若手をとりまく職場環境の実態検証新入社員の多様化を象徴する「入社前の社会的活動」

職場環境よりも変化する、新入社員自身

前回は、ここ数年の職場環境の変化が新入社員にどう認識されているのかという点を検証した。それとともに重要なのは、職場環境の変化は社会的な要請に基づき“法律が変わった”ことによって引き起こされている構造的なものだということである。これは、元に戻ることは難しい「不可逆な変化」である。

さて、インタビューをしていた際に、この職場環境の変化とは別に、新入社員自身の新たな変化について示唆を得ることがあった。「入社前に地元のコワーキングスペースの運営に携わっていて…」「スタートアップで2年間働いていて…」といった社会で活動した経験を持つ若手が一定数存在したのである。また、重要なのがその多くにおいて、その経験と現在の職場環境を比較する視座を有していたことであった。
この点について調査で検証したところ、大手企業の新入社員の多様性が予想以上に広がっており、さらに入社前の社会的な活動経験が入社後の企業・職場への認識に強く関係している可能性が発見された。これが今回のテーマである。

多様化を見る視点

ライフスタイルも趣味も時間の使い方も多様化していると論じられる若手であるが、前回検証した企業・職場観についても平均値で捉えきることは難しい。更なる検証のため様々な要素を検討したところ、企業・職場観に与える影響が大きい要素として一つの視点が発見された(※1)。それが「入社前の社会的活動量」である。図表1は入社前の社会的活動についてたずねたもので、複数回答で参加した・実施したことがある項目を選択してもらった。質問項目は、高校や大学在学中に行うことができる学校外の社会人や企業等と繋がる活動として設計している。

図表1 入社前の社会的活動についての質問項目
入社前の社会的活動についての質問項目図表1の項目について、現在の大手企業の新入社員(20192021年卒)における実施率は以下の通りであった(図表2)。最も多かったのは、「複数の企業・職場の見学」であり46.2%、最も少なかったのは「起業や法人設立の経験」で2.9%であった。

図表2 入社前の社会的活動の実施率(2019-2021年卒)入社前の社会的活動の実施率(2019-2021年卒)こういった活動について、各年代別に経験量を測定している(図表3)。こちらからは、年代を追うごとに、社会的活動経験量が増加しているという傾向を確認できる。「4以上」であった回答者は5.4%から11.5%へと倍増しており、同様に2-3回と複数回経験していた者も32.5%へと増加し、2回以上の複数回以上の経験している者は合わせて44.0%に上っている。他方で、経験が「全くない」者は現在の新入社員では27.5%と決して少なくはないが各年代より低いことがわかる。

図表3 入社前の社会的活動経験(年代別)(%)
入社前の社会的活動経験(年代別)(%)

同じ大手の新入社員でも職場の見え方が違っている

学生時代に社会的活動をすること自体の評価については様々な議論があるが、ここではその効果を検証することを目的としていない。本稿で伝えたいのは、「入社前の社会的活動経験の多寡から、新入社員の企業・職場観の多様性が見えてくる」という点である。具体的に検証していこう。

例えば、初職への評価点については入社前の社会的活動の経験量が多い新入社員ほど高い傾向があることがわかった(図表4)。4回以上のグループでは6.93点、23回では6.51点、1回では6.16点、全くないグループでは5.77点と経験が多いほど評価点が高い傾向があることがわかる。

図表4 初職への評価点(10点満点)(20192021年卒)(入社前の社会的活動経験別)
初職への評価点(10点満点)(2019-2021年卒)(入社前の社会的活動経験別)また、新入社員の自分のキャリアの現状認識をスコア化した2尺度(キャリア満足感スコア(※2)、いきいき働くスコア(※3))についても、活動経験が多いグループがより高い傾向となっていた。両スコアについて多少の差異はあるが、活動経験が4回以上のグループが最も高く、全くないグループで最も低い。もちろんこれは自己評価ではあるが、経験の多寡によって初職での就労状況やその認識がかなり異なっている可能性がある。

図表5 キャリアの現状への認識(20192021年卒)(入社前の社会的活動経験別)
キャリアの現状への認識(2019-2021年卒)(入社前の社会的活動経験別)

「不安」を感じる、社会的活動経験が多い新入社員

では単に社会的活動経験が多い新入社員は楽しく働けて、会社のことも好きでハッピーである、という話なのかというと、そうではない。
前回、現在の新入社員の「不安」感は決して低くないということを示したが、この点についても入社前の社会的活動の経験量と一定の関係が見られている。具体的に「不安だ」という項目に「あてはまる」と回答した割合は経験4回以上で41.9%と、全くないグループの26.2%と比較して高い傾向が見られる。

図表6 「不安だ」という項目にあてはまると回答した割合(%)(20192021年卒)(入社前の社会的活動経験別)
「不安だ」という項目にあてはまると回答した割合(%)(2019-2021年卒)(入社前の社会的活動経験別)

さらに掘り下げて前回、現代の新入社員のほぼ半分(48.9%)が「強くそう思う」または「そう思う」と回答していた、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」か、という調査項目を例に挙げて検討する(図表7)。この結果を見て頂いたうえで、筆者は3つのポイントがあると考えている。

