機械化・自動化で変わる働き方 ―接客調理・販売編レジの無人化が急速に進み、商品陳列作業も徐々に省人化する

【まとめ】自動化・機械化による働き方の進化  販売編(後編)

セルフレジの普及や食品カートの高機能化でレジの業務は徐々に減少に向かう。またロボットやAIの支援により販売従業員の身体的な負荷は減少していく一方、「売らない店」など新たな動きも始まっている。後編では「レジ・接客」「陳列・補充・棚卸」「管理・販促」各タスクの自動化・機械化の可能性と働き方の変化について予測する。

レジ・接客の自動化・機械化と働き方の進化

レジ・接客の自動化・機械化と働き方の進化

■レジ業務は徐々に減少し、体験や1to1サービスを提供するタスクへ

レジ業務は無人化に向けた動きが加速していくだろう。既にフルセルフレジ、セミセルフレジが大手スーパーでは日常の風景となっており、地域のスーパーにも拡大していくと見込まれる。無人レジには様々な形態がある。アメリカではアマゾンが展開する「Amazon Fresh」が、購入した商品の種類や量などをカート内のカメラや重量センサーで検知する「Amazon Dash Cart」を導入している。客はカート付属の端末で個人認証を済ませた後、カートに購入商品を入れたまま店外に出れば、そのまま決済できる。国内では、福岡市に拠点を置くトライアルホールディングスが自動化の先端を走っている。同社が導入を進める「レジカート」はタブレット端末とバーコードリーダーを搭載しており、客はあらかじめプリペイドの会員カードに入金しておいて、カードや購入商品をバーコードリーダーで読み取る形式をとっている。買い物後は専用ゲートを通過すれば決済が自動的に完了する。トライアルでは年齢確認不要の酒販売も試験的に導入し、プリペイドカード登録時に顔情報と免許証などを登録することでカメラに顔を読み取らせれば酒類の決済が可能となる。

コンビニエンスストアではファミリーマートが無人型決済店舗の出店を加速させ、2024年度末までに約1000店を展開する方針を掲げている。同店舗は天井にカメラを設置し、来店客が手に取った商品をリアルタイムで認識し、客が決済エリアに立つとタッチパネルに商品と購入金額が表示され、決済には電子マネーやクレジットカードなどが利用できるようになっている。
進化するレジ最近では、EC市場の拡大によりわざわざ店舗に赴かなくとも様々な商品が手に入るようになっていることから、店舗で提供する価値の見直しも始まっている。衣料品通販のZOZOは完全予約制の実店舗「niaulab(似合うラボ)」を表参道に開業、1人あたり2時間かけてAIが提案したスタイリングを参考にスタイリストがコーディネートし、利用者は試着した状態でヘアメイクや写真撮影も可能だ。販売機能は持たず、客は商品情報が入った二次元コードを受け取りECサイトで購入する。丸井が展開する「売らない店」では、ECだけで販売してきた新興企業のブランドを扱い、店舗を持たない人気ブランドを丸井の店頭で「体験できる」ことを売りにしている。こちらも店頭では採寸や顧客とのコミュニケーションが主で販売は行わず、販売はECサイト上で行う。

商品の購入が実店舗で行われるか、インターネット上のサイトを通じて行われるかは、消費者の利便性やコスト構造に依存すると考えられる。消費者の利便性という観点から、実店舗に比較優位がある要素としては商品がその場ですぐ手に入るということがある。生鮮食品や日用品など購入頻度が高く、緊急度が高い商品については引き続き実店舗が必要となるだろう。一方で、そうでない商品は店舗まで足を運ぶ必要がなく、自宅でゆっくりと購買活動を行うことができるECサイト上での購入が主流になると見られる。コスト構造も大きく関わってくる。商品の個別配送による輸送費用と店舗におけるテナントコストや人件費との見合いによってECサイトと店舗における相対価格が決定され、結果的にコスト優位性を持つサービスのほうがより普及していくだろう。また、消費者が購入行動をする目的によるところも大きい。自ら選んで購入する「目的買い」はECが主流となる一方、偶然との出会いや未知の体験、洋服の採寸やメガネのコーディネートなど個人へのカスタマイズ、あるいはバラエティショップやアウトレットのような買い物そのものを楽しむ空間としての店舗は存在し続けるだろう。

