人事変革のバディ丸井グループ 人と組織の活性化を目指すウェルビーイング経営

ウェルビーイングの旗振り役
w174_bady_kojima.jpg小島玲子氏 Kojima Reiko
取締役 執行役員 
CWO(Chief Well-being Officer)
医師。メーカーの専属産業医を約10年間務める傍ら、2006年北里大学大学院医療系研究科に進学し、2010年医学博士号を取得。翌年に丸井グループ専属産業医となり、2019年執行役員、2021年より現職。

施策実行の頼れる参謀
w174_bady_sekiguchi.jpg関口明央氏 Sekiguchi Akio
ウェルビーイング推進部 チーフリーダー
1986年、新卒で丸井入社。時計売場ショップ長、紳士部門ショップサポートマネジャーなどを経て、2007年より店舗の総務人事担当として人材育成や労務管理に携わる。2016年に健康推進部(現・ウェルビーイング推進部)に異動。

ミッション実現のパートナー
w174_bady_ishioka.jpg石岡治郎氏 Ishioka Jiroh
執行役員 人事部長
1997年、丸井グループに入社。北千住店や有楽町店、博多店の開店を手掛けるほか、本社で販促企画、経営企画を担当。2017年より人事部に移り、2020年人事部長、2022年より現職。

全社戦略としてウェルビーイング経営を推進する丸井グループ。これを牽引するのが、産業医としてCWOに就任した小島玲子氏だ。人事面で連携する執行役員人事部長の石岡治郎氏、現場への浸透と運用面をサポートするウェルビーイング推進部の関口明央氏とともに、目指す姿の実現に向けて邁進している。

産業医学はもっと人や組織の活性化に貢献できる

同社の目指すウェルビーイングとは、「すべての人が今よりももっと活力高く、いきいきとしあわせを感じられる状態」(小島氏)のことだ。その実現は、長く産業医として活躍していた小島氏にとって、自らのライフミッションそのものだという。「働く現役世代を支援したいという思いから産業医になりましたが、現場で実務に携わるうちに、その存在意義について考えるようになりました。単に病気を予防する、不調に対処するというだけでなく、産業医学は、もっと人や組織の活性化に貢献できるのではないかという問題意識が強まっていきました」(小島氏)

メーカーの産業医として働きながら大学院に進学。博士課程を修了し、研究の成果を実践する場を模索するなかで、2011年、丸井グループの産業医となる。同社にとってはじめての専属産業医だった。

当初は焦らずに信頼を積み重ねようと考えていた小島氏に、思いがけずチャンスが早く訪れた。初年度だけで通算262回も売場を回り、各事業所のデータを分析し、レポートを提出したのが社長の青井浩氏の目にとまったのだ。青井氏が目指す「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブで豊かな社会へ」という考えと、小島氏の思いとが合致し、取り組みは一気に加速した。

活動が本格化するに伴い、体制も強化されていく。2014年に健康推進部(現・ウェルビーイング推進部)が新設され、当初は医療職だけの組織だったが人員も拡充された。その1人が2016年に異動してきた関口氏だった。「驚きました。店舗での総務人事経験はありましたが、現場では業績が最優先。現場経験が長い私が、聞いたこともない部門で何をやるのだろうかと」(関口氏)。だが、関口氏の豊富な現場経験による感覚や人脈が、実際にプロジェクトを運営するうえで大きな力となっていった。

ボトムアップとトップダウンの2つを両輪で回す

現在、活動の2本柱となっているのが、全社横断のウェルビーイング推進プロジェクトと、リーダー層向けのレジリエンスプログラムだ。ともに手挙げ式で2016年から開始した。

ウェルビーイング推進プロジェクトは、毎年全社からメンバーを公募。選ばれたメンバーは自ら何をすべきかを考え、企画を実行する。一方のレジリエンスプログラムは、管理職以上を対象に、1年をかけて自身と周囲の活力を高める習慣を身につける研修である。学術的な知見をもとに身体、情動、思考、精神性について総合的に学んでいく。草の根の活動とトップ層の意識変容という2つが両輪となって、組織は徐々に変わっていった。「実際に人々を動かし組織に実装していくにあたっては、関口の存在が非常に心強かったですね。会社の風土や現場の事情に通じ、メンバーに寄り添いながら、参加者の学びを促すための勘所をしっかり押さえ、また、回を重ねるごとにブラッシュアップしてくれました」(小島氏)

当初は戸惑っていた関口氏も、小島氏の熱意と専門的な知見にふれるなかで理解と共感を深めていった。「意義深い取り組みで、新しいものを一から作っていくことが非常に楽しい。定年前にこのようなチャレンジをさせてもらって今はとても感謝しています」(関口氏)

手挙げのカルチャーを育み主体的な行動変容を促す

こうした活動のベースには、同社が培ってきた手挙げのカルチャーがある。実は同社ではこれに先立つ2015年、トップが管理職に向けて会社の業績などを説明する中期経営推進会議を全社員が参加可能な「手挙げ方式」に変更。主体的に参加したい人だけが参加する形にした。人事面でも自己申告制度など、個人が自律的に行動できる環境が整えられている。人事部長の石岡氏は、「ウェルビーイング推進部と連携するのは当然」と語る。「実は健康推進部になる前は人事部の一組織でしたし、人への投資という点では目指すところは同じ。リーダー育成のためのプログラム『人の成長会議』では小島に必ず講義してもらうなど、連携して各施策を進めています。小島が医師という専門性を生かし、科学的な根拠をもって語ることで、パフォーマンスとウェルビーイングの強い関わりが、説得力を伴い多くの人に伝わっていると思います」(石岡氏)

すべての人が「もっといきいき」する社会へ。熱意と知識と共感と、それぞれの特性を生かして協業する全員の見ているところは1つだ。

Text = 瀬戸友子 Photo =刑部友康