Next Issues of HR With コロナの共創の場づくり第10回 D&I が実現された場での個人

今、私の仕事のメインは、日本や欧州の企業がサステナブルシフトするにあたっての、サービスデザインです。現在では、オランダの複数の企業とパートナーシップを組み、オフィスや街の開発、飲食店のプロデュース、自社メディアの発行など多くのプロジェクトに参加しています。ほとんど人脈もなく、語学もそれほど堪能ではない私がなぜ、この地で仕事を開拓することができたのか。そんな質問をよく受けます。

日本では博報堂のクリエイティブとして20年勤務し、40以上のさまざまな業種のクライアントを担当しました。2016年に退職して独立。オランダに渡航後、“見込み客”と思い込んでいた企業からの仕事の発注はゼロでした。そこで会社員時代から副業でやっていたメディアでの執筆をしながら、アクセラレーターやスタートアップが開催するミートアップに参加するなどして、徐々にネットワークをつくったり、企業に電話やメールでアポイントを取ったりしていました。方法としては、“土足で踏み込む”です。

知らない人の輪の会話に参加することは当然で、パートナー探しのアポイントを入れるときにはCEOに直接メールを入れます。日本では煙たがられる行動に対し、オランダの人たちは私の不十分な英語に耳を傾け、CEOからはすぐにカジュアルな文面で返信があり、自分の部下である担当の責任者とつないでくれます。とはいえ、オランダ人は親切で、優しいというわけではありません。

私は彼らにとっては、日本人というだけで異質な存在です。加えて業界を特定せず、クライアントとともにCM制作でゼロからイチをつくってきた経験の特殊性もあります。そうした異質な存在がズカズカと入り込んできたとき、決して排除せず、「相手の知識や経験をものにできたら得をする」という計算を働かせるのです。これまでも何度か書いてきましたが、小国であるオランダは、余所者を受け入れ、発展してきた長い歴史があります。世界のEVやプロテイン(代替肉など)のハブになろうとして、今でも新しい知恵、技術、そして人材を外から取り込んでいます。

私はオランダに来て6年。実は最初は教育分野に興味を持ち、活動していました。ところが、今の仕事の主領域はサステナブルシフトです。この6年間でも、世界がオランダに注目するホットトピックは、教育、ワークシェアリングをはじめとする働き方、クリエイティブでサステナブルなオフィスや建築と、目まぐるしく変わっています。私自身もそれに呼応するように仕事の領域をピボットしてきました。それが可能だったのは、遠慮することなく人の領域に踏み込み、この国が向かう方向を日々、肌で感じることができたからです。

もちろん、これは性格もあるので、すべての人がすべての国でうまくいくわけではありません。オランダの特殊性もあるでしょう。ただ、異質な場、人を恐れていては、せっかく多様な場に身を置いても実りは少ないと思います。インクルーシブな場であればこそ、ダイバーシティの果実を得るためには個人が一歩を踏み出す勇気が必要です。

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w169_ni2_02.jpg吉田和充氏
ニューロマジック アムステルダム
Co-founder&CEO/Creative Director

博報堂勤務を経て、2016年に独立しオランダに拠点を移す。日本企業、オランダ企業向けのウェブディレクションや日欧横断プロジェクトに多数携わる。

Text = 入倉由理子 Photo = 吉田氏提供 Illustration=ノグチユミコ