機械化・自動化で変わる働き方 ―接客調理・販売編レジ担当は商品スキャンや決済業務から解放され、お客様支援や相談業務へ(カスミ)

【Vol.4】カスミ 代表取締役社長 山本 慎一郎(やまもと しんいちろう)氏

生活必需品を扱うスーパーマーケットは、コロナ禍にあっても食品を中心に好調を維持。巣ごもり需要や感染対策面からネットスーパーの利用も拡大する一方、慢性的な人手不足に悩まされる業界でもある。現状を打破するためには何が必要か。関東圏のスーパーの中でDXを積極的に進めるカスミ代表取締役社長の山本慎一郎氏に、IT活用による業務の効率化や省力化、また自動化で目指す未来について聞いた。

レジ要員は3分の1に圧縮。業務の変化によりモチベーションも向上

スマートフォン決済「スキャン&ゴー イグニカ(Scan&Go Ignica)」カスミは茨城を中心とする北関東から千葉・埼玉・東京にかけて店舗展開するスーパーマーケット。首都圏のスーパー3社が参画するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)の事業会社であり、現在はU.S.M.Hの第2次中期経営計画「デジタルを基盤とした構造改革」を推進中である。中でも迅速な店舗実装により業界でも話題になったのが、U.S.M.Hが開発したスマートフォン決済「スキャン&ゴー イグニカ(Scan&Go Ignica)」である。

これは来店客がスマートフォンにインストールしたアプリを自ら操作し、買い物途中の商品のスキャンから決済までを行う完全セルフサービスのシステム。カスミではほぼ全店での導入を終えている。さらに次世代型スーパーの新業態としてカスミ独自が開発した「ブランデ研究学園店」では、有人レジを完全に無くしている。チェックアウトはセルフレジとスキャン&ゴーのみで、チェッカーやキャッシャーと呼ばれる従来のレジ担当は存在しない。

ブランデ研究学園店

「私たちがスキャン&ゴーを開発したのは、『お客様を待たせないこと』を優先したからです」と語るのはカスミ代表取締役社長であり、U.S.M.Hの代表取締役副社長・デジタル本部長を務める山本氏。レジに並ぶ必要がなく、買い物途中に使った金額が把握でき、さらにレコメンデーション(お勧め情報)も提供する付加価値の構築を第一義とし、そのうえで効率化の実現を目指した。

スキャン&ゴー

「従来の有人レジは顧客を待たせないようピークタイムに合わせたレーン数を設置するため、ピークタイム以外には稼働のないレーンもあり、非効率でした。しかしレジが混み出すと、たちまち『休止中のレーンを開けろ』というクレームをいただくので、常にある程度の人員を割かねばならない。これにどう対処するかが課題でした」(山本氏)

スキャン&ゴー2

スーパーでレジ部門を担当する従業員の割合は概ね全体の2割から3割。他部門のように発注や品出しといった複数の作業ができず、レジに立ちっぱなしで客を待つほかないのも非効率だった。こうした課題をスキャン&ゴー、およびセルフレジは一気に解決。例えばセルフレジがどれだけ省力化につながったかというと、基本は6台につき従業員1人が管理する。

「顧客がセルフレジで精算処理に費やす時間は、経験則でいうと有人レジの2倍ほどかかるので、6分の1とまではいきませんが、必要な従業員数はこれまでの3分の1ほどに削減できたことになります」(山本氏)

スキャン&ゴー3もちろん業務内容も、商品スキャンと決済から解放され、セルフレジでのトラブル対応や、セルフレジの傍らにあるスキャン&ゴーの決済端末を使う客への案内などに変わった。

「レジが専従業務だったのは現金を扱うセンシティブな仕事だからです。また商品の捌き方ひとつにも理不尽なクレームをつけられるなど、最近ではいわゆる“カスハラ”も増え、『レジは心身をすりへらす仕事』とよく言われました。仕事の中身が問い合わせ対応や相談対応に変化したことにより、こうしたストレスから解放され、さらに顧客に感謝される機会が増えたことで従業員のモチベーションも上がったようです。業務内容の変化が周知されるにつれ、応募者増にもつながると期待しています」と山本氏は語る。

今後、商品をスキャンするいわゆる「レジ業務」はなくなるが、ハンディキャップのある方も含めたお客様の支援や相談事にのる「アテンダント業務」へと働き方は変化していくだろう。

店内作業を店外作業に転換。3社共同のプロセスセンターも開設

山本氏によると、スーパーマーケットは典型的な労働集約型産業。商品の調達から販売、精算に至るまで、あらゆるモノやヒトとの接点に「人」が介在する。いわば労働力人口の減少が直撃する業種で、「募集してもなかなか人が来ない。かねがね人手不足を肌で感じ、大きな危機感を抱いていました」と山本氏。

人材が集まらないのは、収入面の課題も一因である。「日本の小売業は特に1人あたりの生産性が低く、スーパーの従業員の平均給与額は米国と比べると36%程度という統計データもあります。年収なら同じ職種で米国が1000万円、日本が360万円ということです。必要最小限の人手で店舗を運営し、かつ高水準の給与が保証できるよう生産性を上げることが、今後の日本の小売業のキーになるのは間違いありません」(山本氏)

