ワークス1万人調査からみる しごととくらしの論点人生への影響が大きい意思決定とタイミング

先人たちの意思決定から振り返る影響とタイミング

「人生100年時代」という言葉が流行って久しいが、長い人生において、人は様々な意思決定に直面する。私たちの仕事や生活・家族に関する意思決定は、私たちの人生に大きな影響を及ぼしている。大きな影響を及ぼすからこそ、どんな選択が人生においてどのくらい重要で、いつ生じる可能性があるのかを知ることは、これから大きな意思決定を控えている人たちにとって、その意思決定に備えるための材料となるのではないだろうか。

そこで、先人たちの振り返りに注目して、人生への影響が大きいと考えられる「転職・独立・起業・退職(以下、転職等)」「結婚(事実婚を含む)(以下、結婚等)」「子の出生」の3つの出来事について「ワークス1万人調査」(※1)を使いながら、性別・年代別に意思決定の大きさとそのタイミングを分析した(※2)。

性別・年代別にみる最も影響が大きい意思決定の違い

「ワークス1万人調査」から、最も影響のあった意思決定について、性別・年代別に整理した(図表1)。男性においては、「最初の就職」や「転職等」の仕事に関する項目の合計が36.3%、「結婚等」や「子の出生」のライフに関する項目の合計が39.1%と均衡する。女性においては、仕事に関する項目の合計が20.7%であるのに対し、ライフに関する項目の合計が59.3%とライフのほうがより人生に影響している。男性と女性とでは意思決定に対する受け止め方が大きく異なっている。

また、出来事別に年代による違いに着目すると、仕事に関する項目は、男性では各年代で一定の割合が回答する傾向があり、女性は年代を追うごとに低下する傾向にある。結婚等は、男女ともに年代を追うごとに増加する。子の出生は、男性は40代をピークとするカーブを描くのに対し、女性は30代で急上昇し、その後はほぼ一定の割合で推移する。

最も影響があった意思決定として、男性は仕事に関する項目を一貫して重視する一方で、女性は20代では仕事に関する項目を重視するが、30代以降はライフに関する項目を重視するようになっている。また、「結婚等」は男女の両方において年代を追うごとに影響が大きくなり、「子の出生」は女性において特に影響が大きく、男性においては年代によって受け止め方が異なっている。

図表1 最も影響があった意思決定
図表1 最も影響があった意思決定

転職等の影響とタイミング

転職等に関する意思決定の経験がある者は、調査対象者の71.7%であり、大多数の人が経験している。転職が人生に及ぼす影響の度合いを見るために、転職等経験者について性別・年代別に各意思決定との関係を整理した(図表2)。

転職等経験者に限定すると、男性は転職が大きな影響を及ぼしたとする回答が増加し(全体の男性計が16.8%に対し、転職等経験者の男性計は23.6%の+6.8ポイント)、女性は微増(全体の女性計が9.6%に対し、転職等経験者の女性計は11.5%の+1.9ポイント)にとどまっている。男女ともにライフに関連する項目の傾向は変わらない。転職等の経験は、男性にとっては影響が大きく、女性にとっては男性ほど影響が大きくはない。

また、転職等経験者においても男女ともに人生に最も影響があった意思決定を「最初の就職」とする者が存在している。転職等に関する意思決定を経たとしても、最初の就職は人生に大きな影響を及ぼす意思決定であることがうかがえる。

図表2 人生に最も影響があった意思決定(転職に関する意思決定の経験者に限る)
図表2 人生に最も影響があった意思決定(転職に関する意思決定の経験者に限る)
転職等の意思決定がいつ生じているのかを分析するため、転職等を最も大きな影響があった意思決定として回答した者に限定して、そのタイミングを性別・年代別に整理した(図表3)。

合計では意思決定のタイミングは20代後半がピークとなるが、性別・年代別に着目すると異なる動きが見える。男性40代と男性60代においては20代後半と同程度に30代前半での意思決定のタイミングがピークとなり、男性50代においては30代前半にピークがある。また、女性40代と女性60代においては20代後半に意思決定のタイミングがピークとなり、女性50代においては、30代前半にピークがある。人生に影響を与える転職等の意思決定は、男性よりも女性のほうが早い傾向があり、男女いずれも20代後半から30代前半にかけて生じることが多く、30代後半以降に生じることは少なくなっていくことがわかる。

図表3 最も大きな影響があった出来事を転職等とする人の意思決定のタイミング ※クリックで拡大します
図表3 最も大きな影響があった出来事を転職等とする人の意思決定のタイミング

