高齢人口の増加によって、生活維持サービスにはより多くの労働投入が必要となる。持続可能な現場をつくるためには、どのような変化が必要なのか。働き手不足が深刻な生活維持サービスであるエッセンシャルワークの現場では、どのような先進的な業務改善の試行錯誤が始まっているのか。
本コラムでは、エッセンシャルワークの5つの領域(医療・介護、公共安全・セキュリティ、食品・日用品製造・販売、交通・物流、エネルギー・インフラ)で働く全国20~69歳の男女2,575名を対象に実施した「エッセンシャルワーク実態調査」(※1)の結果から、交通・物流(※2)の現場の業務実態と現場改革を見ていく。
日常業務では車両運転・配達業務が3分の1以上を占める
交通・物流の日常業務ではどの業務にどのくらいの時間を投入しているのだろうか。現場ヒアリングや事前調査を通じて日常業務のタスク分解を行い、交通・物流の現場で働く515名を対象に、1日の業務時間を100%として各業務にかかる時間の割合を回答してもらった。(図表1)。交通・物流全体で投入時間の割合が高かった日常業務では、「車両運転・配達業務」が34.6%、「倉庫内作業(入荷・ピッキング・仕分け・検品・出荷など)」が22.3%、「配送関連作業(積込・荷下ろしなど)」が11.8%であった。
この領域では、職種による特徴が日常業務に影響するため、回答が50サンプル以上あった職種を確認した。「車両運転・配達業務」はドライバーでは58.2%、配達員では45.0%と高い割合を示した。「倉庫内作業(入荷・ピッキング・仕分け・検品・出荷など)」は倉庫作業員では63.8%を占めている。
図表1 日常業務における投入時間の割合 職種比較
※四捨五入により、合計が100%とならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成
倉庫内作業では雇用形態による業務内容の違いが明確
次に正社員と正社員以外(パート・アルバイト、派遣社員、契約社員)(※3)で、日常業務における投入時間割合を確認した(図表2)。全体では、「倉庫内作業(入荷・ピッキング・仕分け・検品・出荷など)」が正社員の11.8%に対し、正社員以外では48.5%と36.7%ポイントの差が見られた。倉庫作業員においては、雇用形態によって日常業務の割合が異なることが想定されたため、雇用形態別に分析した。
倉庫作業員では、正社員と正社員以外の日常業務における投入割合が異なっている。正社員の日常業務割合では、「倉庫内作業(入荷・ピッキング・仕分け・検品・出荷など)」が49.4%と、正社員以外よりも22.1%ポイント少なかった。一方、「業務管理・調整(業務量把握、人員配置、進捗など)」は5.1%、「事務処理・管理業務(労務、シフト作成、品質管理、在庫管理など)」は7.7%、「打合せ(社内・社外)・会議」は5.9%である。これらの業務はいずれも正社員以外よりも4%ポイント以上多く、3つの業務の合計では14.5%ポイントの差となっている。正社員の日常業務では、管理業務を中心に投入割合が高くなっていることから、雇用形態により担当する業務内容が分けられていると言える。
図表2 日常業務における投入時間の割合 雇用形態比較
※四捨五入により、合計が100%とならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成
いつでもパソコンにアクセスできるのは5人に1人
交通・物流の従事者は、どのような業務環境で働いているのか。全体、および業務改善があった現場(30.1%)と業務改善がなかった現場(48.2%)(※4)を比較しながら、業務環境を確認する(図表3)。業務上の記録および会議用の資料について、紙媒体か電子データかをたずねた。全体では「業務上の記録は紙で残している」が44.5%、「業務上の記録は電子データで残している」が36.1%であった。このことから、交通・物流の業務環境では、業務上の記録が紙と電子データの両方で運用されていることがわかる。業務改善があった現場では、紙での記録は全体よりも2.0%ポイント高かったが、大きな差とは言えない。一方、電子データでの記録については、業務改善があった職場では55.5%と全体よりも19.4%ポイント高く、業務改善がなかった職場では27.8%と、改善があった職場の約半分にとどまった。業務改善があった職場では、電子データによる記録が進んでいることがうかがえる。
業務用デバイスへのアクセス環境についても確認する。全体では、「業務用のパソコンをいつでも使える」が22.3%、「業務用のタブレットをいつでも使える」が9.7%、「業務用の携帯通信機器(スマホや携帯電話)が個人に貸与されている」が20.0%であった。業務改善があった現場では、いずれも全体より10%ポイント以上高く、デバイスにアクセスできる環境が整いつつあると言える。一方、業務改善がなかった職場では、パソコンおよびタブレットをいつでも使えるとの回答は、全体平均を下回る結果となった。
図表3 業務環境について
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成
デバイスにいつでもアクセスできる環境では46.8%で業務改善が進む