一つ目は「強くそう思う」「そう思う」と答えている人の割合が、経験が多くなると増えていることである。経験4回以上では合わせて58.0%となっており、これは全くないグループの合計40.4%と比較して高い。
二つ目は「全くそう思わない」「そう思わない」も、経験が多いグループほど多いということである。一点目と矛盾するようだが、少なくとも減少はしていないことがわかるだろう。
三つ目のポイントは、一点目・二点目の帰結として、「どちらでもない」割合が、経験増とともに急速に減少する傾向が見られることがわかる。経験4回以上では14.7%と全くないグループ(40.7%)の半分以下である。筆者はこの経験量が増えるほどに「どちらでもない」という回答者の割合が減少し、“自分の会社では成長できない”と思う若手と、“自分の会社で成長できる”と思う若手が分化している状況は、入社前の社会的活動経験が現代の新入社員にもたらした会社に対するある種の“見切りのはやさ”が顕在化したものと考える。彼ら・彼女らが保有する入社前の経験が、早々に自社がどっちなのか“見切る”、判断材料を与えているのである。

その傍証となるデータがある。新入社員の離職率だが、経験が多い層ほど高い結果となっている(図表8)。初職離職率は、経験4回以上では25.4%に上り、1回や2-3回グループでは20%前後。他方で全くないグループは11.7%と低い。この結果は、自社のことを高く評価し前向きに業務に向かっている新入社員が必ずしも定着しているわけではないことを示しており、現代における新入社員と企業の関係の複雑性を端的に表している。

図表7 「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」の回答割合(%)(20192021年卒)(入社前の社会的活動経験別)
「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」の回答割合(%)(2019-2021年卒)(入社前の社会的活動経験別)
図表8 初職離職率(%)(20192021年卒)(入社前の社会的活動経験別)
初職離職率(%)(2019-2021年卒)(入社前の社会的活動経験別)

新入社員の“大人化”

前回は大手企業の新入社員が職場を「ゆるく感じる」原因として職場環境の変化・負荷の低下を確認した。今回はこの負荷の低下に加えて、新入社員側の変化に注目し、入社前の社会的活動経験という点で新入社員が5年前・10年前等と比較して大きく変容していることを確認した。その変容を“大人化”と書くと「最近の新入社員は未熟だ…」といった言説とは乖離していると感じられるかもしれないが、しかし確認できた事実は以下のとおりである。

すなわち、かつて多数派だった入社前の社会的活動経験が「全くない」グループはすでに現代の新入社員においては少数派(4分の1程度)である。活動内容も多様化しており、内実はより多彩な若手が存在していると実感している方も多いだろう。筆者が行ったインタビューでも、「男性でコスメブランドと契約を結ぶなど10代からビジネスをしていた同期がいた。しかし、経験のあったマーケティングでもコスメでもない部署に配属され半年で転職した」(※4)といった話があり、一定の新入社員はかつてのように“白紙の状態”ではなくなっている可能性が高い。こうした新入社員に、一律のオンボーディング(組織社会化)施策で良いのか、ゆるい職場を前提とした育成の見直しが必要なのではないだろうか。

また、今回の検証からわかったさらに大きなポイントは、“大人化”した新入社員と、ある種の通過儀礼を通っていない新入社員が大手企業であっても混在しているということである。この混在した環境が状況を複雑にしている。つまり、ひとつの企業のなかに、効果的なアプローチが異なる新入社員が混じりあっており、そして外形的にはその判別が付きづらい状態にあるのだ。
導入研修、配属、キャリアパス、職場におけるコミュニケーション、初期のアサインメント。様々な仕組みが新入社員のどの層にとって、どのような効果をもたらすのか。本研究プロジェクトではこの観点で検証を行っていく。

古屋星斗

(※1)調査は、リクルートワークス研究所(2021)「大手企業新入社会人の就労状況定量調査」。インターネット調査にて、20211115日~20211122日実施。サンプルサイズ 2680。対象:大学・大学院卒、就業年数3年未満、初職・現職が正規雇用者であり従業員数1000人以上の就業者(サンプルサイズ967)。対照群として就業年数4-6年、8-12年、19-21年を同様の条件で聴取している(サンプルサイズ1713)。回収にあたっては、厚生労働省人口動態統計に基づき、居住地割付を行っており、加えて性別ウェイトを用い男女比が正規社員の人口動態と合致するよう集計した。
(※2)「現在のあなたの仕事やキャリアに対する満足感について、もっともあてはまるものを選んでください」という質問において、以下5項目をリッカート尺度5件法(満足している~不満である)によって聴取した結果を、因子分析(最尤法・プロマックス回転)によって分析した尺度のスコア。なお因子分析は全回答者によって実施している。項目は、「自分のキャリアにおいて、これまで成し遂げたこと」「将来の目標に向けた、これまでのキャリアの進み具合」「目標とする将来の収入に向けた、これまでの年収の増え具合」「目標とする仕事や社会的な地位に向けた、これまでの進み具合」「新しい技術・技能を獲得するための、これまでの進み具合」。Spurk, D., Abele, A. E., & Volmer, J. (2011).をリクルートワークス研究所で邦訳して使用した。
(※3)「以下の各質問に対するあなたの現在の考え方について、もっとも近いものを選んでください」という質問において、以下5項目をリッカート尺度5件法(よくあてはまる~全くあてはまらない)によって聴取した結果を、因子分析(最尤法・プロマックス回転)によって分析した尺度のスコア。なお因子分析は全回答者によって実施している。項目は、「仕事は、私に活力を与えてくれる」「仕事内容に満足している」「私の仕事は、私自身をより理解するのに役立っている」「上司、または職場の誰かが、私を個人として気にかけている」「今の仕事では、自分の強みが活かせていると思う」。リクルートワークス研究所が作成した尺度である。
(※4)広告代理店,2019年卒,女性,マーケティング部署所属