統計が物申す退職金は総じて減少するも、早期退職金は増加

「就労条件総合調査」

労働時間制度や賃金制度など、労働者の就労条件の現状を明らかにすることを目的とした調査。民間企業に対して毎年調査を実施しており、退職給付制度の項目に関しては5年に1回の頻度で調査を行っている。

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退職金制度にはさまざまな役割がある。労働者にとってみれば、定年後も豊かに暮らすためには退職金は欠かせない。企業としても、報酬の支払いを定年退職時まで留保しておくことで、それを社員が熱心に働くためのインセンティブとすることができる。
しかし、厚生労働省「就労条件総合調査」をみれば、退職金の額は全体として低下しており、退職金制度の役割が近年大きく縮小していることがわかる。大卒者の平均退職金額は2003年に2499万円あったが、2018年には1788万円へと年々減少しているのである。
バブル崩壊以降、企業は高齢社員に多額の退職金を用意する財務上の余力を失った。多くの企業が確定拠出年金に移行するなどの改革を行ったが、運用利回りも長期的に低下を続けるなか、退職金は事実上減少し、それに歯止めがかからないままだ。
そして、より本質的には、転職が盛んになることで、長期勤続者を優遇する退職金制度そのものが競争優位性を持たなくなっている現状もあるだろう。若い頃は低い給与水準で我慢してもらい、定年時に多額の退職金を支払うことでその帳尻を合わせる。若い世代を中心に優秀人材の確保が求められるなかで、こうした報酬設計はもはや破綻してしまっている。
最近では割増退職金によって、早期退職を促すことが多くの企業で行われている。実際に、同統計からは、早期退職者の退職金が増額されている様子も浮き彫りになる。たとえば、勤続年数が25~29年の労働者の退職金額は、2013年の1083万円から2018年の1216万円へとはっきり増えている。
この数十年間で日本の労働市場は大きく変わった。若年人口が減少することで新卒・若手の労働市場は先細り、高齢者の就業延長が強く求められるようになっている。こうしたなかで、退職金制度が長期雇用を奨励する役割を縮小させているのは、自然な成り行きだと考えることができる。これからも、日本の労働市場を取り巻く環境変化に応じて、退職金制度はその機能を変更していかざるを得ないだろう。

Text=坂本貴志