デバイスにいつでもアクセスできる現場では、業務改善が進んでいるのだろうか。図表3の質問事項の「業務用のパソコンをいつでも使える」「業務用のタブレットをいつでも使える」「業務用の携帯通信機器(スマホや携帯電話)が個人に貸与されている」のうち一つでも該当する場合を、いつでもアクセスできるデバイスがあるとして分類し、業務改善があった割合を確認した(図表4)。
業務改善の割合は交通・物流全体では30.1%であったが、デバイスにいつでもアクセスできる環境がある現場では、16.7%ポイント高い46.8%だった。一方でいつでもアクセスできるデバイスがない現場では、ある現場に比べて26.3%ポイント低い20.5%であった。デバイスにいつでもアクセスできる環境がある現場では、ここ2年に業務改善があった割合が2倍以上高いことが言える。
図表4 デバイス環境と業務改善について
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成
デバイス導入がされた職場は労働時間が短い
いつでもデバイスにアクセスできる現場では、日常業務にどのような影響があるのか。正社員に限定して確認する(図表5)。いつでも利用可能なデバイスがある環境では、「関係者とのやり取り(電話・メール)」が8.1%、「業務管理・調整(業務量把握、人員配置、進捗など)」が4.6%、「事務処理・管理業務(労務、シフト作成、品質管理、在庫管理など)」が5.7%と、調整を主体とする日常業務の割合が増加している。一方、「車両運転・配達業務」は33.9%であり、デバイスがない環境に比べて10.3ポイント減少している。
また、デバイスへのアクセスが週の総労働時間に与える影響についても、正社員に限定して確認した(図表6)。全体では週48.2時間であるのに対し、いつでもデバイスにアクセスできる現場では週46.1時間と、全体平均よりも2.1時間短い。これに対し、いつでもアクセス可能なデバイスがない現場では、週49.7時間と、アクセス可能な現場よりも週3.6時間長い結果となった。
いつでも利用可能なデバイスの導入は、正社員の業務内容に変化をもたらしている。特に、現場での調整業務や管理業務の比重が高まり、業務の質的転換が進んでいることがうかがえる。実際に取材で訪れた倉庫内作業を中心とする企業では、正社員はオペレーション業務を担うのではなく、現場のスタッフ管理やオペレーションの改善業務を担う役割を果たしていた。また、現場オペレーションの管理を任される正社員以外の従業員にも、いつでも利用可能なデバイスが提供され、常に情報伝達が可能な環境が整っていた。
このように、デバイスの活用は、現場の業務効率化や役割の再定義に寄与している可能性がある。チームワークで仕事を進めるエッセンシャルワークの領域においては、デバイス環境が整うことで、迅速な情報伝達が可能になるのではないだろうか。
図表5 日常業務における投入時間の割合 デバイス環境比較
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成
図表6 週の総労働時間の平均 デバイス環境比較 (正社員)
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成
(※1)調査期間は2025年1月9日(木)から10日(金)で、インターネット調査を実施した。調査対象は、全国の20~69歳の男女で、エッセンシャルワーク従事者である。エッセンシャルワークの職種については、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部の連絡事項「新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応について」(https://www.mhlw.go.jp/content/000881571.pdf)を参照して整理した。今回の調査対象では第1次産業、比較的賃金が高いとされる職種(医師・薬剤師・マスメディア・金融関連など)を除き、①医療・介護、②公共安全・セキュリティ、③食品・日用品製造・販売、④交通・物流、⑤エネルギー・インフラの5つの領域とした。サンプルサイズは各職種515サンプルの合計2,575である。
(※2)交通・物流の対象者は自動車・バイク整備士(n=9)、サービススタッフ(ガソリンスタンド)(n=5)、ドライバー(n=203)、配達員(n=87)、倉庫作業員(n=159)、船舶・航空機運転従事者(n=8)、鉄道運転従事者(n=44)である。
(※3)調査対象の雇用形態はその他の形態、会社などの役員、自営業主・家族従業者・内職と回答した人を除き、正規の職員・従業員と回答した人を正社員(n=330)、パート・アルバイト(n= 90)、労働者派遣事務所の派遣社員(n = 14)、契約社員・嘱託(n= 46)と回答した人を正社員以外とする。
(※4)ここ2年ほどの間に、業務効率を高めるための業務改善について、「あった」(n = 155) が30.1%、「なかった」(n = 248)が48.2%、「わからない」(n = 112)が21.7%だった。
執筆:岩出朋子