業、特に飲食・宿泊業の求人が多かったエリアなど)の高校生たちが意中の企業の求人が出るのを9月以降も待っていたが、結果として求人がなく別の進路へと転換したなどの理由が考えられよう。
ここで重要なのは、同水準の2015年卒とは高校卒に対する需要が全く異なるということだ。2021年卒は求人数が37.0万件であり、2015年卒は28.0万件にすぎず、9万件もの差がある。求人倍率に至っては2.43倍(2021年卒)と1.59倍(2015年卒)とその差は歴然としている。
以前とは高校卒の就職市場全体の状況が全く異なる一方で、コロナショック後の2021年卒の高校生において、たくさんの「就職活動をしていたが途中でやめた」者が出ていることは、今後の高校生たちのサポートを考えるうえで重要な社会課題である。以前のように中途で就職活動をやめてしまう高校生が大勢出る状況に戻ってしまうのだろうか。

図表3 「就職活動をしていたが途中でやめた」高校生の数(9月末時点求職者-3月末時点求職者)(人)

「就職活動をしていたが途中でやめた」高校生の数(9月末時点求職者-3月末時点求職者)(人)

進路未決定、経済事情。職業人生の一歩目を支えていくために

中途で就職活動をやめてしまう高校生が出ることによって懸念される最大のポイントは、進路未決定者が出てしまうことである。高校卒業時点で進路が決まっていない生徒を一般に進路未決定者と呼び、文部科学省の学校基本調査では「左記以外の者」として統計処理されている(※4)。なお最新の学校基本調査(2020年卒)によれば「左記以外の者」は4万8147人であった。9月末時点で就職活動をしていても、その後スムーズに他の進路に切り替えられるケースはあるだろうが、難しい生徒も大勢いると考えられる。2021年卒でこの「左記以外の者」が増加していないか検証する必要があり、その結果は高校を出て第一歩を踏み出した若者にどういった支援が必要かの議論につながる。
また、実は、厚生労働省が出している統計上の「就職希望者(求職者)」は、学校またはハローワーク経由での就職者に限定されている。このことから、特に不況期においては学校やハローワークの斡旋率が低下する懸念もある。かつて、リーマンショックの際に斡旋率が著しく低下したことがある(図表4)。
図表からは、7~8割の高校生が就職に際して学校やハローワークを活用していたことがわかる。リーマンショックの直接的な影響を受けた2010年卒で大きく低下し67.0%、2011年卒では61.7%まで低下していた。この背景の検証は政府において十分になされているとは言い難いが、この結果だけ見れば、急激な景況感悪化・人材需要減少の局面において、現状の高校生の学校・ハローワークを中心とする斡旋システムが機能しない恐れがある。求人開拓機能をもたず、企業から例年送付される求人や毎年採用してくれる企業への紹介が中心の今の仕組みが、その原因となっている可能性もある。この点についても、コロナショック以降の状況が明らかになるタイミングで、より良い仕組みをつくるために検証が必要であろう。

図表4 高校卒就職者のうちハローワークまたは学校を通じて就職した者の割合(卒年)

高校卒就職者のうちハローワークまたは学校を通じて就職した者の割合(卒年)
なお、こうした景況感悪化局面では当然ながら経済的事情による進路変更へのサポートも必要となる。高校3年生・卒業学年で卒後の進路を就職と決めた者のうち、23.9%は「家庭の経済的な事情を考えて、進路が進学から変わった」と答えている(※5)。また、このなかで特に女子生徒が28.5%と、男子生徒(21.1%)より高い。こうしたデータからは経済的な危機下では、特に女子生徒の進路決定時とその後の支援は重要となることも示唆される。
世間では、徐々にコロナショックからの経済回復が議論されるようになってきた。高校生たちの就職も求人倍率だけを見れば「回復」しているように見ることができる。しかし本稿で整理したように、その「回復」の裏にはたくさんの社会課題が隠れている。本格的に若者が減少していく2020年代の日本で、この課題は一過性ではない大きな問題となるだろう。

(※1)高校卒就職においては、学校やハローワーク経由での企業の選考を一度に1社までとする申し合わせ(いわゆる「一人一社制」)が存在する
(※2)厚生労働省統計を用いているため、この場合の就職希望者(求職者)は、学校もしくはハローワーク経由での就職を希望する者。全体では、近年は85%以上の高校生が学校もしくはハローワーク経由で就職している
(※3)高校卒就職においては高校が所在する県内の企業への就職率が例年80%を超えており、地元へ就職する傾向が強いため、自校が所在する地域の業種の採用傾向が直接影響する

(※4)この「左記以外の者」について厳密な定義はないが、就職希望だが就職先が決まらなかった生徒、進学希望だができなかった生徒のうち専修学校一般課程等入学者(大学受験の予備校に入った者)として算定されていない生徒などの合計と考えられる
(※5)リクルートワークス研究所(2021)「高校卒就職者実態調査」より筆者分析

古屋星斗

※本稿は筆者の個人的な見解であり、所属する組織・研究会の見解を示すものではありません。