人事プロフェッショナルへの道経営に寄与する人事プロフェッショナルとは

有識者、実務家による、人事プロフェッショナルを目指すすべての人向けの特別講義。Lesson6では、人事プロフェッショナルはいかにふるまい、何を学ぶべきかを改めて考える。

人事パーソンにとって、最も大切な仕事とは何だろうか。「経営が決めた方向に人々のベクトルを揃え、組織の力を最大にし、ビジネスにおける"勝ち"に導くこと。これが人事の役割」と断じるのはLIXILグループ執行役副社長の八木洋介氏だ。
ベクトルを揃えるのに、"ルール"をつくり、それに違反する人(つまり、組織の目指す方向と違う方向を見ている人)を"罰する"というのは人事管理のアプローチである。これだと、罰された人の力は消滅してしまうため、たとえ別の方向を見ている人がいなくなったとしても組織の力は小さくなってしまう(右図上段)。これに対し、八木氏が採る方法はこうだ。組織の目指すものとは違うものを見ている人のところに出向き、対話をし、納得してもらうことでベクトルの向きを組織の目指す方向へと変える。そうすれば、ベクトルを合成した結果、組織のパワーを当初よりも大きくすることができる(右図下段)。「このアプローチこそが、組織開発ということなのです。全員の方向を一気に変えることはできなくても、寄り添って、口説いて、少しずつ少しずつ向きを変えてもらえれば、いつしかすごい力を持つ組織になれる」(八木氏)

人事はストーリーを語り、納得感を引き出せ

重要なのは、出向いていって、対話をするというところだ。「多くの働く人は"善良な普通の人"です。道なきところに自分で道を描くことはできなくても、自分が正しいと納得できたら、それに向かって一生懸命やりたいと思ってくれる人々なのです。経営者が語る目標やゴール、経営課題を、人々がわかるようなストーリーに落とし込んで語り、納得感を引き出すのは人事の役目です」(八木氏)
人々の納得を得ようとするならば、自分自身が迷いのない状態でいなければならないというのも、八木氏の指摘するところだ。迷いのない状態をつくるためには、誰よりも学び続けることによって、自分のなかに太い軸を構築することが必要だ。

いかにして学ぶか、何を学ぶか

軸をつくるために学ぶのであれば、読書一つとっても、本に読まれているようではダメだ、と八木氏は言う。「数冊でよいので、考えながら読む"クリティカルリーディング"をしてみるべきです。この人はなぜこんな主張をするのだろう。こういう論理展開になるのはなぜだろう。背後にあるのはどういう考え方なのだろう。こういったことを考えながら1冊の本を1カ月くらいかけてじっくり読む。そうすると、だんだん自分の考え方や価値観もはっきりしてきます。これが本に読まれるのではなく本を読むということです」(八木氏)
八木氏が実践してきた学びの方法を、もう1つ紹介しておこう。「違和感掘り」というのがそれだ。「誰かと話していて『え? なんだか違うぞ』と感じたり、『そんなわけない』と思ったこと。そうした違和感を放置したままにせず、家に帰ってから徹底的に考えるのです」(八木氏)。なぜ自分はそこに引っかかるのか。それを突き詰めていけば、転じて自分が何を大切にしているかにたどり着くことができるというのだ。

正しいと信じることを、今すぐ実行に移す

自分の軸を持たなくてはいけないと八木氏が言うのには、もう1つ理由がある。「人事は全体を考え、前例を考え、正解を考え、と考え続けているうちに、なかなか行動できなくなってしまっている。行動しない人事はダメですね。絶対的な正解などどこにもないのだから『自分が正しいと信じていることなら、今すぐやる』しかないのです」(八木氏)
自分の信念にたどり着くために、学び続け、考え続け、そして行動に移すこと。人事プロフェッショナルにはこれが求められている。

Text=Works 編集部Photo=平山 諭

八木洋介氏
Yagi Yosuke LIXILグループ 執行役副社長 人事・総務担当