人事、仏に学ぶ社員の意欲をどう引き出すか

意欲とは、そもそも「欲」。そして、人の欲は必ずしも悪い存在ではなく、否定せず上手に扱うべしというのが仏教の教えです。ただし、己の欲望を満たし、目前の利益ばかりを追求する「小欲」(我欲)にとどまってはだめ。そこを離れ、利他を願う「大欲」に至ることが大切です。
人には誰しも、他を幸せにし、他の喜びを己の喜びとする本質があるのです。すなわち仏の種子である「仏種(ぶっしゅ)」を持っています。しかし、多くの人の仏種は小欲に埋もれ、芽を出せないでいます。特に現代は、親の躾(しつけ)や学校教育、社会常識の変化などから、小欲のみを追求する人が増えているように感じます。
こうしたなか、人事に携わる人々には「自社の大欲」を明らかにし、社員の「仏種」を磨くことが求められます。企業がどんな夢を持ち、どのように成長し、どんな手段で社会貢献するのかを社員に伝え、共感を得ることが重要になるのです。
その際、重要な役割を果たすのが「縁」です。縁とは、万物が存在する上で必要になる、森羅万象のつながりを意味します。
人は独りでは生きられず、無数の縁に生かされています。そして、良い縁が得られることで、より良い人生を歩むことができるのです。
縁のなかでも、やはり重要なのは人との縁でしょう。人はさまざまな外部環境によって変化を遂げますが、最も強い影響力を持つのが人だからです。社内に、大欲を体現するような人材を生み出すこと。そして、その良きエネルギーが新たな芽を引き出すような組織風土を作ること。人事がそれらを実現できれば、多くの社員が小欲の鎧を捨て去って大欲を育てられるはずです。
短期的利益や株式時価総額といった小欲ばかりを追求し、社会貢献などの大欲をなおざりにする企業は、いずれ失速します。そこでは社員も小欲しか持ち得ず、全社一丸で成長する活力に欠けるからです。逆に、「われわれは人々の幸せを実現するために尽くす」と言い切れる企業なら、社員は仕事に誇りを持ち、企業の力は何倍にもなることでしょう。

Text=白谷輝英 Photo=平山諭

金澤真勝氏
大日山神崎寺住職 二七山不動院院主
Kanazawa Shinshou 外資系大手会計事務所やシリコンバレーの企業で会計士として勤務した後、仏門に入る。千葉・神崎寺にて関東最大の火渡修行を行い、真言密教最高修行である八千枚護摩を修する数少ない僧侶である。