ローカルから始まる。わざわざ 代表取締役 平田はる香

長野県中部の東御市、新幹線の佐久平駅から車で20分。そんな“辺鄙”な場所で2009年に開業したパンと日用品の店「わざわざ」。
2017年に株式会社化し、姉妹店のカフェ「問tou」、コンビニと直売型店舗の機能を併せ持つ「わざマート」、体験型施設「よき生活研究所」を開業、今や合わせて3億円企業に育った。
世界中の人々が健康的に暮らせる社会になるために、正しくお金が循環する仕組みを作りたい。そう語る代表の平田はる香氏の信念に迫る。
(聞き手=浜田敬子/本誌編集長)


――― 社名の通り、“わざわざ” 行くと決めないと来られないような、商売には不利なところにお店を出しています。著書では、地の利が悪いところを選んだことで、「都市と地方のヒエラルキーから解放された」とおっしゃっていますよね。

平田はる香氏(以下、平田):大学も企業も東京に集まっていてほぼ一強。ほとんどの人が東京に住みたい、働きたいと憧れます。私自身も高校まで地方で過ごし、卒業後に上京しました。DJとして成功したくて頑張っていたのですが、うまくいかなくて、長野に移住したんです。
でも、東京で「負けた」、地方に逃げたと認めたくありませんでした。人と人は対等であるべきという考えを子どもの頃から持っていて、東京と地方に上下はないと思いたかったんです。
最初は東京に戻りたいという気持ちがありましたが、変わったきっかけは直売所で買った野菜を食べ、そのおいしさに衝撃を受けたことでした。「ないもの」ばかりを探して、「あるもの」に気づけなかった。自分で野菜を作るようになり、空気や景色がよくて、人もいい、こっちのほうがずっと好きと思えるようになりました。
ヒエラルキーを感じていたのは自分で、ここは東京の人が来ても絶対に素晴らしいと思える、と価値づけができた。それで東京にない魅力や価値を発掘して発信しようと決めました。

―― 人と人は対等であるべき、という考えは元々あったのですか。

平田:小学校の先生に対してすら、「悪い」と思えばそれを臆さずに発言するような子どもでした。私は新聞が好きで毎日、気になる記事を切り抜いていたんですが、昭和天皇崩御後1週間くらいすべての記事が崩御関連になったことに違和感を抱いたんです。祖母に、「なぜ1人の人が亡くなったことで、これほどまでに報道されるのか。人間の命の重さは違うのか」と質問すると、祖母は「それは大事な考え方だからずっと持っていなさい」と、肯定してくれた。そこから人の命の重さは同じである、人と人は対等であるべきということが私の芯になりました。

人の命の重さは同じ。人と人は対等であるべき。それが私の「芯」

事業として大きくしてかつ、社会の役に立ちたい

―― 取材前に、姉妹店のカフェ「問tou」に行きました。ここは元々自治体の施設だったところ、運営を任されたそうですね。販売している書籍のなかには平田さんがオススメする本として経営本がズラリ。意外でした。シリコンバレーの起業家の本もあり、彼らの効率よく利益の最大化を追求する姿勢は、人々の健康や幸せを第一に考え丁寧に安心・安全な商品を届けようとする「わざわざ」とは対極にあると思うのですが。

平田:今は、自分の勉強のリソースを100%経営の領域に割いています。自宅には15冊くらい積んであって、セブン-イレブン創業者の鈴木敏文さんやユニクロ創業者の柳井正さんの本を読み直しています。

―― チェーン店から何を学ぼうとしているのですか。

平田:環境問題や食の問題の解決が進まないのは、それを訴える人たちの考え方ややり方に一因があると思っています。「このよさがわからない人はダメなんだ」という北風的アプローチは、気持ちに響かない。「このほうがおいしい」「生活が気持ちよくなる」という太陽的アプローチのほうが多くの人に支持されると思います。海外にはパタゴニアをはじめそういう会社が多くありますが、日本ではあまり見かけません。資本主義のど真ん中で勝たないとインパクトをもたらせません。事業を大きくして、かつ、社会の役に立ちたい。そんな思いで勉強しています。

―― 事業や組織が大きくなり、それを回そうとすると、長時間労働やサプライチェーン上の無理なコストダウンなどで現場が犠牲になるケースもあります。働く人が健康で幸せで、利益も出しながらいい商品を届けるということに難しさは感じませんか。

平田:現在、売り上げ3億円。これが30億、300億となると回らないことは既にわかっています。食でいうと日本は中山間地域が多く、大量少品種の有機農法が難しい。つまり、原材料を大量に確保できないんです。こうしたさまざまな壁を、スケールしたリテール企業は乗り越えています。私の描く大きなゴールから逆算すると実現不可能なことがわかっている。でも、事業計画上のできるところまで進めるうちに、次につながる階段が見つかるかもしれません。だからやってみようと。

―― ゴールを大きくしないと、小さくまとまってしまうということなんですね。

平田:現在からの積算だと、最終的にゴールは小さくなるので、バックキャスティングで考えるようにしています。でも日本では小さな頃から、努力しなさい、積み上げなさい、と言われます。アメリカだと夢を大きく持つことを奨励します。その夢の実現のために今、何ができるか。その思考が日本人の多くに足りません。

w184_local_waza-mart_1.jpgw184_local_waza-mart_2.jpg「わざわざ」(写真下)で販売するのは食事パン2種類。かつては数十種のパンを販売していたが、「毎日食べるパンはシンプルで体に負荷をかけないものでありたい」という一心から減らした。オンラインショップや「わざマート」(写真上)で販売する食品の選定基準も、「安全で安心なもの」「生産者との良好な関係性」「環境に配慮したもの」など、明確で一貫性がある。

