Next Issues of HR With コロナの共創の場づくり第5回 実験で起きるイノベーション

前回、オランダの共創の場の最大の特徴は、ハード、ソフトともにサステナブルであることが埋め込まれている点だと書きました。今回は、その実例として、アムステルダム市郊外のCEUVEL(キューフェル)を紹介します。

CEUVELは、運河沿いの造船所の跡地にあるオフィスやカフェの集まった再開発エリアです。オランダはもともと造船業が盛んでしたが、徐々に衰退して放置される施設が増え、船から流れ出た油などが原因で土壌に汚染物質が蓄積されて再開発が進みませんでした。市が管理してきたものの維持費もかかりお手上げということで、土壌汚染の解決と再開発のプランを公募したのです。日本の豊洲市場に見られたように、土壌汚染の解決の方法は主に埋め立てです。ところが、建築家グループSpace andMatterが大学などと協力して作りあげたアイデアは、有毒物質を吸収する植物によって土地を再生する方法でした。

ここで使われている材料も、リサイクル、リユースです。打ち捨てられた船を敷地にいくつか配し、その上にコンテナを載せており、そこに多くのオフィスが入っています。汚染された土壌に人が接することなくそれぞれのオフィスを回遊できるように、木の回廊が設置され、船や回廊の隙間に汚染を取り除くための植物が敷き詰められています。コンテナの上に設置したソーラーパネルによって施設内のエネルギーが賄われ、さらに雨水が集められてCEUVEL内のレストランの地ビール作りに使われています。

実は今、海上にオフィスビルを浮かべる実験も始まっています。オランダは国土の4分の1が海抜ゼロメートル以下。地球温暖化による海面上昇は近い将来、来るべき危機なのです。ここには、サステナブルシフトを牽引している銀行やレストランのほか、元国連事務総長だったパン・ギムン氏が代表を務め、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)に関わる「Global Center on Adaptation」というNGOも入居しています。エネルギーニュートラルの実現も相まって、このような場はサステナブルを強く意識する人へのアピール度も高く、1つのビジネスモデルとして確立しやすいというメリットがあるのです。

加えるならば、上記の2つのイノベーティブな場は、あくまで“実験”です。CEUVELは2014年に始まった10年間の期間限定プロジェクトで、2024年には評価が行われます。海上オフィスビルも、どれだけ成功するかはわかりません。これまで述べてきたように、オランダの人々は小国であるがゆえに、たとえ失敗してもそれは成功へのプロセスであり、大きな果実を獲得するまで修正を続けます。それが、スピーディなイノベーションへとつながります。

こうした意欲的な挑戦を、称賛するカルチャーもあります。CEUVELは2014年のオランダの建築アワードを受賞しています。この受賞は、オランダ最大の著名な建築事務所が設計した巨大プロジェクトの食の拠点、「Markthalle(マルクトハル)」との同時受賞でした。再利用ばかりの、決して派手ではない施設がこのような名建築と肩を並べることも、オランダのサステナブルシフトを象徴していると思います。

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w169_ni2_02.jpg吉田和充氏
ニューロマジック アムステルダム
Co-founder&CEO/Creative Director

博報堂勤務を経て、2016年に独立しオランダに拠点を移す。日本企業、オランダ企業向けのウェブディレクションや日欧横断プロジェクトに多数携わる。

Text = 入倉由理子 Photo = 吉田氏提供 Illustration=ノグチユミコ