“ありのまま”と“何者”のはざまで。若者キャリア論2020【座談会】企業内「有志活動」実践者と考える、行動の価値

リクルートワークス研究所では「『行動』から考える若者キャリア論」と題して、若手の社内外での行動に注目した研究を行ってきた。
中でも昨今、大企業の若手・中堅社員による、企業内での「有志活動」が活況を呈している。その内容は、勉強会やイベントの実施、ピッチコンテストの開催など様々だ。
本記事では、前回の濱松誠氏との対談に続き、行動する若手社員の実態に迫るべく、2020年10月に開催されたオンラインイベント「ONE JAPAN CONFERENCE2020」のセッションで共有された若手社員の有志活動という「小さな一歩」に着目。
大企業で一歩を踏み出した3名に話を聞いた。

(聞き手:リクルートワークス研究所 古屋星斗)

なぜ「有志活動」を始めたのか

古屋:リクルートワークス研究所の古屋と申します。若手人材のキャリアを「行動」から考える研究を行っています。はじめに、みなさんのプロフィールと所属する会社での有志活動を始めたきっかけを教えてください。 加藤東洋ガラスの加藤です。普段は事業創出に携わりながら、東洋製罐グループの有志団体「ワンパク」の共同発起人を務めています。メインの活動は、自社グループ内の交流を促すイベントや勉強会の企画などです。

加藤さん1.jpg加藤優香理(東洋ガラス 新市場創造グループ・有志団体「ワンパク」共同発起人)
2010年東洋ガラス入社。ガラス瓶の企画・開発に従事。育休復帰後、2016年に東洋ガラス有志団体「ホットワークス」を立ち上げ。2018年より東洋製罐グループ全体の横断コミュニティ「ワンパク」を共同主宰している。

加藤もともとはガラス瓶の企画や開発をしていたのですが、約1年半の産休・育休期間を経て一念発起。当時の社長に声をかけられて、新市場開拓を担当することになり、2018年に今の部署を立ち上げました。
そこで、まずは事業創出について知見を得ようと、ONE JAPANの集まりに参加したところ、有志活動の存在を知って……私も自社で始めてみようと、2016年に有志団体を設立しました。

一杉NTT東日本の一杉です。経営企画部で新規事業の仕事をしながら、2015年にNTTグループ横断の有志団体「O-Den」を立ち上げ、代表をしています。

★一杉さん.jpg一杉泰仁(NTT東日本 経営企画部 ビジネスディレクター・NTTグループ有志団体「O-Den」共同発起人)
2010年NTT東日本入社。法人営業・経営企画を経て現職。新規事業・時短仕事術・プレゼン術などのワークショップも主催。2015年に有志団体「O-Den」の立ち上げを行い、代表を務めている。

一杉少し青くさいですが、私は入社してから10年間ずっと「NTTを変えたい」と言い続けています。
30万人の社員がいるNTTに、大きな変化が起きたとしますよね。そうすれば、他の会社にもその気運が伝播し、社会全体の変化に繋がっていくのではないか、と。そんなビジョンを描き、5年前に同僚と有志団体をつくりました。

北野AGCの北野です。開発職として新卒入社しましたが、組織改革に興味を持ち、3年前に広報へと社内転職。同時期より、AGCの有志団体「AGseed」に所属しています。

★北野さん.jpg北野悠基(AGC 広報・IR部・AGC有志団体「AGseed」所属)
2013年、AGCに開発職として入社。組織風土の変革を志し、2017年に社内転職。広報・IR部へ。有志団体「AGSeed」の窓口も兼務している。

北野前のお二人と違って、自ら団体を立ち上げてはいませんが、私も入社してから日々の仕事に向き合う中で、働き方や組織について考える機会がありまして……。
研究・開発の仕事は楽しかったのですが、次第に「もっと若手がワクワクしながら働ける環境をつくりたい」「AGCをさらにいい会社にしたい」、そんな想いが強くなっていきました。
そこで、先輩がつくった「AGseed」に参加し、今に至ります。

