人事変革のバディオリンパスのグローバル企業への転換を図る人事制度改革

施策の立案・実行者
w170_bady_ikawa.jpg井川憲一氏 Ikawa Kenichi
HRプランニング ディレクター
大学卒業後、商社に営業職として入社。人事の仕事を志望し、コンサルティングファームに転職して人事領域のコンサルティング業務に従事。その後、事業会社の人事に転身し、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル カンパニーでのHRBP、みらかホールディングス(現・H.U.グループホールディングス)でHRBP組織の立ち上げなどを経て、2021年4月より現職。

改革の牽引者
w170_bady_ohtsuki.jpg大月重人氏 Ohtsuki Shigeto
執行役員 人事・総務担当
1984年から現在まで、一貫して人事・総務に携わる。日立製作所、GE、ヒューレットパッカード、資生堂などさまざまな企業で、国内外におけるリーダーシップ開発やM&A人事の実践、人事基盤の構築やグローバル標準化などを牽引。2019年11月より現職。

「真のグローバル・メドテックカンパニーへの飛躍」を掲げ、改革を進めるオリンパス。2019年に全社横断的な企業変革プラン「Transform Olympus」を策定し、グローバル体制強化を図っている。そのなかの重要な柱の1つに据えられているのが、「グローバル人事制度への転換」だ。ビジネスが世界に広がるなか、人事制度についてもグループ共通の仕組みを構築し、グローバルでの人材活用をさらに進めていこうとしている。

企業変革を人事面から牽引するのが、国内外の企業で豊富な人事経験を持つ大月重人氏だ。その手腕を買われ、2019年11月に同社のHR部門のトップに就任した。「グローバル人事制度という大方針はあっても、当初、具体的にどうするかは何も決まっていませんでした。そこで最初にやったのはHRの現状を知ること。新型コロナの感染拡大直前の時期で、各リージョンにどんな人材がいてどんなマネジメントをしているのか、世界中を直接見てまわりました」(大月氏)

そこから矢継ぎ早にさまざまな施策を打ち出した。5つのリージョンごとに運営していたHR部門を機能・地域別に整理・統合したグローバルHR組織に改編。HRBP導入や世界共通の評価制度構築など、改革が前進している。そのなかで、実は最も改革が必要なのは日本法人の人事制度だった。40カ国に広がるグループ企業のうち、社員にジョブ型を導入していないのは日本だけだったのだ。

本丸ともいえる日本地域の人事制度改革を、現場の先頭に立ってリードしているのが、井川憲一氏だ。それ以前は人事コンサルタントや企業人事としてキャリアを積み、2021年4月、日本地域の人事企画部長として入社。大月氏は、「プロジェクトマネジメントのスキルに長け、特にコミュニケーション能力は卓越したものがありますね。制度を作ることは難しくないが、その実現のために重要なのは従業員とのコミュニケーション。そこを徹底的にやってくれる人だと確信していました」と、井川氏に全幅の信頼を寄せている。

コミュニケーションを重ね信頼関係を構築していく

井川氏が重視したのも、まさにその点だ。スピード感を持って変革を進める必要性は理解していたが、最初にじっくりと時間をかけたのは「HRメンバーとの関係構築を通じてこれまでの歴史と各自の思いを吸収すること」だった。コロナ禍にあってリモートワークの人も多かったが、入社して1、2カ月はほとんど毎日出社していたという。「毎日オフィスにいればたまに出社する誰かしらと顔を合わせて会話することができるから」(井川氏)だった。

伝統的にオリンパスグループでは、各リージョン、各グループ会社の独自性を尊重する風土があった。職務を基準とした世界標準の人事制度に統合していく必要性を、国内1万4000人の従業員に理解してもらうことが改革の成否に関わる。そのためにも、問い合わせ対応などで従業員と直接接する機会の多いHRメンバーに、なぜ改革が必要かを理解してもらうことが重要になる。
「私のように外部からやってきた人間が、いきなりいろいろな提案をしても、地に足のついたものにはならない。まず大切なのは、当社が取り組んできたことの歴史や制度の生い立ちを、長くHRにいるメンバーから学ばせてもらうことです。そのうえで、変わる意味について共通の認識を持つ。そして、HRメンバー同士のベースラインが揃ったところで、『難しい改革でもやればできるんだ』と皆に心から思ってもらうよう自分でやってみせながら、改革を意味のあるものとして一緒に取り組んでいくことが求められると思います」(井川氏)

ビジネスの進化を力強く支えるHRになる

現在は、既にジョブ型人事制度を導入した管理職に続き、2023年4月からの国内一般社員への適用に向けた準備が進められている。トップマネジメント層、マネジャー層、組合員層と職層に分けて実施した説明会は、50回を超えた。井川氏はほぼすべての説明会に自ら登壇し、質疑応答まできめ細かく対応している。単に決まった制度を伝えるのではなく、変更や修正の余力を持たせたものをまずは提案し、参加した社員に意見を出してもらい、必要に応じて反映する形を取った。

大月氏はその姿を見て、「信頼関係を築いて納得感を高めてくれている。期待以上の活躍」と目を細める。一方の井川氏も、「私が得た従業員からの質問や従業員の温度感を説明すると、効果的なメッセージを全社に向けて発信してくれるなど後押ししてもらっている」と大月氏への感謝を口にする。確かな手応えを感じると同時に、井川氏には新たな目標ができた。「日本のHRチームはポテンシャルが高い。ヘッドクォーターとしての自信とプライドを持って世界をリードしていく存在になれるよう、切磋琢磨し、成長していきたいと思っています」(井川氏)

グローバル・メドテックカンパニーに向けた改革は着実に成果を上げながら、これからも続いていく。

Text = 瀬戸友子 Photo = 刑部友康