こうした観点からカスミではかねてより、集約化したほうが効率的な作業については、店内作業から店外作業への転換を進めてきた。1つは調理作業。鮮度を求められる刺身づくりなど店内でしかできない作業以外は、例えば精肉なら枝肉のカットから加工、パック詰めまでを、総菜なら事前調理をあらかじめ自社工場などで行って、店内では並べるだけ、温めるだけ、揚げるだけとする形にした。今後はさらなる効率化を図り、U.S.M.Hの事業会社3社で共同運営するプロセスセンターも準備中である。

また品出し作業では、各店のレイアウトに沿って物流業者が通路ごとに配荷する通路別納品を導入し、作業効率を向上させた。「新技術を活用して無駄を極力省くという点については、私たちは業界の中でも先進的に取り組んできたと自負しています。そしてこれまで手付かずだったのが、今回DXを進めたチェックアウト部門、そして商品の調達プロセスです」(山本氏)

発注の仕組みを最適化して作業量を最小に

カスミの平均的な店舗に並ぶ商品数はおよそ1万5000SKU(最小管理単位)。その日に入る生鮮食品から消費期限の短いパンや豆腐などの日配品、保存性の高い酒類や日用雑貨まで、複雑な期限管理が必要なうえ、生活必需品だけに欠品が生じてはならない。現在は品切れ対応など発注の自動化は行っているが、「本質的にやるべきなのは入荷のコントロールです」と山本氏は語る。

「単に売れる商品を補充するだけでなく、トラックに積む商品の積載率を検討したり、入荷計画を先々まで提示したりできなければ、荷物の少ない車が走る、日持ちする商品が毎日入る、フードロスが発生する、などの無駄がなくなりません。発注の仕組みを最適化し、最終的には全体の作業量を最小化するというのが、ロジスティクスにおいて今目指している自動化のレベルです」(山本氏)

今秋にはU.S.M.H傘下のマルエツと共同物流センターを開設する。センターには自動化・省人化ツールを導入するとともに、両社の共同配送など業務効率化を図るとしており、入荷コントロールが進むことも期待している。

さらに商品の調達に関しては、コロナ禍でネットスーパーの利用が増えるなど、消費行動のオンライン化が加速したことにより、新たな自動化ニーズが生まれている。カスミも既存のネットスーパーをU.S.M.Hオンラインデリバリーに統合し、注文のしやすさや特典の多さなど客側の利便性を高めているが、一方で注文を受けた店側は、店内の在庫や陳列棚から人の手で商品をピッキングしている。

「ピッキングするのは店舗従業員ないしは専門業者ですが、ここにかかる手数やコストも無視できなくなりました」と山本氏。そこでカスミの新業態・ブランデでは自律型協働ロボット「PEER(ピア)」を導入し、店舗従業員のピッキング作業の軽減につながるか検証を行っている。

自律型協働ロボット「PEER(ピア)」自律型協働ロボット「PEER(ピア)」

将来的にはMFC導入も視野に。スーパーを高付加価値産業に

「こうしたサポート型のロボットは、将来のスーパーを構成する一要素として、“手始めに”導入したという側面もあります」と山本氏。なぜなら、今小売業の世界で新たな物流の形態としてグローバルな潮流となっているのが、フルフィルメント・センターの小型化だからである。

フルフィルメント・センターとは、商品の発注から梱包、発送、決済、さらには返品やクレーム対応、顧客データ管理などまですべてをワンストップで行う施設のことで、四半世紀前にAmazonが嚆矢となって開設した。これを原型に、オンラインオーダーの増加を契機として世界の小売メジャーが導入し始めたのが、MFC(マイクロ・フルフィルメント・センター)と呼ばれる小型化した施設である。従来のスーパーの店内、あるいは敷地内に開設してオンラインオーダーに対応するほか、店内に入らず駐車場で待つ客に商品を届けるテイクアウト的な使われ方もしている。多くのMFCが最新のICTを導入し、運用が自動化されている。

日本でもイオングループがCFC(カスタマー・フルフィルメント・センター)を併設した次世代型商業施設を開業する予定だが、設備投資も膨大にかかるため、多くの国内企業ではまだ導入が難しい。「そのため、当社では将来的にMFCまたはCFCの開設を見据えて、その中で動くロボットを試験的に導入したわけです。ほかにも基幹系のシステムをバージョンアップして、店頭在庫をリアルタイムに可視化する取り組みを進めています」と山本氏は解説する。

「小売業の世界は今までもそうですが、この先もずっと技術革新が続くものと思っています。MFCにしてもさらにコンパクト化が進んで、コスト的に導入しやすくなるかもしれませんし、自律型ロボットも把持機能などの精度が飛躍的に上がっていくでしょう。遅くとも2030年くらいまでには、実用化のレベルに到達してほしいですね」と山本氏。

「私たちはこうした技術を引き続き積極的に取り入れ、省力化により必要最小限の人員で高い生産性を獲得するとともに、少数精鋭の社員がさらなる高付加価値を創造するという好循環を築き、スーパーを人が集まる業界にしていきます」と語った。

(聞き手:坂本貴志村田弘美、高山淳/執筆:稲田真木子)