機械化・自動化で変わる働き方 ―接客調理・販売編資本集約型産業への転換に向けて、消費者の協力も不可欠に

【まとめ】自動化・機械化による働き方の進化  接客・調理編(後編)

コロナ禍を契機に配膳ロボットや非対面での接客、会計処理は飲食・宿泊サービス業界の一部で定着した。こうした動きは今後も継続するのだろうか。後編では、「受付・決済・管理」「接客・配下膳・客室サービス」「調理」各タスクの自動化・機械化の可能性と働き方の変化について予測する。

受付・決済・管理の自動化・機械化と働き方の進化

受付・決済・管理の自動化・機械化と働き方の進化

■フロントや会計の行列は解消へ。さらなる自動化の計画や複数店舗の運営も

ホテルや旅館、飲食店の予約やチェックイン・アウト、部屋や予約席への案内、会計などの業務は比較的早期にセルフ化、自動化が進んでいくだろう。既に一部の大手飲食チェーンでは完全無人でのサービス提供が実現している。実際に「くら寿司」では店舗スタッフと顔を合わせることなく、スマートフォンで席の予約ができ、注文はテーブルのタブレット端末、会計もセルフレジで済ますことができる。人によっては、入店から出店に至るまで一度も接客を受けずに飲食をすることも可能になっている。2023年度中にはスマホ決済アプリを導入している店舗が7割に達するという調査もある。

「変なホテル」もフロントの無人化を目指して運用を行っている。法令等による規制が少ない韓国の店舗においては、ホテル以外の場所からのチェックインが可能になっており、スマートフォンがそのままルームキーの役割を果たす形で入室することができる。国内の店舗では法令等の規制によってバックヤードで従業員が待機しているものの、フロントでは壁に映し出された恐竜や執事の映像がチェックインの案内を行っており、人手を介さずに入室手続きが可能。チェックアウトも自動精算機で瞬時に終わるため、従来のようにフロント前に行列ができることはない。

現状、飲食店や宿泊施設の店長・管理者は管理業務のほかに現場の従業員のフォローなど数多くの業務に追われ、長時間労働が常態化している。自動化が進んでいけば、管理者の業務もサービスの前面に立ち「自らやってみせる」のではなく、システムのモニタリングやタイムスケジュール管理、シフト人員の確保といった業務に集約されていくだろう。細々とした業務は各店舗の従業員に任せ、支配人はリモートによる現場への指示出しや複数店舗の同時マネジメントを行うことも可能になるはずだ。

また、ホテルでは需給に応じて部屋の最適価格を導き出す「レベニューマネジメント」が普及するなど、管理業務もAIなどデジタル技術によって効率化していくことになる。支配人のタスクはAIの提案に対する最終的な可否判断や季節や地域性などと連動した販促企画、従業員のマネジメント業務などにシフトしていく。店舗における機械化・自動化は段階的に進むと予想され、次にどのプロセスへどういったロボットを導入すると効果的なのかを考え、実際に現場へ導入するまでのプロセスを検討することも重要なミッションとなるだろう。顧客データを収集することで顧客の好みが可視化され、本人が望む場合は行きつけのレストランでその日の体調などに合ったメニューをAIが提案するようになるかもしれない。

接客・配下膳・客室サービスの自動化・機械化と働き方の進化

接客・配下膳・客室サービスの自動化・機械化と働き方の進化

■配膳ロボットは急速に普及、ホテルの搬送ロボットは裏方で活躍

スマートフォンやタブレットによるオーダーが定着することで、注文内容はそのまま厨房に伝達され、ディスプレイなどに順番やテーブルナンバーなどが自動的に表示される。将来的には、注文を受けて入力し、それを厨房に伝えるこれまで接客係が担っていた作業はほぼすべての店舗でなくなっていくだろう。

配膳・下膳については、足元でもコロナ禍によって、ファミリーレストランや焼肉、回転すしチェーンなどで非接触型の配膳ロボットの導入が加速している。あるロボットメーカーが飲食店に行ったアンケートでは約2割に配膳ロボットが導入済みで、そのうち8割近くが「導入してよかった」と評価している。配膳ロボットの市場価格は平均300万円程度とされており、小規模店舗では動線確保も含め導入が難しいのが現状である。ただ、スタートアップがその3分の1の価格で、高精度のセンサー搭載により障害物をよけて自走する機能を備えた配膳ロボットを売り出すなど、配膳ロボットに関しては品質の向上や価格の低下が進んできている。配下膳の最も大きな課題は食器類をピッキングする工程になるが、アーム付きの配膳ロボットも試験的に導入されており、中国では食べ終わった皿の回収などが可能なタイプも登場している。ピッキングに関しては、完全に自動化し、ロボットだけで食卓から厨房まで配下膳するというところまでは、コストや安全面などで実用化のハードルが高そうだ。まずは人が配膳ロボットに寄り添う形で、ロボットと食器の受け渡しを行う方式の定着が進むだろう。

宿泊施設の接客・客室サービス業務に目を移すと、高層ビルにある「名古屋マリオットアソシアホテル」では、2階と15階のフロント間を搬送ロボットがスーツケースを積んだカーゴを載せて運搬する。ほかにも、都内のホテルで深夜に数百㎏のリネン類を自動で運搬するロボットやフロントから客室までアメニティー用品を届ける自律走行型ロボットの導入が始まっている。

