AIと共に描くHRテックの未来 ─ Unleash World パリ2023──田中美紀

第10回目となるUnleash World が、パリのコンベンションセンターで10月17～18日の2日間にわたり開催された。テーマは、「AI（人工知能）を駆使した新技術が、未来のHRに与える影響」である。会場ではジェネレーティブAIを活用したHRプロジェクトが大きな注目を集めていた。大規模HR テック系カンファレンスへは初参加であった筆者だが、16のセッションと、2つのメインステージでのカンファレンスに参加することができた。興奮冷めやらぬ現場から、その一部をお届けしたい。

ラグビーワールドカップ・フランス大会記念特別ゲスト

メインスピーカーには、SpotifyのCHROであるカタリーナ・バーグ氏、技術畑出身のロレアル副CEOの バーバラ・ラヴェルノ氏、SodexoのCHROであるアニック・ドゥ・ヴァンセー氏、Josh Bersin Academyの創設者であるジョシュ・バーシン氏、元労働大臣でダノンのシニア・アドバイザーなどを務めるミュリエル・ペニコー氏など、ビジネス界の重鎮が名を連ねる中、注目すべきはラグビー界のレジェンド、元イングランド代表のジョニー・ウィルキンソン氏 と元フランス代表のセルジュ・ベッツェン氏 が、フランスで開催中のラグビーワールドカップを記念して特別招待されたことだ。

ラグビーといえば、肉体的、精神的に最も過酷なスポーツの１つとされている。何度も地面に叩きつけられては立ち上がり、タックルを繰り返すラグビー選手たちは超絶なメンタリティを求められる。昨今のビジネスに最も重要な要素とされる、まさに「レジリエンス（再起力）」の象徴である。ビジネスシーンで直面する課題との類似性を見出しながら、ラグビーのレジリエンス戦略を活用し、不確実な時代に成功するためのキーを探るという内容だった。タイムリーな話題なだけに会場は熱気にあふれ、多くの参加者が立ち見席で2人の話に聞き入っていた。

「100%テレワーク」成功の鍵とは

SpotifyのCHROであるカタリーナ・バーグ氏は、2022年に導入した100%テレワーク・プログラムである、「Work From Anywhere」のケーススタディを披露した。Spotify では数年前から未来のワークスタイルに関して議論しており、グローバル化とデジタル化がより柔軟な労働環境に導くとの結論に達していた。世の中の傾向がオフィス復帰である中、どのようにワーク・ランドスケープを再構築し、優秀な人材を惹きつけ、ワーク・ライフ・バランスを向上させたのかを披露した。従業員の満足度と生産性に与える影響の鍵は、「フレキシビリティ」と「自主性」であると結論付けた。

一方で、ロレアルの副 CEO の バーバラ・ラヴェルノ氏は、急速に変化する企業環境において、リーダーとしていかに柔軟に変化に対応し、組織に利益をもたらすだけでなく、従業員、地域社会、社会全体の幸福と成功に貢献できるかを問う「社会契約」を結ぶための革新的な戦略を共有した。労働市場において前例のない変革期において、リスキリングのメリットを強調したのは、オレンジの 最高人事責任者であるヴァンソン・ルセー氏だ。オレンジの変革的人事戦略に焦点を合わせながら、現実的な人事課題とその解決策を探り、進化する需要に対応するための人事形成の重要性について話した。

白熱した雰囲気の中で進行される、スタートアップ・コンペティション

賞金5万ユーロをかけたスタートアップ・コンペティション

スタートアップ・コンペティションは Unleash のハイライトでもある。HR テックの未来を育てるという、Unleash の DNA の一部でもあるこのプログラムは、4 月に米国のラスベガスで開催された Unleash Americaで予備選考され、最終選考に残った 5 社がステージ上で 3 分間のプレゼンテーションを行い、賞金 5 万ユーロを目指して優勝を競う。今年の審査員は、Spotify のカタリーナ・バーグ氏、CoachHub のジュリアーヌ・ステルズ氏など全部で 8 名だ。

競争が特に激しかった今年のコンペを制したのは、ドイツを拠点としバーチャル音声のガイド付き求人アプリケーションを提供する「Talk'n'Job」だ。採用プロセスを合理化し、極端なまでにユーザーエクスペリエンスを簡素化したことで、ブルーカラーなど、最前線で働く労働者に焦点を合わせたサービスを発展させている。今後、大幅な需要増大が見込まれると、大きな注目を集めた。Talk'n'Job は、すでに 7 カ国で 180 の顧客（英国国民保険サービス、アルディ、ビーブラウンなど）を抱えている。