結婚等や子の出生の影響とタイミング

次に、女性において特に大きな影響がある「結婚等」や「子の出生」について、それぞれの意思決定を経験した人に限定して、人生に最も影響があった意思決定を整理した(図表4)。

「結婚等」については男女ともに、年代を追うごとに人生への影響が大きい意思決定として挙げられることが多くなる。一方で、「子の出生」については、男性よりも女性において影響が大きいとする回答が顕著に多く、男女ともに20代から40代にかけて影響が大きい意思決定とする者が多いが、50代以降は減少に転じる。また、男性は結婚等経験者と子の出生経験者のいずれも、影響が大きい意思決定として仕事に関する項目を挙げる者が各年代において一定数いる傾向があり、女性よりも仕事を重視している傾向が見られる。

図表4 人生に最も影響があった出来事(結婚等経験者、子の出生経験者) ※クリックで拡大します
図表4 人生に最も影響があった出来事(結婚等経験者、子の出生経験者)

「結婚等」と「子の出生」の意思決定がいつ生じているのかを分析するため、それぞれを最も大きな影響があった意思決定として回答した者に限定して、そのタイミングを性別・年代別に整理した(図表5、6)。

「結婚等」については、男性は各年代ともに20代後半にピークがある。一方で、女性は20代から40代は20代後半にピークがあり、50代から60代は20代前半にピークがある(※3)。また、男女ともに30代から40代の結婚等の意思決定のタイミングは、30代前半から40代前半にも広がりつつある。人生に影響を与える結婚等の意思決定のタイミングは、近年、幅広い年代層に広がっていることがわかる。

図表5 最も大きな影響があった出来事を結婚等とする人の意思決定のタイミング ※クリックで拡大します
図表5 最も大きな影響があった出来事を結婚等とする人の意思決定のタイミング

「子の出生」については、男性は30代から60代において30代後半に山があり、女性は20代後半に山がある。また、男女ともに若い年代ほど、30代前半や30代後半とする者も多くいる。子の出生の意思決定のタイミングは、結婚と同様に、近年、幅広い年代層に広がっていることがわかる。

図表6 最も大きな影響があった出来事を子の出生とする人の意思決定のタイミング ※クリックで拡大します
図表6 最も大きな影響があった出来事を子の出生とする人の意思決定のタイミング

人生への影響が大きいであろう意思決定に備える

これまで「転職等」「結婚等」「子の出生」に注目して、人生に最も影響する意思決定とそのタイミングについて見てきた。男女ともに人生においては「結婚等」や「子の出生」というライフに関する項目の影響が大きいことがわかった。一方で、他の意思決定との関係で、ライフに関する項目が及ぼす影響の捉え方には、年代により男女で差があることが確認できた。また、人生に影響を与える転職等の意思決定は20代後半から30代前半にかけて生じ、30代後半以降に生じることは少なくなっていることがわかった。一方で、結婚等や子の出生の意思決定のタイミングは幅広い年代層に広がりつつあることが確認できた。

今回の集計では、意思決定が人生に及ぼした影響の理由や性別・年代別の違いが生じる背景などには迫れていない。また、意思決定のタイミングはあくまで傾向であって、一人ひとりの意思決定のタイミングがこの時期に生じるというわけではない。しかし、傾向を知ることで、自分に生じうる変化の可能性を知り、変化に備えた行動をとることができるようになるのではないだろうか。

執筆:橋本賢二

(※1)「ワークス1万人調査」調査概要
調査目的:キャリア選択に伴う意思決定、仕事観の多様性について、就業経験のある個人(有効回答数10000人)を対象にその実態把握を目的とした調査。調査時期は2023年10月。調査対象者のサンプリングにあたり現在の就業状況4セル(正規社員、非正規社員、その他の就業者、非就業者)×20-69歳男女・性年代10セルで割付を行った。

(※2)表にある6つの出来事のうち、進学は9094人、就職は9351人とほとんどの者が経験しているため、全体や他の出来事との比較が困難になってしまうこと、上京等は、この出来事を最も影響が大きかったとする回答が907人であり性年代別の分析に必要なサンプル数を確保できなかったことから、本稿においては充分なサンプル数を確保できる転職等、結婚、子の出生について分析している。

(※3)厚生労働省「人口動態調査」によれば、1987年の最も婚姻件数が多いのは男性26歳、女性24歳と年齢差があった一方で、2015年の最も婚姻件数が多いのは男女ともに27歳となっている。男女における年代別の傾向の違いは、近年の婚姻件数における男女間の年齢差がなくなりつつある傾向を反映しているものと考えられる。