履歴書依存の限界とエビデンスベースへの転換──AI時代の選考を支えるHRテック3選
近年、米国の採用市場は劇的な構造変化の渦中にある。米労働省JOLTSの統計によれば、2022年時点では求職者1人に対し約2件の求人が存在する超売り手市場であったが、2025年12月には求人倍率が0.87へと下落した。市場は明確に企業側が主導権を握る「買い手市場」へと転換している。
この環境変化は、求職者の応募変容を加速させている。生成AIの普及により、見栄えがする履歴書の即時作成が可能となった。多くの企業が導入している採用管理システム(ATS)のアルゴリズムを逆手に取り、AIを用いて最適化された書類が量産される結果、「履歴書の均質化」という副作用が生じている。
従来、履歴書は個人の能力や適性を測る主要な情報源であった。しかし、AIによる文書作成が一般化したことにより、書類の完成度のみで真の実力を判別することは極めて困難な状況にある。
スクリーニングプラットフォームを展開するWilloが発表した「2026年採用トレンドレポート」によれば、米国企業の約40%が「履歴書重視の採用」からの脱却を図っており、うち10%の企業は「履歴書を完全に廃止した」と回答している。代替手法として信頼を集めているのは、「行動面接(約68%)」「実技スキルの実演(約55%)」「リアルタイムの問題解決(約54%)」といった、具体的なパフォーマンスに基づく評価である。
本稿では、従来の自己申告に基づく文書形式の評価から、動画や実務課題を通じたエビデンス(根拠)ベースの評価への転換を牽引する3つのHRテック・ソリューションを紹介する。

Vizzy:視覚的なデジタルプロフィールによる多面的評価
英国発のVizzyは、従来の静的な履歴書を、動的な「デジタルプロフィール」へと進化させるプラットフォームである。学歴や職歴といった定量的データに加え、価値観、パッション、アイデアといった定性的な側面を可視化する。
■ マルチメディアによる自己表現
画像や動画、ポッドキャストなどを統合し、プロジェクト経験や将来の展望などを提示できる。
■ 心理学的アプローチの統合
英国心理学会(BPS)登録の性格特性テストを組み込み、意思決定スタイルや行動パターンを数値化する。
■ デジタルプロフィールの自動アップデート機能
求職者が応募フォームや従来の履歴書に添付して提出したデジタルプロフィール(URL)は、常に最新の状態にアップデートされる。
■ 導入企業
これまでにLouis Vuitton、Burberry、Virgin Group、WH Smith、PizzaExpress、Tiffany & Co. といった企業が特に若手層のポテンシャル採用に利用している。
2025年にはUnleash Worldの「スタートアップアワード」でグランプリを受賞するなど、高い評価を得ている。

【Vizzyのプロフィール画面】 動画やポッドキャストなどのマルチメディアを統合し、従来の履歴書では伝わりにくい価値観や熱意を可視化する。
出所:Vizzy提供
Vetano:実演動画による技能の証明
Vetanoは、主に技能職(小売、飲食、自動車整備、建設等)を対象とした、ショート動画主体の採用プラットフォームである。
■ 技術の可視化
美容師のカット技術、料理人の包丁さばき、整備士の作業プロセスなど、言語化が困難で履歴書では伝わりにくい実務能力を動画で直接確認できる。
■ 選考の効率化と信頼性
選考の初期段階で求職者の実技を確認できるため、面接時のミスマッチが減り、選考速度が向上する。
また公的書類による本人確認を徹底しており、なりすましや虚偽記載のリスクを排除している。
Vetanoは、実力派の技能者にとって、自身の正当な評価を得るための強力なツールとなっている。
Canditech:ワークサンプルによる実務能力のアセスメント
Canditechは、オフィス職(営業、マーケティング、カスタマーサポートなど)を対象に、実際の業務を模したワークサンプルを通じて評価を行うアセスメントプラットフォームである。
■ 職種別テストライブラリー
500種類以上の課題を用意し、実務に直結するテストをオンラインで実施する。職種に応じた課題のカスタマイズができる。
■ 監視体制
AIによる自動採点や、タブ切り替え検知、コピー&ペースト監視、ウェブカメラによる不正防止機能を備え、リモート環境下での評価の信頼性を担保している。
■ 導入企業
Fiverr、Payoneer、Skechersなどの企業が営業やカスタマーサポート、マーケティング職などの採用に活用している。
評価軸の変化
生成AIが応募書類の作成を代替する時代において、履歴書以外で求職者のスキルを把握する手法は改めて注目されている。
日本企業による初期選考の方法も、従来の履歴書や職務経歴書中心の書類選考から、動画面接や課題提出などを組み合わせた方法へと徐々に変化しつつある。
たとえばソフトバンクでは、新卒採用において2025年からエントリーシートを廃止し、動画を通じて書類だけでは把握しにくい学生の表現力や人柄などを評価する取り組みを行っている。
こうした採用手法の変化は、本稿で紹介したHRテックのアプローチとも重なる。特に、Vizzyのように価値観や興味関心を含めて人物像を可視化するツールは、ポテンシャル採用や未経験領域への人事異動が多い日本企業において有効である。
もちろん履歴書が完全に不要になるわけではない。学歴や職歴といったキャリアの全体像を把握する基礎資料としての役割は今後も残るだろう。しかし今後は、履歴書だけに依存するのではなく、スキル動画やワークサンプルなど求職者の能力を示すパフォーマンスデータを組み合わせ、より立体的に人材を評価する視点が不可欠となる。
履歴書中心の採用選考から、求職者の実際のパフォーマンスを確認する評価手法へ。採用における評価軸そのものが、今、変わり始めている。
TEXT=杉田真樹
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