人事、仏に学ぶ社内外の変化に対応するには?

この世は諸行無常。すべてが変化しています。そうしたなか、人はその変化についていけなかったり、起こった変化が不本意なものだと感じたりすることも少なくありません。
仏教では宇宙のすべてが調和していると考えます。でも、それは一人ひとりにとって、ということではありません。ある人にとっては望ましい人事異動であっても、その人にポジションを明け渡した人にとってはつらいことかもしれません。このように、全体の調和とは、個人にとっては残酷なこともあるのです。
仏教では、思い通りにならないことを「苦」と呼びます。そしてこの世は「一いっ切さい皆かい苦く 」、つまり何一つ思い通りになるものはないと教えています。この「苦」から逃れるために私たちは何をすべきでしょうか。
その答えは「変化そのものになること」。自分の思い通りにしようというこだわりを捨て、変化を受け入れ、身を委ねるのです。走行中の新幹線のなかにいると、猛スピードで進んでいるはずなのに、自分は動いているわけではない。いわば、そういう感覚です。
自分の外側にある変化と一体になるにはまず、天台宗の「一念三千」という教理が手掛かりになります。これは、心のなかに全宇宙の事象が具わる、すなわち自分の内面に全世界があるということ。世界に向き合いその変化になりきるには、自分の心をありのままに観察することが大切です。
もう1つは、「今」と向き合うことです。子どものような無垢な気持ちですべてのことがらに臨むことを「赤心片々(せきしんへんぺん)」といいます。大人に「子どもの遊びとは」と問うと、積み木や砂遊びといった「名詞」で答えが返ってくる。ところが子どもに聞くと、走る、登る、作るというような「動詞」で答えます。つまり、彼らにとって遊びとは、ゴールやルールなど決めず、ただ「今」に集中して動いているものなのです。大人は未来のゴールを設定し、そこにこだわりがちです。そこにこだわるがために変化を見逃し、変化への対応に後れを取ってしまいます。ゴール設定が自らの「今」を縛ることになっていないか、常に自問自答が必要なのです。

Text=白谷輝英 Photo=平山諭

阿純章氏
天台宗圓融寺住職
Oka Junsho 早稲田大学文学部東洋哲学専修卒業、早稲田大学大学院文学研究科東洋哲学専攻博士課程退学。北京大学に中国政府奨学金留学生として留学。現在は圓融寺住職、円融寺幼稚園園長のかたわら、坐禅会や各種セミナーなど多岐にわたるイベントを開催し幅広く活躍中。著書に『「迷子」のすすめ』(春秋社)、『生きる力になる禅語』(共著、致知出版社)がある。