一方で、清掃やベッドメイキングの自動化は簡単ではないだろう。「変なホテル」では外注費の削減を目的に清掃ロボットの導入も試みたが、部屋の隅やベッドの下、テーブルと壁の隙間など細部の清掃が難しく、結局は人の手に戻している。実装するには、ホテルの設計段階から部屋の形状や家具の配置をロボットによる清掃を想定して造る必要がある。

調理の自動化・機械化と働き方の進化

調理の自動化・機械化と働き方の進化

■調理の基本動作はほぼ自動化が可能、残るのは人の感性が反映される部分

五感を働かせる調理作業の自動化は一見ハードルが高そうだが、飲食店や食品工場で働くスタッフの作業の一部をロボットに置き換えることは可能だろう。例えば、惣菜工場などにおいても、形が不揃いな食材を正確に画像認識し、つかむ一連の動作が可能な調理ロボットが登場しており、ポテトサラダなど粘着性のある材料を均等に盛り付けるタスクを代替している。こうした分野で先行するベンチャー企業では、ポテトを自動で揚げるフライドポテトロボットやそばを自動でゆでるそばロボット、ビールやサワーなどの飲料を自動で注ぐビール提供ロボットなどを開発、実用化しつつある。

一方、フードテック事業を手掛けるTechMagicは2022年6月に丸ビル内の「エビノスパゲッティ」で8種類のパスタの仕込みと盛り付け以外のオペレーションを完全自動化しており、1~2食目は75秒、3食目以降は40秒程度で作ることが可能になっている。最後の具材の盛り付けはあえて自動化していないが、そこには人間の感性が反映され、付加価値を生むタスクだからだという。調理の作業を自動化していくにあたっては、付加価値の低い食材の計量や洗浄、簡単な調理などは機械に任せ、人は素材選びやレシピづくり、盛り付けなど付加価値の高い部分に集中することになるだろう。

TechMagic代表の白木裕士氏は「炒める、ゆでる、揚げる、焼くといった動作はほぼ自動化の目処が立っている。それらを組み合わせれば居酒屋など多品種小ロット型の業態も将来的に自動化の可能性は残されるが、導入コストやスペースとの見合いで経済的合理性が見込めるかどうかがポイントになる。これから重要になるのは調理を科学することだ」と語る。膨大な調理データが蓄積されていけば、AIによる味付けの最適化が可能となり、究極的には一人ひとりに合わせて味や量をパーソナライズしていけるようになるでしょう、と白木氏は強調する。

自動化・機械化実現への課題と働き方の未来

■機能性重視ならセルフサービスや均質性を受容すべき

飲食・宿泊サービス業界では、労働力人口の減少や相対的に低い賃金水準などから人手不足が深刻化していくことは避けられそうにない。必然的にフォーマットがある程度決まっている大手のレストランチェーンや回転すし、たこ焼き、ハンバーガーなどの業態で自動化が加速していくだろう。

スマートフォンでの予約、注文、決済は早晩スタンダードとなる。調理や配膳、下膳は部分的に自動化が進むが、コストパフォーマンスや前後の工程との関係から人とロボットの協働が進むだろう。大衆店では自動化が進むことでより低コストで質の高いサービスを享受できるようになる一方、ロボットにはできない凝った料理やホスピタリティあふれるサービスを提供する店舗も残り、サービスの二極化が進むことになる。

自動化の障壁となるのは、店舗や客室の狭さなど空間的な制約、ロボットができない作業のセルフサービス化などに対する消費者の受容性、多様な業態にロボットをどうカスタマイズするかなどといった点があげられる。特に、飲食については提供メニューや店舗形態が多岐にわたるため、スケールメリットの追求が難しい。個人経営の食堂や居酒屋などの自動化はかなり先のことになるだろう。

店舗や客室の面積については、都心部などを中心に狭くなることは避けられず、会計など部分的な自動化にならざるを得ないケースも多い。また、ホテルの客室の清掃などは施設の設計段階から自動化を想定した構造を考える必要があり、一朝一夕には業務効率化は進まない。

消費者の受容性については顧客が何を重視するかによるが、機能性重視が前提であればホテルのチェックイン・アウトやレストランの配膳・下膳時の受け渡し、ルームサービス時のロボットによる受け渡しなどは抵抗なく受容できるだろう。顧客側がホスピタリティや昔ながらの手作りの味、属人的な接客にこだわるなら、高付加価値のサービスを選択することが必要になる。消費者側は、サービス価格の高低に応じて自身が望むサービスを選択していくことになるだろう。

今後は、大手のレストラン、専門店、ホテルチェーンを中心に予約、注文、会計や配下膳、調理の部分的な自動化が進むが、ベッドメイキングに象徴されるロボットによる代替が難しい作業や、クレーム対応や機械の修繕対応、盛り付けや販促イベントなど高付加価値サービスに関しては人の介在が依然として必要になる。「ロボットの導入を設計する人」と「ロボットと協働する人」に分かれ、前者は最新ロボットの情報収集、自店の業務分析や導入可能性の検討、製品の選択やカスタマイズなどを担う。後者のタスクは、現場オペレーションとその改善、店員の教育、お客さま対応、アプリなどの使い勝手の改善などになるだろう。一部では、昔ながらの人の感性が求められる接客や繊細な技を極めた調理の仕事は残るだろう。

(執筆:高山淳、編集:坂本貴志