みんなの買い方が変われば社会は変わる

―― ビジネスモデルの理想は。

平田:セブン-イレブンの鈴木さんが大好きです。最初に本を読んで感銘を受けたのが、セブン-イレブンの店舗にATMを導入したときのこと。さまざまな壁にぶち当たっても、鈴木さんは諦めない。これが社会に必要だと思ったとき、誰に反対されても自分の理想を曲げず、突破していく。
私はコンビニというビジネスモデルも好きなんです。24時間営業で社会的なインフラとしての機能もあって、宅急便も送れればチケットも買える。そこに便利という価値があるから、値段が高くても人が集まります。医師であれば人の命を直接助けられるけれど、小売りにはそれほどの影響力はないと思っていました。でも、みんなの買い方が変わったら社会は変わるんだと今は思っています。買い物は投票行動といいますが、モノの後ろにいる人にお金を渡す気持ちでお金を使ってほしいんです。

―― 「ボイコット」ではなく、「バイコット」という言葉もあります。

平田:この店で買う価値がある、と思わせたい。ユーザーが商品だけではなくて、わざわざでお金を使えば、健康的に働く人、環境や社会に配慮したサプライチェーンにちゃんとお金が渡るなど、いいお金の巡り方をすると思ってもらえるビジネスにしたいのです。

大きな夢を共に実現する覚悟を採用面接で問う

―― わざわざで働きたいという人に、東京の資本主義的な規模の大きな事業を嫌って応募する人も多いのでは。

平田:採用の失敗は数々ありましたね。その理由も見えています。都会から応募してくる人は、本人たちの言葉を借りれば「都落ち」の感覚を持っています。都会での仕事を手放すしかなかった人たちですが、わざわざは地方の不便な場所にある会社なのに知名度、ブランド力があるので、プライドを満足させられる。あまりそういうところを見ずに、前職の大手企業の名前を見て、「きっと仕事ができる」と思い込んで採用してしまっていたんですね。そういう会社には実際には何万人もいるのだから、全員ができる人であるはずもなく……。

―― 今はどういうポイントで見ているんですか。

平田:エントリーシート、オンライン面接、仕事体験、最終面接、それでも決まらなければ社長面接とプロセスを重ねます。どうしたらうちに合う人かどうかを判断できるか、ずっと考えていました。今は、志望動機をかなり深掘りしたうえで、私の覚悟を語り、相手の覚悟を問うています。

―― 覚悟とは。

平田:あなたもその覚悟を持てますか、と問うのです。最初は志望動機をはじめ、なぜ地方なのか、なぜ小売りなのかなどさまざま聞いたうえで、私は事業を大きくしたい、世界中の人たちに寄付する活動もしたいなど大きな夢を語ります。それを一緒にやる仲間が欲しい。あなたには覚悟がありますか、と。最後はしっかり意見を言える人かどうかを見ています。今回の採用は応募者70人中、1人か2人です。

―― 組織の作り方で工夫していることはありますか。

平田:コロナ禍の最中に始めたのが全体ミーティングで、毎週水曜日に私がZoomで開催しています。参加は自由で、休みの人は出なくていいし、アーカイブに残すのであとで見ることもできます。結局、私と社員の間でギャップができるのは、私は日々いろいろな情報に触れ、いろいろな人に会い、影響を受けて考え方も変わっていくからです。現場で働いている人は、勉強する機会がなければ社長の言っていることがわからない、と感じるようになっても仕方ありません。そのギャップを埋めるための30分として、新規取引先の生産者や私たちが目標にしたい社会起業家を紹介したり、バックキャスティング講座をしたり。


―― 知識の差が出ると、おかしいなと思っても言えずに上意下達になりがちです。対等に話せるフラットな関係性を作ろうとしているんですね。

平田:全体ミーティングの価値を感じたのは、やり始めて1年くらいのときでした。環境や社会に配慮した活動に対してアメリカの認証団体B Labが与えるB Corp認定を2023年にいただいたんですが、その評価のプロセスをアルバイトさんを含めて全従業員に説明していたんです。認定後、B Labの関係者が視察にいらして、アルバイトさんに「認定おめでとうございます」と言ったら、「ありがとうございます。私たち、日本で26番目の認定企業なんです」と誇らしげな答えが返ってきたと。視察に来た方々は、感動していました。

―― パーパス経営がはやっていますが、何より社員への浸透が難しいといわれています。平田さんは「パーパス経営」という言葉を使わずとも直感的にやっていらしたように思えます。

平田:時代がやっと追いついてきたな、と(笑)。途中で気がついたのは、「伝えたい」は「伝わらない」ということ。「伝わる」「伝え方」をしないといけないと気がつきました。これだけ社長が何度も言っているんだから重要なことなんだろうな、と思ってもらえるくらい、わかりやすく、何度も繰り返すことを心がけています。

実現不可能なゴールだとしても進めるうちに次の階段が見える

Text =入倉由理子 Photo=伊藤 圭

w184_local_hirata.jpg

Profile
2004年 東京から長野県に移住
2009年 パンと日用品の店「わざわざ」開業
2017年 株式会社「わざわざ」設立
2019年 姉妹店であるカフェ「問tou」開店
2023年 コンビニ+直売型店舗「わざマート」、体験型施設「よき生活研究所」開店
2023年 初著書『山の上のパン屋に人が集まるわけ』発刊