悩みつつも「行動」し続ける理由

古屋3名とも大きな組織での業務に並行して、有志活動を続けられています。もちろん、応援の声も多いと思いますが、いろんな壁にぶつかることも少なくないのではと推察します。
行動を続ける中で、組織に対して感じる難しさやモヤモヤはありますか。

北野難しさは常に感じています。確かに、組織課題を「これは会社が悪い」とか、「中間管理職が悪いんだ」と片付けてしまうのは簡単です。私も有志活動を始めるまでは、そう思っていたのでわかります。
ただ、他責にしていては何も変わらない。今は、若手と上層部、あるいは部署間など、社内で様々な対話の機会を設け、解決の糸口を見出せないかと考えています。
とはいえ、活動趣旨が十分に現場の社員に伝わらないもどかしさと、彼らにどうしたら有効な交流の機会を提示できるだろうか、という葛藤。この2つは常に感じています。

一杉現場との熱量のギャップは、有志活動の悩みとしてよく聞きます。私たちも活動を始めた当初は、「意識高い系だよね」と周りから壁をつくられた経験が何度もあります。
ただ、そこからさらに突き抜けて「意識高すぎる系」になると、むしろ「応援しているよ」とか「手を貸そうか」と、周りから声をかけられるようになりました。ですから、有志団体を始めたばかりの人には、周囲の声に流されずに行動し続けてみてほしいと伝えたいですね。

古屋なるほど、一定のところまでは大変だったけれども、そこを突き抜けると新境地が見えてきたわけですね。加藤さんはいかがでしょう。

加藤私の場合は、有志活動を始める前の段階で少しモヤモヤしていましたね。
というのも、育休復帰後に社内のいろいろな方とお話していたのですが、そのときに部署を超えた繋がりが自分の入社当初と比べて希薄になってきているな……と感じていて。
育休明けの、キャリアにも不安のある時期に、私はたまたまONE JAPANに出会いました。だから、社内活動も始められたし、社外の知り合いもぐっと増えた。
この経験を次の世代にも還元できたらなと思っていますし、有志活動を通して社内と社外の繋がりの数を増やすべく、邁進しています。

企業変革を起こす「繋がり」のつくり方

古屋行動を起こすことのメリットと言いますか、活動を続けてよかったことや、いわば「役得」についてお聞きしたいです。

北野広報という職業柄、有志活動を通したメリットはかなりあると思います。社内のネットワークや社外のステークホルダーとの関係性が、仕事の充実度に直結しますから。
それから、組織の風土変革を行う場合、広報が貢献できる価値は非常に大きいのでは、と感じています。
組織を変える際、確かに経営者からのビジョンの提示は重要です。しかし、トップダウンで一方的に改革を進めるより、広報のような現場とのコミュニケーションハブになれる存在がいた方が、よりスムーズに話が進むのではないか、と。

古屋本業と有志活動で好循環が起こっているんですね。一杉さんはいかがですか。

一杉私も役得を感じています。有志活動を通して、普段はなかなか接する機会のないNTTグループの役員をはじめ、ミドルやボトムまで幅広い接点をつくることができました。
普段の仕事においても、社内の「ゆるい繋がり」がグループや部署を超えた新規事業に発展することもしばしば。こうしたネットワークが得られるのは大きいですね。

加藤有志活動を通して他のグループ会社の社員や役員と意見を交わす機会を得たことで、その後の仕事もスムーズに話が進むようになった気がします。
感慨深かった話があります。それは、私たちが東洋ガラスで「新市場創造」や社内提案制度の発足、グループ横断の有志活動を始めたのをきっかけに、親会社の東洋製罐グループホールディングスにもイノベーション推進の部署ができたこと。
有志活動や新事業への挑戦を通じて、社内に新たな風を吹き込めたのだと思うと、続けていて良かったなと感じます。

いろいろな活動をするから、自分の仕事の良さがわかる

古屋少し答えにくい質問かもしれませんが、多くの方が気になるであろう質問をぶつけたいと思います。
みなさんはアクティブに有志活動を行ったり、社外の方とも積極的に交流しています。転職や独立を考えたことはないのですか。