陳列・補充・棚卸の自動化・機械化と働き方の進化

陳列・補充・棚卸の自動化・機械化と働き方の進化

■単純作業はロボットにシフト、人はより魅力的な棚割を創造

スーパーマーケットや家電量販店などにおいて多種多様な商品の陳列作業を自動化するのは難度が極めて高く、当面は人と機械の協業を目指す形になるだろう。例えば飲料などは商品の重量が重く、品出しをする従業員の身体に大きな負担がかかる業務である。イトーヨーカドーでは品出し支援ロボットを試験的に導入し、従来、人が運んでいた品出しカートに自動的に着脱可能な仕様にして、ロボットが自律搬送することで作業の負担を軽減する。コンビニエンスストアでも陳列ロボットの試験導入が行われている。スタートアップのTelexistenceは2020年9月開業のコンビニエンスストア「ローソンModel T東京ポートシティ竹芝店」に遠隔操作ロボットを試験導入、オペレーターが店舗のバックヤードに設置した陳列ロボットを遠隔操作し、飲料やおにぎりなどを陳列する試みを始めている。日商50万円の店舗の場合、1日3000回の陳列作業があり、それを安定的にこなすようになれば大きな省人化が可能となる。

商品補充の観点では欠品を起こさないことが最重要課題となる。欠品が出ないように人が24時間売場を見張るには相当な労力がかかるが、将来的には人に代わって商品を監視するのはAIカメラの役割になるだろう。前述のトライアルホールディングスの「AI冷蔵ショーケース」ではAIカメラが取得した画像データから欠品情報を数値化し、発注時に過去の履歴から機会ロスが大きいと判定された商品についてアラームを発信してロスの解消に活かしている。アメリカでは店員の生産性を上げる「AIバーチャルアシスタント」を提供する企業も登場し、AIが来店客の質問に対する回答や在庫数の確認、在庫切れの商品のオンライン注文などをアシストする。

棚卸についてはRFID(電波を用いて、RFタグのデータを非接触で読み書きするシステム)が普及すれば、その作業の多くを縮減することができるようになるだろう。従来のようにバーコードを1点ずつ読むことは時間のロスや人的なミスを生じやすいが、導入済みのワコールでは棚卸にかかる労働時間が5分の1になり商品のカウントミスなども大きく減少している。

品出しや陳列作業のすべてを完全に自動化することは短期的には難しいと見られるが、上述したような変化によって、代替が可能なところから少しずつ機械の導入が進み、人とロボットが手分けをする仕事の仕方にその姿を変えていく。AIカメラなどで収集したデータから、より顧客が迷わずより多くの商品を購入したくなる売場づくりに取り組むことがタスクになっていくだろう。

管理・販促の自動化・機械化と働き方の進化

管理・販促の自動化・機械化と働き方の進化

■発注や値引きの判断はAIに依存、人はメタバースなど機会創出へ

廃棄ロスや返品率の改善など、発注精度の低さに伴う物流の無駄解消は小売業の大きな課題である。廃棄ロスの改善策の1つは、需要に応じた精度の高い発注を行うことにある。大手コンビニエンスストアではAIによる発注支援システムの導入が進む。ファミリーマートではAIが店舗ごとに売れ筋の商品を提案し、発注の精度を高め売上拡大につなげている。セブン-イレブンでも2023年春にAIを活用した発注支援システムを導入することで発注作業にかかる時間を約4割短縮する見込みだ。

