Global View From Nordic第1回 国際競争力1位のデンマーク 官僚も企業幹部も帰宅時間は午後4時台

w177_gv_nor_main.jpg午後4時前に職場から子どもの迎えに向かう人たち(コペンハーゲン中心部で)
Photo=井上陽子

海外出張が多い人でも、北欧を訪れたことがある人は少ないかもしれない。世界経済の中心でもないし、ニュースになる出来事もさほど起きない。私は日本の新聞社に20年ほど勤めていたが、米国や欧州の主要都市に行ったことはあっても、北欧にはまったく縁がなかった――デンマーク人と結婚するまでは。

デンマークを訪れた日本人に印象を尋ねると、「建物が低い」「自転車とベビーカーが多い」「人が落ち着いている」といった答えが多い。人口600万人に満たない小さな国で、銀座も新宿も渋谷も秋葉原もある東京と比べれば、首都コペンハーゲンの街は「……これだけ?」と思ってしまうような規模感とバラエティのなさである。

そんな、一見刺激の少ない場所なのだが、妊娠を機に移住して7年が過ぎた今、私はますます、この北欧社会の人間らしい働き方、生き方を可能にする社会経済の仕組みに、今の日本への示唆を感じるようになっている。それが凝縮された形で現れているのが、午後4時台(金曜日だと午後3時台)がラッシュアワーという短時間労働にもかかわらず、経済競争力を保っていることだろう。

デンマークは、スイスのビジネススクールIMDが2022年に発表した世界競争力ランキングで、トップを獲得した。競争だとかランキングといった考え方を嫌い、小学生のうちはろくに宿題もテストもないような人たちの競争力が、競争社会の日本(63カ国中34位)よりずっと高く評価されているというのは、考えさせられるものがある。ほかにも、国連の電子政府ランキングの1位、環境への配慮が高い政策の国ランキングでも1位、SDGsの達成度ランキングで2位など、「一歩先」を行っていることを示す指標は多い。

私自身、新聞記者という長時間労働の職場にどっぷり浸かっていたこともあり、短時間ながら結果を出すデンマーク流の働き方には驚くことが多い。子ども同士が同じ幼稚園に通うパパ友の1人は、デジタル庁の局長という立場ながら、民間企業幹部の妻と家事育児をきっちり半分ずつ分担し、週に2日は午後3時半すぎに職場を出て子どもを迎えに行く。価値を生み出す仕事かどうかを厳しく選別しながら全力で仕事を終え、さっさと職場を出るのは、家族とじっくり時間を過ごすため。仕事がすべてではない、という考え方なのである。

Text=井上陽子

井上陽子氏
Inoue Yoko
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。

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