一杉確かに、核心的な質問ですね。ただ、私はフラットに考えていて、会社は究極的には自分がやりたいことを実現するための「箱」でしかないと考えています。
つまり「辞めるかどうか」は選択肢でしかない。自分の成し遂げたいことが今の組織でできるのか、別の場所の方が良いのか、それを判断基準にしています。
なので、少なくとも今は転職は考えていないですね。

北野実は社内でジョブチェンジをする前に、少しだけ転職活動をしたことがあるんです。そのとき、はじめて他社の考えや仕事に触れて……改めて自社の魅力に気づけたんですね。
結果、今の会社で何をやりたいか、どこを変えていきたいかが明確になったので、残る決断をしました。逆説的ですが、今思い返すと転職活動をして良かったな、と感じます。

加藤私も、育休から復帰したてのころは転職を考えたこともありました。理由は、私がロールモデルにしたい、育休明けの先輩社員が、社内で見つけられていなかったからです。
ただ、いろいろと考えていくうちに「ロールモデルがいないなら、誰かをお手本にしたり目指すのではなく、自分なりにつくったらいいんじゃないか」と考えが転じまして。
世の中で今はパラレルワークも広がってきていますし、一社に自分のリソースをすべて注ぎ込む必要もなくなってきている。
多様な働き方が認められ始めているからこそ、自分なりのワークスタイルを模索したいな、と考えています。

古屋興味深いデータがありまして、副業や社外の活動をしている人ほど、自社のことが好きなんですよ(※1)。
みなさんのお話を聞いていて、いろいろな世界を見ているからこそ、自分の仕事の良さが誰よりもわかるんだろうな、と説得力を感じました。

それぞれの「今できる一番小さな行動」とは

古屋最後になりますが、私は「自分が今できる一番小さな行動」をとれるかが、キャリアを大きく左右すると考えています。ぜひ、みなさんの「明日や来週できる」目標を聞かせてください。

一杉私は「誰にでもできることをやる」ように心がけています。誰でもできるのに、案外誰もやらないことって、この世にあふれているんですよね。ですから、私は「誰にでもできることを、誰にも真似できないレベルまでやりきる」を目標に据えて、毎日取り組もうと思っています。

北野私は……明日から妻を下の名前で呼ぶことにします。というと、突飛かもしれませんが(笑)。もちろん、理由があります。それは、家庭や家族の平和を本気で考えることも、本業や有志活動を含めた、自分を取り巻く環境の前進に繋がるのではないか、と思うからです。
先ほども申し上げたように、私は有志活動によって本業が活性化するという、良いスパイラルを常々感じています。だからこそ、ここに家庭というスパイラルを加え、3つが良いサイクルを描くように変えていきたい。これが明日、いえ、今日からできる私の目標です。

古屋身近なところで始められることから始めることはとても大切です。多くの当たり前のアクションがありますが、それを当たり前に実行できる人はそんなに多くないんですよね。加藤さんはどうでしょう。

加藤私は、有志活動とは別に、イノベーターが集って交流するコミュニティ「スナックゆかり」を主宰しています。ですから、近々「ゆかりんとオンライン飲みツアー」をやりたいです。
お酒を飲めば、みなさん気持ちがほぐれて自由に思いを語れるじゃないですか。私は、有志活動の本質は「自分は何がしたいのか」を呼び起こすことにあると思っています。
ですから、時にはお酒の力も借りながら、どんどん対話の場や交流のきっかけを作っていきたい。これが、明日からの私の密かな目標です。

古屋ありがとうございます。ベンチャー企業で働いたり、起業をしたり。いろいろなキャリアの選択肢がある中で、大企業に所属していても積極的に活動できる。行動を起こす場というのはどこにでもあるんだ、と再認識しました。
今後もみなさんの活動を通じて、どんな新たな価値が生み出されるのか非常に楽しみです。本日は、ありがとうございました。

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(執筆:高橋智香)