AIのお手並み拝見オリジナリティ

AIはオリジナルコンテンツを作れるか

AI研究領域のなかでも近年注目を集めているのが、「敵対的生成ネットワーク(GAN)」という技術だ。GANの登場により、特に画像生成の精度が飛躍的に向上した。実在しないが、いかにもありそうなリアルな画像を、新たに生み出すことができるようになったのだ。
京都大学発のベンチャーであるデータグリッドは、GANを活用して、絵画やデザイン、音楽などさまざまなコンテンツを自動生成するAIを開発している。その第1弾として発表したのが「アイドル生成AI」だ。CEOの岡田侑貴氏はこう語る。
「AIがアイドルの顔の写真画像を学習してその特徴を捉え、オリジナルの顔を作り出すというものです。作られたアイドルの顔はいかにも本物らしいですが、すべて実在はしません。しかもサーバー1台につき1日約8万枚のペースで、ほぼ無限に作り続けられるといってもいいでしょう」

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成長の源泉は手強いライバルの存在

では、GANはどのようにして高品質の画像を作り出すのか。GANの最大の特徴は、「生成AI」と「識別AI」という2つのネットワークを競わせる点にある。「敵対的」と名付けられているのは、このためだ。
この仕組みは、生成AIを贋作画家、識別AIを鑑定士に例えるとわかりやすい。贋作画家は、本物の肖像画を参考に、似たような絵を作る。最初は精度の低い絵しか描けず、すぐに鑑定士に「偽物」だと見破られてしまう。
しかし、試行錯誤を続けるうちに、顔の輪郭や目鼻立ちなど、本物らしく見えるポイントをつかみ、徐々に鑑定士を騙せるようになってくる。すると鑑定士も、真偽を見極める目をさらに肥やしていく。
このような勝負を何度も繰り返すことによって、贋作画家は、よりリアルな作品を仕上げられるようになっていくというわけだ。
「サイバーセキュリティの世界で、攻撃側と防御側のいたちごっこが続くのと同じこと。手強いライバルがいるから、互いに切磋琢磨しながら、能力を高めていけるのです。だから片方が強すぎてもうまくいきません。勝ったり負けたりを繰り返せるよう学習のバランスを調整することも、GANのエンジニアの重要な仕事の1つになります」

w156_ai_002.jpg実在しない人物の全身画像を高解像度で自動生成する「全身モデル生成AI」

境界を超えていくのが人間のクリエイティビティ

同社では、GANを応用して「全身モデル生成AI」を開発。極めてリアルな人間の全身画像を自動生成できるというものだ。大量のイメージ画像が必要なECサイトやアパレルブランドなどでの活用を狙っている。実際にモデルを起用して撮影するコストや手間を考えると、架空モデルに対するニーズは十分見込めると考えている。
このほか、医療の現場では、GANを利用して疑似患者データを作るという取り組みも進んでいる。AIによる画像診断支援では、患者画像が多いほど精度も高まるが、サンプル数の少ない症例もあり、大量のデータを集めるのは簡単ではない。そこで、GANを使って本物そっくりの患者データを作り、AIの学習用に使うというわけだ。このようにGANの応用範囲は幅広い。
ただし、オリジナリティがあるとはいっても、GANは今の世の中で「ありそうなもの」を作っているにすぎない。その意味では、これまでにあるものを組み合わせて再生産しているだけで、クリエイティビティとは言いがたい。
「たとえば50年前のアニメのキャラクターと今のそれとは大きく異なります。時代の先端を行くクリエイターが、『アニメのキャラクターとはこういうもの』という境界を超えてきたからでしょう。これからは、再生産はAIに任せて自動化し、境界を超えて新たな領域を切り開くような、クリエイティブな仕事に人間は専念すべきだと思います」

Text=瀬戸友子 Photo=平山諭 Illustration=山下アキ

岡田侑貴氏
データグリッド代表取締役社長CEO 兼 共同創業者
Okada Yuki 1993 年生まれ。京都大学にて機械学習分野を専攻。京都のAI ベンチャーにて金融分野のデータ解析業務に従事していたが、AI の研究領域において急速な発展を遂げていたGAN に注目し、GAN の技術開発および社会実装を行うべく、2017 年、CTO の小川恭史氏とともに同社を設立。