ワークス1万人調査からみる しごととくらしの論点1万人に聞いてみた、「あなたにとって良い仕事」(1)

自分にとって「良い仕事」であるために絶対に必要な条件とは何だろうか。1万人調査の結果を分析したところ、「やりがい」「そこそこ」「何もない」「ライフスタイル重視」「自分ペース」「求められる」といった、6つのクラスタに分かれており、仕事からやりがいを得ているクラスタもあれば、仕事にはやりがいを求めず、自分の時間を邪魔しない範囲で「そこそこ」働きたいクラスタもあることが示された。

「良い仕事」に見られた20の要素

「あなたが考える『自分にとって良い仕事』は、どのような仕事ですか?」-この問いに何と答えるだろうか。

自由記述で尋ねた結果 を質的に分析し、その結果を基に「良い仕事であるために欠かせない要素」を図表1のグラフ中にある20の要素に分けて、1万人を対象とした調査(※1)のなかで「絶対に必要である」から「まったく 必要ではない」の5段階で尋ねた(※2)。
その結果、図表1のような結果が得られた。

図表1 良い仕事であるために欠かせない要素※クリックで拡大します
図表1 良い仕事であるために欠かせない要素


「絶対に必要である」「必要である」と回答した人が多い上位3項目を見てみると、精神的・肉体的に無理なく働ける(82.3%)、自分の時間が持てる(80.6%)、自分のライフスタイルにあった働き方ができる(79.6%)であった。下位3項目の楽(らく)である(50.9%)、自分に裁量権があり、やり方を決められる(51.1%)、短時間で稼げるコスパ・タイパがよい(51.4%)、については、必要スコアは低いものの一定数確認されている。

調査では、同じ項目について、「あなたにとっての『良い仕事』であるために、自分にとって特に重要なものを3つまでお答えください」とも尋ねている。
その結果を見ると、精神的・肉体的に無理なく働ける(29.5%)、やりがいが感じられる(23.8%)、自分のライフスタイルにあった働き方ができる(20.8%)、自分の時間が持てる(20.0%)が上位であった。

図表2 良い仕事であるために自分にとって特に重要な3つ

図表2 良い仕事であるために自分にとって特に重要な3つ
この結果を見ていて気になるのは、「自分のライフスタイルにあった働き方ができる」が20.8%であるものの、「自分に裁量権があり、やり方を決められる」が「特に重要だ」と回答した人は、5.8%にとどまっていることだ。つまり、ライフスタイルにあった働き方は望むものの、仕事を主体的にコントロールすることは求めていない。本来、ある程度の裁量権があり、自分で自分の仕事をマネジメントできるほうが、ライフスタイルにあった働き方がしやすいはずだが、「ライフスタイルにあった働き方」を誰かが実現してくれることを望んでいるようにも見える。

さらに、図表2の結果を見ると、項目のばらつきがあることがわかる。つまり、「自分にとって『良い仕事』」は当然のことながら個人によって異なっていることが予想される。そこで次にどのような人たちが、自分にとって「良い仕事」をどのように考えているのか、クラスタごとの人物像を明らかにすることを試みる。

「良い仕事観」の異なる、6つのクラスタ

人物像を明らかにするために、前述の20の項目をクラスタ分析したところ、解釈可能な6つのクラスタに分かれることが示された。

図表3 6つの良い仕事観クラスタ※クリックで拡大します
図表3 6つの良い仕事観クラスタ


それぞれのクラスタについて、分析結果から特徴を明らかにし、「やりがい」「そこそこ」「何もない」「ライフスタイル重視」「自分ペース」「求められたい」とネーミングした。
良い仕事観の異なる、6つのクラスタについて詳細を見てみよう。

感謝も家族との時間も欲しい「やりがい」派
このクラスタは、20の良い仕事の要素全てが他のクラスタと比べて比較的高い。項目間で比較すると、「楽である」「自分に裁量権がある」「短時間で稼げるコスパ・タイパが良い」の要素は、やや低い。
仕事のいいところ全てを満たしたいが、特に「やりがいが感じられる」のスコアが高い傾向にある。コスパ・タイパは求めていない。家族で過ごす時間も、自分時間も大事にしたい。成長意欲は他のクラスタに比べて高い傾向にある。

仕事に求めるものはない、クラスタ唯一のモノ志向「何もない」派
全てのスコアが低い。別の分析からはクラスタ中唯一のモノ志向で、体験や経験にお金を使いたくないと考えていることが示されている。仕事に出世や社会的成功、挑戦を望まない。能力や才能は認められなくてもよい。

