Global View From USA第2回 ChatGPTで影響を受ける仕事とは?生産性や働きがいは向上という調査も

生成系AI「Chat GPT」が、米国の労働市場を揺さぶっている。「Uberの登場」以来の衝撃で、影響はその時を上回るといわれる。

Uberの本格始動は2011年。今ではタクシーよりもUberを使うのが当たり前となり、Uberの売上高は配車サービスだけで140億ドルに達する。ニューヨーク名物である「イエローキャブ」は仕事を奪われ続け、一時は十分な売上を得られない運転手の自殺も問題となった。

Uberを超えるインパクトとされる要因は、生成系AIの優れた作文能力と結果が即時に得られる点にある。ニューヨーク・タイムズは、影響を受ける職種として、「文系大学教授」「法律業務従事者」「保険代理人」「テレマーケティング」を挙げているが、仕事を奪われる一方で、逆に仕事の幅が広がるケースもある。

同時にニューヨーク・タイムズは、米マサチューセッツ工科大学の博士コースの学生の研究結果を紹介している。人事と営業部門のベテランに、通常20〜30分間かかるプレスリリースや簡単なレポートを書かせた結果、ChatGPTを使った人は、使わなかった人よりも37%の時間を節約し、働きがいも20%増したという。

この結果からわかるように、ChatGPTはこれまで「知的労働」と考えられていた一部を代替する。知識や知性の蓄積がなくても可能な知的労働は淘汰されるということで、それだけに「解雇につながるのでは」という懸念が広がっている。

問題は雇用への影響だけではない。イーロン・マスク氏らテクノロジー界のリーダーと研究者1000人以上は3月29日、「AIが社会と人類に深刻なリスクをもたらす」と指摘。世界のAIの研究所に対して最先端のシステム開発を一時停止するよう要請した。イタリアではデータ保護当局が個人情報保護の観点から、ChatGPTの利用を一時禁止すると発表。ドイツやフランスなど欧州のほかの国も追随する可能性がある。とはいえ、世界のAI研究や開発を一斉に止めることはできない。

企業では個別に生成系AIの使い方や基準を決めていくことが重要となるだろう。使い方によってはやりがいや生産性は高まるかもしれない。しかし同時に、不正な銃器や薬物を流通させたり、弱者や未成年を傷つけたりするような情報を流すなど、社員が生成系AIを「悪用」しないような指針も必要となるだろう。

w178_usa_main.jpg知的労働の一部を代替する能力があるといわれるChatGPT。脅威となるか福音となるか。
Photo=CFoto/時事通信フォト

Text=津山恵子

津山恵子氏
Tsuyama Keiko
ニューヨーク在住ジャーナリスト。元共同通信社記者・ニューヨーク特派員。著書に『現代アメリカ政治とメディア』(共著)など。海外からの平和活動を続けている長崎平和特派員。

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