Ile de France フランスで最も「smart」なオフィスをつくる

2024年07月10日

イル・ド・フランス地域圏 ファビエンヌ・ショル氏とギヨーム・オバン氏

サン・トゥアン市への本部移転は、発展し続けるイル・ド・フランス地域圏の『スマート地域圏』としての、より包括的で革新的な運営への一歩を象徴しています

イル・ド・フランス地方は、フランスの政治・経済の中心地であるだけでなく、文化・歴史・社会が融合する交差点として知られている。パリを中心に、豊かな文化遺産、ダイナミックな経済、国際的な影響力を誇る地域である。総面積は1万2000 km²で、首都パリを含めた8つの県から構成されており、総人口は1200万人以上で、フランスで最も人口密度の高い地域である。ヨーロッパで最も経済競争力の高い地域の1つであり、ヨーロッパ随一のビジネス地区であるラ・デファンスを代表に、多くの多国籍企業や金融機関が所在しており、フランスの国内総生産(GDP)の約30%を占めている。

イル・ド・フランス建物外観イル・ド・フランス地方は「グラン・パリ計画」という大規模都市開発計画においても中心的な役割を果たしている。進行中のこの計画により、2018年にイル・ド・フランス地域圏の本部は、パリの7区から、パリ近郊の再開発地区であるサン・トゥアン市のエコロジー再開発地区へ移転した。この戦略的な移転は、2015年に地域圏知事に選出された女性知事ヴァレリー・ペクレス氏の公約の1つでもあり、地域圏の近代化と市民との距離を縮める目的で決定された。

今回は、イル・ド・フランス地域圏で移転プロジェクトを中心的に牽引した、イル・ド・フランス地域圏副局長で人事部部長のショル氏と、ワークエクスペリエンス・組織変革担当部長のオバン氏に、近代的なオフィススペースでの新しい働き方の導入にまつわるエピソードや、未来の仕事像に向けた今後の展望などについてお話を伺った。

スマート地域圏、模範となる役割

イル・ド・フランス地域圏は、本部に勤務するオフィス職員2000人と、教育施設などで働く現場職員8500人を抱える大規模な組織です。以前は、パリの7区を中心に11カ所に分散していた拠点は、19世紀に建てられた歴史的建造物であり、パリらしい素晴らしい建物でしたが、高い家賃とエネルギーコスト、細かく仕切られたスペースは、増加するコラボレーションワークには適していませんでした。

協業が必要なプロジェクトでは、職員は各拠点から、大きな作業スペースのあるコワーキングスペースなどに出向く必要があり、非常に不便でした。このような移動には半日かかることもあり、多くの時間が無駄になっていました。

インタビューに答えるファビエンヌ・ショル氏とギヨー    ム・オバン氏しかし、パリの中心からメトロで10分ほどのサン・トゥアン市にオフィスを集結することで、職員の労働条件は大幅に改善されました。また、イル・ド・フランスの住民に提供するサービス窓口も一本化され、サービス全体の向上にもつながっています。さらに、パリと比較して家賃が半分以下のサン・トゥアン市への移転は、公的資金の効率的な利用を意味し、毎年900万ユーロの節約を実現しています。

こうした地域圏の取り組みは、効率性と持続可能性を兼ね備えた発展のモデルとなり、都市開発と近代的ガバナンスの最前線であり続けることを目指しています。私たちの目標は「スマート地域圏」として、国外の公共団体に見本を示すことです。

「イノベーション」と「エコロジー」を理念に

本部移転のプロジェクトは、2016年にスタートし、2年の月日をかけて実現しました。最初に、新しいオフィスに関する25の基準を定義しました。これには、メトロに近接していること、6階以下の低層建築であること、窓が開閉できること、環境に配慮された設計であること、エネルギーコストを軽減できること、などが含まれていました。新しいオフィスの選定にあたっては、50カ所以上の候補地を訪問しました。そして、パリ市内を横断するメトロ14番線がサン・トゥアン市まで延長される工事が進行中であり、移転後すぐに利用できることが決定打となりました。

新しい拠点は敷地全体の24%が緑地帯となっており、緑地帯を中心にスペースが構成されています。建物と緑地帯の融合を重視しながら、自然光を活用し、機能的で革新的なワークプレイスを実現しています。建物自体は、敷地全体に広がる庭の上に浮かぶように設計され、外部から内部の景観が見える透明性を持っています。ファサードは白とライトグレーを組み合わせ、明るい雰囲気を醸し出しています。

入り口近くのラウンジには、カフェスペースが点在しており、職員が休憩したり、外部からの訪問客を招いたり、アフターワークなどのイベントを開催できるように設計されています。ラウンジの奥には、映画館を兼ねたオーディトリウムがあり、講演会やセミナー、全体ミーティングなどが行われています。また、イル・ド・フランス地域圏には469の高等学校が存在しますが、教育プログラムの一環としてドキュメンタリーなどを上映しています。

