Next Issues of HR With コロナの健康経営第3回 発展していく健康経営の姿

連載の1回目では健康経営のこれまでと現在地、2回目は社員も会社も成長していく健康経営の要素をご紹介しました。最終回である今回は、健康経営の発展形を探ります。

今後、発展していく健康経営の姿をとらえる際には、超高齢社会では健康と社会・経済・環境・教育の課題が相互に連関し複雑化していくことを意識する必要があります。近年、企業の安定的な成長には、環境(E:Environment)・社会(S:Social)問題への取り組みやガバナンス(G:Governance)が重要であるという考えが広まり、ESG投資・ESG経営が世界的な潮流となっています。経済産業省は「健康経営はESGにおける“S”に位置付けられる」としており、これからの健康経営には、企業が健康を通じて社会のステークホルダーと共創し、循環型社会の構築を牽引することが期待されています。

これまでの健康経営は、社員の健康を通じて企業の持続的な成長を実現するという、企業に閉じた「健康投資」であったかもしれません。しかし、先進的な企業では既に、自社内の健康にとどまらないサプライチェーン全体の健康増進や、魅力的な職場づくりによる雇用の創出、新たな事業の創造を通じ、地域や社会全体の活性化に取り組んでいます。つまり、健康経営を通じた企業活動がオープンな形へと変化しているのです。

もう1つ意識しておきたいのは、健康経営が発展していく過程にDX(デジタル・トランスフォーメーション)が関わることで、健康経営の形や考え方が変わっていく可能性です。たとえば、国民皆保険制度に導入された「データヘルス計画」(「日本再興戦略」で掲げた政策で、医療・健康データに基づく効果的な予防・健康づくりを計画・実施・評価する取り組み)によって、これから全国のあらゆる職場・地域の健康課題や健康経営による実績がデータで可視化されていきます。すると、真剣に取り組む企業は社会からの評価が高まり必要な支援を受けやすくなります。

また、デジタルデータを活用する変革の影響は個々の企業にとどまりません。日本全体を健康づくりの実証フィールドとして、これまで企業ごとに閉じていた健康経営の「暗黙知」を「形式知」として共有できれば、革新的なヘルスケア・ソリューションの創造につながります。超高齢社会の課題を乗り越えていく日本の経験は、高齢化が進む他国を支援する武器にもなるでしょう。

All JAPANでの健康経営は、このようなことを実現していくプラットフォームになる可能性を秘めているのです。

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古井祐司氏古井祐司氏
東京大学未来ビジョン 研究センター特任教授

産官学共創のもとデータに基づく科学的な予防介入の設計および検証を進めるデータヘルス研究に従事。著書に、『会社の業績は社員の健康状態で9割決まる』(幻冬舎メディアコンサルティング)など多数。

Photo=刑部友康 Illustration=ノグチユミコ