仕事のやりがいと自分時間が大事「ライフスタイル重視」派
仕事のやりがいは欲しい。精神的に無理なく自分が好きなことで楽しくできる仕事、ライフスタイルにあった働き方や自分時間が持てることを望む。仕事の裁量は望んでいない。

やりがいも高い収入もいらない「自分ペース」派
仕事は手段。やりがい不要。そもそも仕事から充実感を求めていない。別の分析からは、社会や世の中のために何かしても変わらないと考えていることが示されている。収入は少しぐらい下がってもいいので自分の生活を充実させたい。人付き合いは避けたい。成長実感は持てていない。

仕事は手段の「そこそこ」派
ライフスタイルにあわせて自分時間が持てることを望んでいるが、「ライフスタイル重視」派ほどではない。タイパ・コスパは求めていない。別の分析からは、変化や挑戦は苦手なこと、仕事はどちらかと言えば手段として捉えていることが示されている。

やりがいやつながりを重視、「求められる」派
やりがいを重視。仲間から必要とされたい。職場の受け入れが欠かせず、仕事から充実感を求める。楽・コスパ、余裕を持って働くことは求めない。別の分析からは、勤務先との関係もよく、つながりや人間関係を大事にしていることが示されている。世の中や社会に貢献したい。生活のなかでの仕事の比率が高い。

残された課題―「そこそこ」「自分ペース」「何もない」という「良い仕事観」をどう捉えるのか

6つのクラスタのうち、「やりがい」や「求められる」が「良い仕事」だと考えるクラスタについては比較的捉えやすい部分もあるのではないだろうか。というのも、これまでに日本人の労働観を扱った研究(※3)からは、1980年代から1990年代の日本人の労働観は、仕事中心性が高いことが指摘されているからだ。仕事からやりがいを得たり、自分の存在を求められることは、その時代に議論された労働観を彷彿とさせる。その後、1990年代後半からは、仕事中心性が低下傾向にあるとされ、自身のライフスタイルにいかに仕事を位置付けていくかという観点からは「ライフスタイル重視」クラスタが多く存在することも理解できる結果であると言えるだろう。

その一方で今回見られた、「そこそこ」「自分ペース」「何もない」については、これまでの「労働観」「仕事観」の議論からは抜け落ちてきたクラスタで、昭和の時代に指摘された「働きバチ」や「会社人間」といった組織のなかでのやりがいを求めるクラスタとは対極にあると考えられる。
近年中国で話題になった「寝そべり族」や早期退職後に投資の運用益で経済的自立を目指す「FIRE」のように、「働くこと」を当たり前の前提としない現象が起こっている。日本でも1990年代までとは異なり、雇用形態が多様化し、先の見えない不安を抱える人も多いなか、働かないことやそこそこ働くこと、自分の時間を邪魔しない範囲で働くことは、現代の日本社会においてどのような意味を持つのだろうか。
稿を改めて議論を続けたい。

執筆:辰巳哲子

(※1)調査概要
「ワークス1万人調査」
調査目的:キャリア選択に伴う意思決定、仕事観の多様性について、就業経験のある個人を対象にその実態を把握する。なお、コモンメソッドバイアスの問題を生じさせないため、説明変数と被説明変数の時点を2時点に分けて実施した。
TIME1
調査時期: 2023/10/06~2023/10/12 
調査対象者:就業経験のある個人(調査時点で無職の者を含む)
割付:現在の就業状況4セル(正規社員、非正規社員、その他の就業者、非就業者)×20-69歳男女・性年代10セル で割付を行った
有効回数数:1万人
TIME2
調査時期: 2023/10/13~2023/10/18
調査対象者:TIME1回答者
有効回収数:9,874人
※ただし、分析の際は、TIME1のQ20「私にとって良い仕事」とQ38「個人の性格傾向」の質問に対してすべての選択肢に同じ回答をするなどの矛盾回答が見られる888名を除いた。

(※2)「『あなたにとっての良い仕事』になるために必要なことについてお伺いします。あなたが良い仕事と思うためになければならないことはなんですか?『絶対に必要である』から『まったく必要ではない』までの5段階でお答えください。」

(※3)例えば、以下のような研究がある。
杉村芳美著『脱近代の労働観-人間にとって労働とは何か-』1990,ミネルヴァ書房
杉村芳美著『「良い仕事」の思想―新しい仕事倫理のために』1997(中公新書)中央公論社
杜新(2001)「日本人の労働観」 研究の歴史的変遷: その位相と今日的課題,慶応義塾大学大学院社会学研究科紀要:社会学心理学教育学 52 : 39-49.
高橋美保(2005)「働くこと」の意識についての研究の流れと今後の展望,東京大学大学院教育学研究科紀要 45:149-157 .