さらに、3つのレストランスペースがあります。大きなレストランは中庭に面しており、緑に囲まれた開放的な空間です。ビストロタイプのレストランはパリのビストロを再現した美しい空間で、地域産の新鮮な食材やオーガニック食品を使用しています。メニューは多彩で、フレンチからベジタリアン料理、アジア料理まで幅広い選択肢があり、特に寿司カウンターは職員に人気があります。以前の社員食堂は地下室で窓もなく、快適さに欠けていましたが、新しい環境は比較にならないほど快適です。

カラフルで快適なオフィススペースは、活気に満ちたダイナミックな雰囲気を醸し出しています。オフィスは完全なオープンスペースで、コンシェルジュサービスやジムなども備え、職員が共に生活する場所として設計されています。ミーティングルームや集中したいときに使う部屋など、用途によってサイズが異なる部屋を使い分けることで、創造性とコラボレーションを促進するフレキシブルな職場環境が実現されています。

カラフルで快適なオフィススペースの画像

顔が見える組織へ、再構築される働き方

近代的なオフィスへの移転は、組織変革のための重要な要素となりましたが、移転発表当時、職員から強い反発があり、プロセスは簡単ではありませんでした。移転前の7区はパリ市内でも非常にプレステージのある地区で、以前の本部は大使館や省庁に囲まれ、美しい歴史的建造物が立ち並んでいました。職員たちは7区で働くことを誇りに感じており、通勤しやすい場所にわざわざ引越しするなどしていました。そのため、当時はイメージが悪かった郊外のサン・トゥアン市への移転は簡単に受け入れることはできなかったのです。

2年間にわたる説得の過程は非常に困難でした。職員側の反対が強く、労組との話し合いは17回にもおよんだのです。状況を打開するためにまず、各部門から代表者を募り、既にオフィス改革を進めている企業を訪問しました。訪問先には、AXA、ソシエテ・ジェネラル(レ・デューン)、ロレアルなどがありました。6カ月間に400人以上の職員が参加し、オープンスペースに対する新しいイメージを持つことができるようになりました。

しかし、古い体質の公共団体が私企業のように働き方を変えるのは難しいことでした。特に管理職クラスでは、個別オフィスを持つことが出世の象徴であり、フレックスオフィスで部下とデスクを並べて仕事をすることは受け入れがたいことでした。

このように移転前は大きな反発がありましたが、実際に移転してみると、顔が見える環境でのコミュニケーションが改善され、チームコラボレーションも円滑に進みました。現在、職員のモビリティと交流をさらに促進するための新たなオフィススペースが設計されています。

ファビエンヌ・ショル氏とギヨー    ム・オバン氏新しい拠点での職員の反応は、80%が「ほかの職員との交流が楽になった」と感じており、86%が「仕事の機会に満足している」と報告しています。また、71%の職員は「上司との協力関係が強化された」と考えています。

また、パンデミック時のテレワーク導入については、大きな問題はありませんでした。既に2017年から週1〜2回でテレワークが実施されていて、移転を機に大規模なDX(デジタルトランスフォーメーション)でデジタル化も進んでいたため、導入はスムーズでした。

インキュベーターとしての積極的な役割

イル・ド・フランス地域圏では、2023年にスタートした「LE PERQO」というインキュベーターが重要な役割を果たしています。このプログラムは、地域圏をイノベーションと未来の経済において、欧州のリーダーとすることを目指す政策の一環であり、モビリティ、健康、エネルギー、教育、環境などの分野で社会と環境にプラスの影響を与える革新的なソリューションの開発を支援しています。対象はスタートアップ、アソシエーション、企業であり、プロジェクトの育成には、地域投資ファンドを通じた資金援助や研究施設、大学、企業間の協力が不可欠です。

「LE PERQO」は、革新的なプロジェクト立ち上げを対象にした6カ月の集中プログラム「Expresso」と、より高度な企業やスタートアップを対象とした12カ月のプログラム「Lungo」の2つの支援プログラムを提供しています。各プログラムにはオフィススペース、ワークショップ、個別コーチング、ネットワーキングの機会が含まれています。

2023年春、第1回目の募集では、150の応募から40のプロジェクトが選出されました。これらのプロジェクトは、エコロジカル・トランジション(環境移行)、グリーンテック、サーキュラー・エコノミー、障害と「HandiTech」(ハンディキャップのある人々のための革新的テクノロジー)、スポーツに関連しています。

60のプロジェクトのうち、女性によるプロジェクトは30件あり、地域圏の8県を代表し、21歳から70歳までの幅広い年齢層が参加しています。


取材・TEXT田中美紀(客員研究員)、村田弘美(グローバルセンター長) 
PHOTO=小田光(photographer)

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