人事、仏に学ぶ従業員同士が対話しやすい仲間の輪を作るには

w163_hotoke_02.jpgこのところ、「対話」に関心を持つ企業が増えているようです。そうしたなか、多くの企業では対話力を高めるため「話すスキル」に注目していますが、もっと大事なものが2つあるのをご存じでしょうか。
まず1つ目は「関係性の構築」です。たとえば、あなたの知人が髪型を変えたが、残念ながら似合っていなかったとします。もし、相手と良好な関係性が築けていないのに「似合っていない」と指摘したら、どんなに表現を工夫しても、きっと相手は気を悪くするでしょう。逆に良い関係性があれば、「似合っていない」と率直に伝えても受け入れられますし、別の髪型を勧めるなどして相手に良い影響を与えられます。つまり、話すスキルを伸ばすより、率直に話せるくらい良い関係性を築くことのほうがずっと大事なのです。
では、そうした関係性を築くにはどうしたらいいでしょうか。まず心がけたいのが、「自己開示」です。相手との間に壁を作っているようでは、信頼など得られるはずがありません。裏表のない正直な態度で他者に接するよう、普段から心がけましょう。また、人に文句を言う前に自らの足元を見て反省せよという「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」の精神で、自らを律し内面を豊かにすることも必要です。仏教では他者との対話を、「内面世界(=内なる宇宙)でのやりとりが、外に表出したもの」だと考えます。だとすれば、内なる宇宙を豊かにすることが、対話力の向上をもたらすと考えられます。
もう1つ、対話を増やすうえで話すスキルより大切なことが、「人々が率直に話せる場を整備すること」です。人というものは、悩みを抱え病んだ状態になるほど、かえって周囲と話さなくなるもの。そうなる前に、企業は従業員が気持ちを吐露できる場を設けるべきでしょう。
私は日頃から、対話の「話」、サークルの「輪」、平和の「和」という「『わ』の3原則」を提唱しています。企業は、従業員同士が輪のように結びつき、心から和める場を提供できるよう努力すべきです。そうすれば、社内には自然と対話が増えるのではないでしょうか。

Text=白谷輝英

杉若恵亮氏
日蓮宗法華寺住職
Sugiwaka Eryo 小学2年生のときから小僧修行を始め、小学5年生で出家得度。京都外国語大学英米語学科とレイデザイン研究所グラフィックデザイン科を卒業後、27歳で日蓮宗規最終修行を終了し、28歳のとき日蓮宗法華寺(京都府亀岡市)三十五世住職に就任した。僧侶が多様な人々と語らう「THE BONZEくらぶ~つきいちボンサンと語ろう会」を、1988年より開始。NGO「国境なき僧侶団」の共同代表を務めたり、テレビ・ラジオ番組に出演したりするなど、幅広い布教活動を展開している。