廃棄ロスの解消には適切なタイミングで値引きなど価格調整を行うことも重要であるが、従来はこの作業を豊富な経験やノウハウを持った従業員が担っていた。こうしたなか、トライアルではカメラと電子棚札が連動した自動値下げのシステムを総菜売場に導入している。カメラで商品の残数を確認し、残数が多い場合などは適正な値引き価格を自動表示、売れ残りを回避している。

アパレルの返品作業では、従来店舗のバックヤードや流通センターで個別商品の検品や仕分け作業が発生していたが、RFIDの導入で箱に詰めた状態で一気に記録することが可能になり、省力化に寄与している。

スーパーの販促ではこれまでチラシ配布や場合によっては店頭での声掛けなどを行ってきたが、新聞購読者の低下やコロナ禍での声掛けが憚られるといったこともあり、店頭でのデジタルサイネージの活用が注目されている。大型のディスプレイをエンドコーナーなどに配置して特売商品や旬の商品、店長のおすすめ、商品のストーリーなどをアピールする。近年はメタバースへの小売業の出店も相次ぎ、百貨店を再現した建物内で3Dのワインや果物を陳列販売したり、アバターが通販ショップのブースで試着したりすることができるようになっている。こうした新しい購買体験も一部で普及していくかもしれない。ただ、現状を見るといずれも出店に多額の費用がかかり、ECサイトの収益だけで採算をとるのは難しい状況にあることも相まって先行きは不透明である。

自動化・機械化実現への課題と働き方の未来

■ロボットフレンドリーな環境の整備と個性化のための知恵は不可欠

小売店舗の自動化にあたっては、ロボットフレンドリーな環境整備は不可欠となる。例えばロボットによる商品棚における欠品検知や在庫管理、商品把持と自動陳列の実現には、全周囲の三次元情報(形状、色、透明度等)やロボットによる商品のハンドリングに必要となるメタデータ(重量、物性、把持禁止領域等)の整備が必要となる。経済産業省では陳列棚の商品認識の基本技術やAIの共通基盤技術として商品を撮像する装置などの開発、商品画像データの仕様の明確化、商品情報データベースの構築などに係る研究開発に業界横断で取り組むよう要請している。ロボットの開発・設計は数少ないスタートアップなどが取り組むケースが多く、導入企業側の自動化に関わる人材も限られている。このため小売業の業務を理解して自動化に関われる人材の育成が課題の1つである。

自動化への最も大きなハードルは、ほかの職種と同じくコスト面になる。無人型店舗の普及には、店内のカメラやセンサーなどにかかる初期投資やランニングコストの低減が不可欠になるだろう。

電子タグ(RFID)やメーカー、物流事業者、小売業横断で物流の効率化を目指すフィジカルインターネット構想のように全体の生産性向上に向けた標準化が徐々に始まる一方、自動発注など発注最適化に向けたデータ標準化などについては個社での取り組みが多く、業界全体としての検討はまだあまりされていない。また、需要予測、値付けへのAI活用については、人の判断をサポートするものとして期待がかかる一方、最終的に判断するのは人であることは変わらない。それだけに収益や生産性を左右するメカニズムについては、店長をはじめあくまで最終決定者である人が熟知している必要があるだろう。

店舗の完全無人化まで実現できる業態はそこまで多くはないだろうが、今後、レジの無人化は進み、商品陳列などの作業も徐々に省人化していくだろう。一つひとつの店舗がより少ない人数で収益を上げることができるようになれば、そこで働く従業員の賃金も上昇していくだろう。AIによる発注や棚割りが進む一方、店としての個性の発揮、差別化のためにはイベント、サービスの企画や独自の品揃えを実現する人の知恵は必要とされる。自動化によりいわゆる単純作業や無駄な移動、販売機会ロスなどが減る一方、本来時間を割くべき1対1の接客、マーケットの変化を反映した売場づくりや新たな仕入れ先の開拓、さらなる生産性向上の追求、そして人材育成など従業員はより創造的な業務に注力できるようになるだろう。

(執筆:高山淳、編集:坂本貴志