テレワークが広がると、人々の居住地は分散するのか 荒川清晟
【ポイント】
・COVID-19流行前は、週3~4日相当以上の高頻度でテレワークをしている人でのみ、翌年の転出との関係がみられた。週1~2日相当では、明確な関係はみられなかった。
・COVID-19流行期は、一見するとテレワークをしている人ほど転出しているようにみえたが、コロナ禍で社会全体に起きた変化の影響を考えると、明確な関係は確認されなかった。
・COVID-19流行後は、テレワーク頻度にかかわらず、転出との明確な関係は確認されなかった。
・テレワークと人口移動の関係は、一律ではなく、時期と実施頻度によって異なっていた。
東京圏への人口集中は、長く政策課題とされてきた。政府は地方への人の流れを作る施策の一つとして、地方創生テレワークなどを進めてきたが、実際にテレワークが人の移動とどのように結びついているのかは、十分にはわかっていない。コロナ禍では東京圏の人口移動に変化がみられ、東京都の転入超過数は2019年の8万2982人から2020年の3万1125人へ縮小した。ただし、その背景には、求人環境の変化、大学授業のオンライン化、テレワークの普及など、複数の要因が同時にあったと考えられている。東京圏から人が動いたように見えても、それがテレワークによるものなのか、他の要因によるものなのかは、切り分けて考える必要がある。
そこで本稿では、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査(JPSED)2017~2024」を用い、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)に居住する雇用者を対象として、テレワーク頻度と人口移動の関係を検討した。同じ人を追跡調査しているため、「その時点の働き方」と「その後の移動」を対応させてみることができる。ここでいう人口移動は、東京都に住んでいた人が東京都外へ移る場合、または埼玉県・千葉県・神奈川県に住んでいた人が東京圏外へ移る場合を指す(以下、転出という)。海外への移動は除く。反対に、埼玉県・千葉県・神奈川県から東京都へ移る場合や、埼玉県・千葉県・神奈川県同士の移動は、この分析の転出には含めていない。JPSEDではテレワークの「週当たり日数」ではなく「時間」を尋ねているため、本稿では0時間を「しない(0日)」、1~20時間を「週1~2日相当」、20~40時間を「週3~4日相当」、40時間以上を「週5日以上相当」と整理した。分析は、COVID-19流行前(2016~2018年)、COVID-19流行期(2019~2021年)、COVID-19流行後(2021~2023年)の3つの時期に分けて行った。対象者のうち実際に転出した人は各期間で2%前後であり、もともと多くない出来事である。
明確な関係がみえたのは、COVID-19流行前の高頻度でテレワークをしている人だけ
COVID-19流行前は、年ごとの共通変化(年固定効果)を考えない場合も考える場合も、傾向は同じだった。テレワークが週1~2日相当の人では、転出とのはっきりした関係はみられなかった。これに対し、週3~4日相当の人は、テレワークをしない人より転出の確率が2.66ポイント高く、週5日以上相当の人では4.61ポイント高かった。少なくとも流行前のデータでは、「少しだけテレワーク」をしている人よりも、「高い頻度でテレワーク」をしている人で転出との関係がみえた。
図1 テレワーク頻度別の推移 ※クリックで拡大します![]()
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2017~2024」のデータを基に、筆者が作成
注:点は推定値、エラーバーは95%信頼区間。0より上は転出確率が高く、0より下は低い。エラーバーが0をまたぐ場合、その差は明確ではない。
COVID-19流行期では社会全体の変化と重なり、その後は明確な関係が見えない
COVID-19流行期は少し異なる。年ごとの共通変化を考えない見方(年固定効果なし)では、テレワークをしている人ほど転出しているようにみえる。実際、転出確率の差は、週1~2日相当で0.77ポイント、週3~4日相当で0.98ポイント、週5日以上相当で2.04ポイントだった。しかし、その年に社会全体で起きた変化の影響を考慮する(年固定効果あり)と、テレワーク頻度ごとの明確な差は確認されなかった。コロナ禍は、テレワークだけでなく、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置など、行動制約や制度変更なども同時に大きく動いた時期である。コロナ禍における人口移動の変化は、テレワークのみならず、社会全体に生じた共通の変化と連動していた可能性が示唆される。
COVID-19流行後は、週1~2日相当、週3~4日相当、週5日以上相当のどの層でも、転出との明確な関係はみられなかった。少なくとも今回の分析では流行後にテレワークが一定程度定着しても、それだけで転出が広がったとは言えない。テレワークと人口移動の関係は、いつの時期をみるか、どの程度の頻度で実施しているかによって違っていたのである。
この結果から読み取れるのは、テレワークなら何でも人口分散につながるわけではない、ということである。今回の分析で明確な関係がみえたのは、流行前に高頻度でテレワークをしている人に限られていた。政策的にみても、テレワークを人口分散の手段として考えるなら、「導入しているか」だけでなく、「どの程度の頻度でできるか」に目を向ける必要があることを示唆している。一方で、流行後に高頻度でテレワークをしている人と転出の関係がみられなかった背景には、いくつかの可能性がある。たとえば、転出しやすい層はコロナ禍の早い段階で既に転出していたことや、流行後は職種や企業によって出社回帰への移行が進み、平均的には差がみえにくくなったことなどである。
この結果は「テレワークが転出を起こした」と断定するものではない。今回わかるのは、あくまで両者の結びつきである。また、ここでみているのは都道府県をまたぐ移動だけで、都道府県内での移動までは含まれていない。したがって、本稿の結果は、テレワークと人口移動の関係を考えるための一つの材料と受け止めるのが適切である。少なくとも本研究が示したのは、「テレワークが広がれば自動的に人口分散が進む」とは言えず、時期と頻度によってみえ方が変わるという点である。
荒川清晟(客員研究員)
・本コラムの内容や意見は、すべて執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではない。
また、主要な事実関係は、ディスカッションペーパー(DP)の記述に基づいている。
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